8 / 24
8、ロレイン
しおりを挟む
国立魔界学校にアルノルトを預けるようになって数ヶ月経った。
アルノルトはその間に掴まり立ちをマスターした。
離乳食も順調に進んで、そろそろミルクは卒業出来そうだ。
そして、ついに!
「サミュエル! アルが歩いた!」
アルノルトが覚束かない足取りで、必死に前を向いて歩いている。
デイノルトは自分で思ったより感動してしまって、前が涙で見えなくなった。
サミュエルは必死にカメラを構えている。
「王子ー! 笑顔をお願いします!」
アルノルトは天真爛漫な笑みを浮かべた。
うちの子は世界で一番可愛い。
デイノルトは思わずアルノルトを抱きしめて、頬擦りをした。
「とー」
アルノルトがデイノルトの頬を触りながら言った。
うん……うちの子最高。
アルノルトをいつまでも守り抜きたいと心からそう思った。
「魔王様、ロレインを王子の付き人にしようと思うのですが……」
サミュエルが遠慮がちに目を伏せて言った。
アルノルトの付き人を巡り、魔族の子ども達の間でいじめやけなし合いが発生していると教師から報告があった。
早めに決める方が賢明だろう。
アルの教育にも良くないしな。
「許可しよう。サミュエルの子だから、将来有望だろう。アルが魔王になった時の宰相候補だな」
デイノルトはサミュエルの提案にウンウンと頷いた。
ロレインは魔力量が魔族の中ではピカイチだ。
アルノルトの付き人にピッタリであろう。
「有り難き幸せでございます」
サミュエルは少し顔を赤くした。
貴方様は本当に人たらしですねと小さな声で言った。
「貴様もロレインに宰相を奪われるかもしれないな」
デイノルトはサミュエルをちょっとからかってやろうと思い、わざと意地悪なことを言ってみた。
「何を縁起でもないことを! ロレインはそんなことはしません! でも、私から宰相を奪うほど成長してくれるのは大歓迎ですね」
ロレインへの愛が深い。
サミュエルの父親しかり、サミュエルしかり、飄々としている割には子どもへの愛情が深いのだ。
悪魔族の特徴なのかもしれない。
「ロレイン。アルのことをずっと守ってくれ」
デイノルトはロレインを抱き上げて言った
ロレインは不思議そうに首をかしげている。
「ははっ、言っている意味が分からないか。良い良い。ロレインもすくすく大きくなるのだぞ」
ロレインはキャッと天使のように笑った。
うん、デイノルトの親友の子も可愛い。
「魔族の子ども達がみんな健やかに大きくなることを俺様は願っているぞ」
「魔王様……」
国立魔界学校の教師達が何故か咽び泣いている。
「邪魔をしたな。サミュエル帰るぞ」
デイノルトはロレインに引っ付いているサミュエルを引き剥がし、執務室に戻った。
執務室の椅子に座ると、やりかけの仕事に手をつけ始めた。
「サミュエル。人間界に動きはあるか?」
デイノルトがそう言うと、デレデレしていたサミュエルは真面目な宰相の顔に戻った。
「手段を選ばず勇者を探し続けているらしいです。人さらいが横行しているとか……」
「ふーん。そうか」
「神のお告げでもうすぐ勇者が現れるとか何とか言われたそうですよ。緑色に近い瞳を持つ者は城に閉じ込められているという噂がございます」
デイノルトはサミュエルのこちらを伺うような視線に気がついた。
「貴様はアルが勇者じゃないか?と疑っているのだな」
デイノルトはサミュエルから視線を反らした。
「王子の瞳は先代魔王を倒した勇者にそっくりです」
サミュエルはデイノルトと目線を合わせた。
「貴様は勘がよいな」
デイノルトはサミュエルに笑いかけた。
上手く笑えているだろうか。
「魔王様、私にも話せないことですか?」
「まだ無理だな。気持ちの整理がついていない」
「分かりました」
「もう少ししたら、ちゃんと話すからな」
サミュエル、すまない。
俺様はまだ俺様を裏切ったあの女を憎んでいるのだ。
それに……
デイノルトは腕の古傷にそっと触れた。
サミュエル。俺様があの城でされたことを話したら、きっと貴様は怒り狂うに違いない。
アルノルトはその間に掴まり立ちをマスターした。
離乳食も順調に進んで、そろそろミルクは卒業出来そうだ。
そして、ついに!
