一人息子の勇者が可愛すぎるのだが

碧海慧

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21、アルノルトの旅立ち

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 アルノルトは荷物をまとめると、王子の部屋からそっと出た。
 外は少し明るくなってはいるが、夜明け前である。

「アル」

 突然、後ろから声が聞こえた。

「わっ!」

 アルノルトが悲鳴を上げそうになると、後ろから手が伸びてきてアルノルトの口をふさいだ。

「魔王様と父上に気付かれる。静かにしろ」

 後ろを振り返ると旅支度をしたロレインだった。
 背中に細身の剣を背負っている。

「ロレイン、君は反対していたじゃないか」

 アルノルトはふてくされたように言う。

「アルを一人で行かせる訳にはいかない」

 ロレインは鋭い眼差しでアルノルトを見つめた。
 相変わらず武人のような女の子である。

「ロレインは過保護だなぁ」

「人間界は危険なところだ。魔王様の庇護も受けられなくなる。それを君は自覚しているのか?」

「知っているよ」

 アルノルトが笑うと、ロレインは目を伏せた。

「何だか嫌な予感がする。私はこの旅立ちに賛成は出来ない」

 ロレインがアルノルトの言うことにこんなに反対するのは珍しい。

「じゃあ、ロレインは来なくて良いよ」

 アルノルトはロレインに顔を近づけて覗き込んだ。

「それは絶対駄目だ。アルが行くなら私も行く」

 ロレインは顔を赤くすると、プイッと目をそらした。

「分かったよ。ロレインも連れて行く」

 アルノルトの言葉にロレインはほっとしたような顔をした。

「アル、絶対勝手な行動をするな」

「わかってるって。うるさい奴だな」

「お前は危なっかしいからな。湖に落ちて魔王様とリルに助けてもらっただろう」

「あんまり言うと置いていくぞ」

「それはダメだ。許可出来ない」

「だんだんサミュエルおじさんに似てきてないか?」

「失礼だな。消し炭にするぞ」

 アルノルトとロレインが城を出ていくのを魔王と宰相は静かに見守っていた。

「魔王様、本当によろしいのですか?」

 サミュエルはデイノルトを心配そうに見つめた。

「アルは頑固だから、いくら言っても聞かないだろう。一人で行かれても困る。ずっと狭い箱庭に閉じ込めておくわけにもいかないしな」

 デイノルトは静かにアルノルトを見つめていた。

「そうですね。せめて魔力が使えるようになる16歳まで待って欲しかったのですが……」

「そうだな。ロレインにアルのお守りをさせて申し訳ないな」

「ロレインは王子のお付きですからね。魔王様が気を病むことはありません」

 デイノルトは寂しそうな悲しそうな少し誇らしいような顔をして微笑んだ。

「アルがいなくなると寂しいな」

「それが親というものかもしれませんね。親と子が一緒にいられる時間なんて短いものです」

「俺様は幸せだったのかもしれないな」

「そうですね。私も王子と一緒に過ごせて幸せでした。きっと立派に成長されてお戻りになるでしょう」

「無事に帰って来ると良いが」

 デイノルトが不安そうな顔をすると、サミュエルはデイノルトの頭を撫でた。
 デイノルトは止めろと少し照れながら言った。

「サミュエル、ありがとう」

 デイノルトは少し恥ずかしそうに笑った。

「魔王様、どうされたんです? 変な物でも食べました?」

「失礼だな。俺様はいつでも貴様に感謝しているぞ」

「私はあなたが幸せそうに笑ってくれるだけで十分です」

「止めろよ。気持ち悪いな」

 デイノルトはサミュエルの頭を軽く叩いた。
 サミュエルは嬉しそうに微笑んでいた。
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