一人息子の勇者が可愛すぎるのだが

碧海慧

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1、魔王

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 魔王デイノルトは豪華な装飾を施された玉座にゆったりと座っていたが、手下の報告に思わず身を乗り出した。

「これはどういうことだ?」

 もしかして俺様の耳がおかしくなってしまったのだろうか。
 デイノルトが猪のような姿をした手下を睨み付けると、手下はヒィと恐怖で体を震わせた。

「ま、魔王様、ですから……」 

 手下はデイノルトと視線を合わせないようにしながら声を震わせた。
 デイノルトの怒りに合わせて魔王城の壁にビキビキと亀裂が入る。

「コレが俺様となんだと言うのだ? もう一度言ってみろ」

 デイノルトは玉座から立ち上がり、手下が抱いている人間の赤子を指さした。
 赤子は生まれたばかりのようで小さな身体を震わせながら泣いていた。

「ですから……親子だと……」

 デイノルトは手下に近づき、手下の耳を掴んだ。
 手下は耳を引っ張られながら痛そうに顔を歪める。

「ほうほう……俺様とコレが親子なのか。俺様とこの貧弱な人間の子が?」

 デイノルトは凍てつくような目で手下を見る。
 同時に禍々しい装飾が施された壁が凍りついていく。

「ヒィ……あの人間の女は申しておりました。『この子は魔王様の子です。大切に育ててください』と。そのまま逃げてしまいました」

 手下の魔物は涙目になりながら言った。
 デイノルトはフッと笑みをこぼした。

「人間の女を逃がしたのか。ずいぶんお優しいな。俺様の手下は……」

 デイノルトは手下の耳をひねりながら言った。

「すみません、すみません」

 手下はついに泣き出した。
 手下とデイノルトのやり取りを黙って聞いていた悪魔が口を開いた。

「ですが、魔王様。コレ魔王様にそっくりじゃないですか?」

 俺様の宰相をやっている優秀な悪魔があっけらかんと言った。
 この俺様に生意気な口を聞く悪魔の名をサミュエルと言う。
 サミュエルは芝居がかった仕草で燕尾服の埃を払っている。

「貴様まで何を言い出すのだ」

「少々失礼」

 サミュエルは魔力を使ってつぶっている赤子の目を強制的に開かせた。
 赤子はますます泣き叫ぶ。

「魔王様と同じ赤い瞳ですよ。顔立ちもムカツクほどに整っていますし、間違いなく貴方様の御子です。小さな角もありますね。この生え方は男の子です」

 サミュエルはメガネを外し顔を近づけ、赤子の顔をまじまじと観察しながら言った。

「髪の色は違うぞ! 俺様の髪は黒だが、コレは銀髪だ! 角だってこんなに小さくはない!」

 サミュエルはデイノルトの言葉を無視して、赤子の目にかかっていた魔力を解いた。
 よしよしと優しく赤子の角を撫でている。

「貴様、面白がってはいないか」

「なんのことでしょう?」

 サミュエルは悪魔的笑みを浮かべている。

「では魔王様。このような事態になる身に覚えは全くないとおっしゃるのですね?」

「あ……いや、俺様は……うーん……」

 身に覚えが全くない訳じゃないが……

「歯切れが悪いですね」

「うるさい! とにかく俺様の子じゃないからな!」

 デイノルトが言った瞬間、赤子が激しく泣いて暴れた。

「魔王様、危ない!」

 サミュエルがデイノルトに覆い被さってくる。
 バキリと大きな音を立て玉座が真っ二つに割れた。

「これ……貴様がやったのか?」

 デイノルトは一縷の望みをかけて、サミュエルに聞いた。

「何を言っているんです……この玉座は最上級の魔物でも触った瞬間に消し飛ぶ仕様ですよ。私なんかが壊せる訳がないじゃないですか」

「そうだよな……」

 サミュエルは赤子を抱き、割れた玉座に置こうとした。

「おい! やめろ!」

 今、最上級の魔物でも消し飛ぶって貴様が言っていたじゃないか。
 人間なんかが触れたら……

 デイノルトにはいたずらに命を奪う趣味はない。
 サミュエルは俺様の命令を無視して、赤子を玉座に置いた。
 割れた玉座に置かれた赤子は変わらず泣き叫んでいる。

「間違いなく未来の魔王様です」

 サミュエルは赤子に最上級の礼をした。
 手下も赤子に最上級の礼をしている。

「俺様は絶対認めないからな!」

 デイノルトは絶叫した。
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