「サミュエル! アルが歩いた!」
アルノルトが覚束かない足取りで、必死に前を向いて歩いている。
デイノルトは自分で思ったより感動してしまって、前が涙で見えなくなった。
サミュエルは必死にカメラを構えている。
「王子ー! 笑顔をお願いします!」
アルノルトは天真爛漫な笑みを浮かべた。
うちの子は世界で一番可愛い。
デイノルトは思わずアルノルトを抱きしめて、頬擦りをした。
「とー」
アルノルトがデイノルトの頬を触りながら言った。
うん……うちの子最高。
アルノルトをいつまでも守り抜きたいと心からそう思った。
「魔王様、ロレインを王子の付き人にしようと思うのですが……」
サミュエルが遠慮がちに目を伏せて言った。
アルノルトの付き人を巡り、魔族の子ども達の間でいじめやけなし合いが発生していると教師から報告があった。
早めに決める方が賢明だろう。
アルの教育にも良くないしな。
「許可しよう。サミュエルの子だから、将来有望だろう。アルが魔王になった時の宰相候補だな」
デイノルトはサミュエルの提案にウンウンと頷いた。
ロレインは魔力量が魔族の中ではピカイチだ。
アルノルトの付き人にピッタリであろう。
「有り難き幸せでございます」
サミュエルは少し顔を赤くした。
貴方様は本当に人たらしですねと小さな声で言った。
「貴様もロレインに宰相を奪われるかもしれないな」
デイノルトはサミュエルをちょっとからかってやろうと思い、わざと意地悪なことを言ってみた。
「何を縁起でもないことを! ロレインはそんなことはしません! でも、私から宰相を奪うほど成長してくれるのは大歓迎ですね」
ロレインへの愛が深い。
サミュエルの父親しかり、サミュエルしかり、飄々としている割には子どもへの愛情が深いのだ。
悪魔族の特徴なのかもしれない。
「ロレイン。アルのことをずっと守ってくれ」
デイノルトはロレインを抱き上げて言った
ロレインは不思議そうに首をかしげている。
「ははっ、言っている意味が分からないか。良い良い。ロレインもすくすく大きくなるのだぞ」
ロレインはキャッと天使のように笑った。
うん、デイノルトの親友の子も可愛い。
「魔族の子ども達がみんな健やかに大きくなることを俺様は願っているぞ」
「魔王様……」
国立魔界学校の教師達が何故か咽び泣いている。
「邪魔をしたな。サミュエル帰るぞ」
デイノルトはロレインに引っ付いているサミュエルを引き剥がし、執務室に戻った。
執務室の椅子に座ると、やりかけの仕事に手をつけ始めた。
「サミュエル。人間界に動きはあるか?」
デイノルトがそう言うと、デレデレしていたサミュエルは真面目な宰相の顔に戻った。
「手段を選ばず勇者を探し続けているらしいです。人さらいが横行しているとか……」
「ふーん。そうか」
「神のお告げでもうすぐ勇者が現れるとか何とか言われたそうですよ。緑色に近い瞳を持つ者は城に閉じ込められているという噂がございます」
デイノルトはサミュエルのこちらを伺うような視線に気がついた。
「貴様はアルが勇者じゃないか?と疑っているのだな」
デイノルトはサミュエルから視線を反らした。
「王子の瞳は先代魔王を倒した勇者にそっくりです」
サミュエルはデイノルトと目線を合わせた。
「貴様は勘がよいな」
デイノルトはサミュエルに笑いかけた。
上手く笑えているだろうか。
「魔王様、私にも話せないことですか?」
「まだ無理だな。気持ちの整理がついていない」
「分かりました」
「もう少ししたら、ちゃんと話すからな」
サミュエル、すまない。
俺様はまだ俺様を裏切ったあの女を憎んでいるのだ。
それに……
デイノルトは腕の古傷にそっと触れた。
サミュエル。俺様があの城でされたことを話したら、きっと貴様は怒り狂うに違いない。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
一振りの刃となって
なんてこった
ファンタジー
拙いですが概要は、人生に疲れちゃったおじさんが異世界でひどい目にあい人を辞めちゃった(他者から強制的に)お話しです。
人外物を書きたいなーと思って書きました。
物語とか書くのは初めてなので暖かい目で見てくれるとうれしいです。
更新は22:00を目安にしております。
一話一話短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双
世界るい
ファンタジー
六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。
そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。
そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。
小説家になろう、カクヨムにて同時掲載
カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】
なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる