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7、先代魔王

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 デイノルトとサミュエルが作った『国立魔界学校』は魔界で評判になった。

 特に上級魔族の子息、令嬢はこぞって入学した。
 王子のお付きを争っているという情報もある。

 それもあるかもしれないが、意外と教育熱心な魔族の親が多い印象だ。

 気が乗らない子と親が一緒に勉強している姿も見られる。

 今のところ魔王城の使用していなかった塔を使っているが、早くも手狭になりそうだ。

 敷地内に建て増しをしなければならないかもしれない。

 王子の教育も兼ねているので、魔界中から最高の教師達も探し出した。
 デイノルトは優秀な人材がいないと思っていたが、どうやら埋もれていたらしい。

 中には人間界で魔族であることを隠して、長く教鞭をとっていた者もいる。

 アルノルトが所属しているのは赤子クラスだ。
 様々な魔族の赤子が在籍している。
 魔族によって成長の度合いが違うのが面白い。

 デイノルトとサミュエルは仕事の合間によく赤子クラスに顔を出すことにしている。

「サミュエル! アルがお座りしたぞ」

 デイノルトは思わず声を上げた。
 アルノルトが両手を床について、必死にバランスを取ろうとしている。

「アルはすごいな!」 

 デイノルトはアルノルトのぷにぷにの頬に頬擦りをした。

「すっかり魔王様は親バカですね」

 サミュエルは苦笑いしながら、サミュエルの子ども達の写真を取りまくっている。

 デイノルトはついつい手が空くと、アルノルトを見に行ってしまうのだ。
 だが、デイノルトは親バカではない。
 断じてない。

 アルノルトには厳しく接しているつもりだ。
 アルノルトは将来、魔王になる男だからな。
 デイノルトの子とは認めていないが、その魔力の高さから後継者にしたいとは思っている。

 サミュエルはこの学校に子ども達を預け、宰相に復帰した。
 サミュエルの奥さんも職場復帰したらしい。

「魔王様! 見ました? 王子とロレインがニコッとしましたよ!」

 サミュエルが満面の笑みを浮かべ、興奮しながら言った。
 デイノルトは尊い瞬間を見逃してしまったようだ。
 ロレインというのは、この前生まれたサミュエルの第四子である。
 父親譲りの黒髪に海のような碧い瞳をしていて、なかなか可愛い女の子だ。
 まあ、可愛さはアルノルトには敵わないが……
 アルノルトは客観的に控えめに言って可愛くて美しいからな。

 サミュエルはアルノルトとロレインのツーショットを撮るのに夢中だ。

 ……こいつ、いつからこんなキャラになったんだっけな?
 ちょっと前まで鋭いナイフのような男だったのに……

 サミュエルは俺様以外にはなかなか懐かなくて、俺様の父すら睨んでいた。
 こいつは昔から俺様と自分以外には容赦がない男だった。
 俺様が父から暴言を吐かれた時は、掴みかからんばかりの激怒っぷりだったな。
 デイノルトは怖すぎて、後ろで激怒しているサミュエルを振り返ることが出来なかった。

 父上に「こいつらを処刑しろ!」とか言われたっけ?
 サミュエルの父親が取りなしてくれたから命拾いをしたが、あの時はちょっと危なかった。

 デイノルトはずっと魔王である父が怖かった。
 父から温かい言葉をかけられたことなんて一度もない。
 父の前に立つだけで、酷い目眩や吐き気に襲われる。
 物心ついた時にはデイノルトは父上の暴言と暴力に毎日晒されていた。

 母はデイノルトが生まれた後に父上に手打ちにされている。
 赤子であるデイノルトを泣き止ませることが出来なかったことが原因だと噂で聞いた。
 母はエルフ族出身で優しく美しい方だったらしい。
 幼い時、母上に仕えていた使用人からはデイノルトは母上の面影があるとよく言われていた。
 そんなことはどうでも良い。
 デイノルトのせいで母を失ったと言っても過言ではない。

 デイノルトは家族を知らない。
 愛し方も分からない。
 正直、アルノルトとどう接すれば正解なのかも分からない。
 いつか、自分がアルノルトに父上と同じことをしてしまわないか不安で堪らなくなる時がある。
 デイノルトは自分を信用できない。
 父上と同じ赤い瞳を見る度にくりぬいてしまいたい衝動に駆られる。

 だが、サミュエルがいてくれたおかげで、デイノルトはそこまでひねくれずに済んだ。
 サミュエルは家族の代わりにデイノルトと喜怒哀楽を共有してくれたのだ。
 デイノルトが喜べば一緒に喜んでくれて、悲しい時は一緒に悲しんでくれた。
 デイノルトにとってはサミュエルだけが家族みたいなものだった。

 だが、サミュエルが魔王だった父と宰相だったサミュエルの父親をその地位から追い出した時は本当に驚きを隠せなかった。

 色々な理由や難癖を付けて、上手く根回しをして、暴君の父を退位させたのだ。

 そして、デイノルトを魔王として即位させ、ちゃっかり自分も宰相の位についた。
 それは悪魔族の名に恥じぬ腕前であった。
 何故かサミュエルの父親は宰相を辞める時、喜んでいたしな。

「さすが私の優秀な息子だ」とサミュエルの頭を撫でているのを見て、胸がちりっと痛くなったのは内緒だ。

「デイノルト様は最も魔王にふさわしいお方です」

 サミュエルのその言葉が耳から離れない。
 それからずっとデイノルトを支えてくれている。

 デイノルトの父はというと「こいつら全員呪ってやる」と玉座から引きずり降ろす直前まで叫んでいた。

 父はデイノルトが魔王になって数年後、父を魔王と間違えた勇者によって倒された。

 人間界では魔王を倒してお祭り騒ぎだったのだが、魔王が生きていると分かるとすぐに終息した。

 ざまあみろとデイノルトは人間と父に思った。
 デイノルトは人間も父も大嫌いだ。

「王子ー! 可愛いでちゅね!」 

 サミュエルは猫なで声でアルノルトを抱きしめていた。

 立場が変われば魔物も変わるってことだな……
 デイノルトは断じてサミュエルのようにデレデレはしていないぞ。
 アルノルトにとって威厳ある保護者なのだ。
 アルノルトにとって素晴らしい保護者になりたいと常に願っている。

 デイノルトの育児が正解かどうかはアルノルトが大きくなった時に教えてくれるだろう。
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