一人息子の勇者が可愛すぎるのだが

碧海慧

文字の大きさ
上 下
15 / 24

15、母親

しおりを挟む
 小さなテーブルに所狭しと料理やケーキが並んでいる。
 全てアルノルトの好物ばかりである。
 今日は朝からデイノルトが腕によりをかけて手作りした。
 デイノルトが席に着いて待っていると、アルノルトが部屋に入ってきた。

 美しい銀色の髪、煌めく緑色の目、きめ細かい陶磁のような白い肌、すらりとした体躯。
 並みの者がアルノルトを見たら一目で魅了されるであろう。
 いや、それはさすがに親バカだろうか。

 それにしても、ずいぶん大きくなったものだ。
 デイノルトの腕にすっぽり収まるくらいあんなに小さかったのに。

 サミュエルの娘のロレインから報告があったが、アルノルトは学校では優等生らしい。

 魔力は使えないが剣の腕は一流で、武道大会で優勝したこともあると聞いている。
 アルノルトが出場した武道大会を見に行きたかったが、アルノルトにかなり嫌がられてしまったので諦めざる得なかった。
 本当は行きたかったのに。

 誰にでも優しく、文武両道でかなり女子生徒から人気だということもロレインから聞いている。

 最近、アルノルトはなかなか学校生活について話してくれないから、デイノルトのアルノルト情報はロレインからのみになっている。
 ちょっと寂しいが仕方ない。

 アルノルトが静かに席に着いた。

「アル、15歳の誕生日おめでとう」

 デイノルトは心からアルノルトを祝福した。
 こんなに立派に成長してくれて父様は嬉しいぞ。
 反抗期で生意気なところはどうして良いか分からぬが、とりあえず元気に育ってくれて良かった。
 そして、俺様もよく頑張った!
 自分で自分を褒め称えてやりたい。

 アルノルトは何も言わず、うつむいている。
 ちょっと表情が暗いかもしれない。

「どうした?」

 デイノルトはアルノルトが具合が悪くなったのかと心配になる。
 デイノルトは席を立って、アルノルトに近づいた。

「俺の母様って人間なのか?」

 アルノルトがポツリと呟いた。
 何か不穏なことを聞かれた気がする。

 アルノルトの母親のことはあまり思い出したくないし、大切なアルノルトにも話したくない。

 あの裏切り者を俺様は絶対許さない。

 だが、あの裏切り者の子であるアルノルトはとても可愛かった。
 顔立ちは俺様に似ているしな。
 デイノルトはアルノルトの母親のことを忘れることにしたのだ。

 あの忌まわしい記憶を封印しなければ、ここまで愛情深くアルノルトを育てられなかったと思う。

「アルノルト、貴様に母はいないと言っているだろ……」

「父様が母様の話をしないのは知ってる」

 アルノルトがまっすぐにデイノルトを見つめてきた。

「魔力が使えないのは、俺が人間だから?」

 アルノルトが泣きそうな声で言った。
 もしかして、魔力が使えないから学校でいじめられているのだろうか。
 女子生徒からは人気だと言われているが、男子生徒からは見下されているとか……?

「確かにアルノルトには人間の血が流れている。だが、魔力がないわけじゃない」

 デイノルトはアルノルトの不安が解消出来るようにキッパリと言った。

「どういうこと?」

 アルノルトは納得出来ないというようにデイノルトに食ってかかった。

「あまりに強い魔力だから魔力封じをしてあるだけだ。16歳になったら解除されるから心配しなくて良い」

 デイノルトはアルノルトの銀色の頭をわしゃわしゃ撫でた。
 アルノルトがデイノルトの手を強く掴んだ。

「父様はどうして下等生物の人間なんかと結婚したの?」

 アルノルトの緑色の目がデイノルトを捕らえて離さない。
 アルノルトの目から、目をそらすことが出来なかった。

 そろそろ話すべきか。
 この子には話しておかなければならないことだしな。
 万が一、人間側の誰かに唆されても困る。
 デイノルトにとっては忌まわしい記憶だが、アルノルトには知る権利があるし。

 サミュエルにも他の誰にも話したことはなかった。

「アルノルト、聞いて欲しい話があるんだ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――

敬二 盤
ファンタジー
※なろう版との同時連載をしております ※表紙の実穂はpicrewのはなまめ様作ユル女子メーカーで作成した物です 最近投稿ペース死んだけど3日に一度は投稿したい! 第三章 完!! クラスの中のボス的な存在の市町の娘とその取り巻き数人にいじめられ続けた高校生「進和実穂」。 ある日異世界に召喚されてしまった。 そして召喚された城を追い出されるは指名手配されるはでとっても大変! でも突如であった仲間達と一緒に居れば怖くない!? チートな仲間達との愉快な冒険が今始まる!…寄り道しすぎだけどね。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...