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22、アルノルトの帰還

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 アルノルトが旅立ち1年が過ぎた。
 アルノルトが旅立ってから、デイノルトとサミュエルは内政改革を始めた。
 少しでもアルノルトに良い人材を残す為だ。

 今までは魔王幹部は世襲制だったがそれを撤廃し、能力が高い者を幹部にするようにした。
 魔界国立学校も魔族なら誰でも入学出来るようになった。
 古参の幹部から激しい反発もあったが、サミュエルがなんとか黙らせた。

 サミュエルは先祖代々宰相の家系だ。
 一番世襲制の恩恵を受けた家系と言えよう。
 そのサミュエルが言うのだからと賛同してくれた幹部も多い。
 サミュエル、ありがとう。

「今日もアルからの文はないか?」

「ありませんね。ロレインからはたまに文が来ますが」

「何と書いてあった?」

「一週間前の文にはハイエナル城に行くと書かれていました」

「そうか」

 ハイエナル城とはあの忌々しい城のことである。
 アルノルトの母親が生まれ育った場所だ。
 心配過ぎて吐き気がしてくる。
 やはり行かせない方が良かったかもしれぬ。

「魔王様は心配性ですね。ロレインがいるから無茶はしていないと思いますよ」

 サミュエルはあっけらかんと言うが、サミュエルはアルノルトの母親のことを知らない。
 やはりサミュエルには相談するべきだったかもしれぬ。

 アルノルトの手を離してから様々な後悔が止まらない。
 もっとアルノルトにしてあげられたことがあったかもしれない。
 母親の話をしたことも後悔の一つだ。

 ずっとアルノルトからの文を待っていたが、一度も文が届いたことはない。
 元気にしているのだろうか。
 食事をしっかり摂っているだろうか。
 ケガはしていないだろうか。

 密かに人間界を探らせるが、今のところ特に不審な情報は入って来なかった。

 敢えて不審なところを上げるとすれば、今まではかなり危なげな情報ばかり入って来たのにピタリとそれがなくなった。
 人身売買の噂や誘拐事件、王が乱心しているだの聖女が魔物を使ってキメラを作っていると噂があったのに不思議である。
 代わりに無益な争いを禁じることや人身売買の禁止を宣言している。

 もしやハイエナル城の王が世代交代したのだろうか。

 デイノルトとしては人間界と争わなくて良いのは有り難い。
 人間界と争いになっては内政に力を入れることが出来なくなる。

 国立魔界学校のおかげで魔族の教育も進み、より良い生活が出来るようになってきている。
 若い良い人材も沢山育ち、デイノルトとサミュエルの仕事も少し減らせることが出来た。

「さて、そろそろお昼休憩にしましょうか。今日は魔王様がお好きな物を用意いたしました」

「楽しみだな」

「用意して参りますね」

 サミュエルが執務室から出て行った。

「今日はローストビーフだろうか」

 デイノルトがウキウキしながら昼食を待っていると、サミュエルが慌てて執務室の扉をバタンと開けた。

「魔王様!」

「なんだ騒々しい。貴様らしくないな」

「魔王様、国境近くで王子を見たという知らせが入りました」

 サミュエルが嬉しさを隠しきれないような表情で報告してきた。

「本当か!」

「はい! 今日はご馳走にしましょうね!」

「うむ。貴様もロレインとゆっくり話したいだろう。今日は帰ってよいぞ。ロレインをすぐに帰宅させるから家で待っていてくれ」

「ありがとうございます!」

 親バカのサミュエルはルンルンで部屋を出て行こうとした。
 よほど娘に会えるのが嬉しいのだろう。

「待て。サミュエル」

「はい?」

 デイノルトがサミュエルの手を掴んだ。
 何故自分がそうしたのかデイノルト自身にも分からない。
 もしかしたら嫌な予感があったのかもしれない。

「サミュエル、今日は真っ直ぐ家に帰れ。寄り道はするな。何があっても今日は城に戻るな」

「はあ?」

「分かったな」

「変な魔王様ですね。分かりましたよ」

 デイノルトはサミュエルの手をそっと離した。

「サミュエル、気をつけてな」

 デイノルトが優しげに微笑んだ。

「はい、魔王様」

 サミュエルはデイノルトに丁寧に一礼して部屋を出た。
 まさかそれがデイノルトと永遠の別れになるとはサミュエル自身も思っていなかった。
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