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9、アルノルトの誕生日

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 今日の食事中も険悪なムードだ。

「とうさま。コレやだ」

 本日三歳になったアルノルトが食べかけのパンを投げ捨てた。

「アル。やだじゃない。食べるのだ」

 デイノルトは床に落ちたパンを拾って捨て、アルノルトに新しいパンを渡した。
 アルノルトはピョンと椅子から降りると、床に寝そべり始めた。

「アル! 椅子に座りなさい」

「やだ」

 デイノルトはアルノルトのイヤイヤに悩まされている。
 最近、アルノルトの癇癪は激しさを増しているような気がする。
 本当に魔力封じをして良かった。
 魔力封じしていなかったら、ガチの親子喧嘩に発展しそうだ。
 デイノルトは諦めて、アルノルトを放っておくことにした。

 サミュエルがロレインを連れて、食事室に入ってきた。

「アル。何してるの? ごはん食べた?」

 ロレインがアルノルトのお腹をツンツン触る。
 ロレインはアルノルトと同い年だが、なかなかしっかりしている子である。
 やっぱり兄弟がいると違うのだろうか。

「アルは食べないの」

 アルノルトがふてくされて身体を丸めている。
 デイノルトは諦めて、手下にアルノルトの食事を下げさせた。

「今日は王子のお誕生日ですね。おめでとうございます」

 サミュエルはニコニコしながら、転がっているアルノルトの頭を撫でた。
 アルノルトは拗ねて、顔を地面に押し付けている。

 アルノルトの誕生日はデイノルトと出会った日と決めている。

 実際アルノルトは生まれたてであったし、そんなに誤差はないような気がする。

 それにしても、デイノルトはここまでよく頑張ったな。
 自分で自分を褒め称えてやりたい。
 大きく成長し、元気に寝転ぶアルノルトを見て思う。

 貴様、いつまで寝転ぶつもりだ……

 アルノルトは起き上がると、全力でデイノルトに抱きついてきた。

「ご飯食べる」

 ご飯食べないって言ってただろう!
 ご飯下げてしまったぞ。
 どうするんだ?

「今日は王子のお誕生日パーティーを準備してありますよ。もうすぐ始まりますから、ちょっとだけ我慢出来ますか?」

 サミュエルはアルノルトの頭を撫でながら、ニコニコしていた。
 アルノルトはコクリと頷く。
 何故かデイノルト以外にはイヤイヤを発動しないという不思議。

「アル、パーティーに行こうか?」

「イヤ!」

 デイノルトがアルノルトの手を握ると、即座に手を振り払われた……
 俺様泣いて良いだろうか?

 そして、何の前触れもなく事件が起こった。

 パーティー会場に向かう途中でアルノルトは噴水を見つけたらしい。 

 キラキラ水しぶきを上げる噴水に魅了されたのだろうか。
 アルノルトが突然走り出し、噴水に飛び込んだのだ。
 びしょ濡れになるアルノルト……
 アルノルトは満面の笑みで水で遊んでいる。

「アル!」

 デイノルトはさすがにキレそうになった。
 せっかく、おめかしして着飾ったのに。
 タキシードも蝶ネクタイもびしょ濡れである。
 アルノルトの銀髪から水が滴り落ちている。

「まあまあ、魔王様。そんなに怒ってはいけませんよ。今日は王子のお誕生日ですし」

 サミュエルが笑いを堪えるように肩を震わせている。

「パパ、ロレインもバシャバシャしていいですか?」

 ロレインが少し恥ずかしそうに言った。

「良いですよ」

 サミュエルが許可を出すと、ロレインも水遊びに参戦した。
 ずいぶん二人とも大きくなったものだ。
 ちょっと前まで赤ちゃんだった気がするのにな。

 アルノルトはロレインにパシャパシャ水をかけている。
 ロレインは魔法で水鉄砲を作り、アルノルトに発射した。
 ロレインの水鉄砲で大興奮しているアルノルト。


 アルノルトとロレインが水遊びを堪能した頃を見計らって、服を着替えさせた。

「とーさま、楽しかったね」

 アルノルトがニコニコしている。

 うん……うちの子は世界一可愛い。
 まあ、こんな誕生日も良いのかもしれないな。

 アルノルトがニコニコ元気でいてくれるだけで、十分なのかもしれない。
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