攻略対象のイケメンに生まれ変わりボッチになってしまった話

碧海慧

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6、家族

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 皆様、ご機嫌よう。
 僕の名はアルベール・ルベッソン。
 恋愛ゲームの攻略キャラの一人です。

 馬車の御者さんに丁寧にお礼を言い、僕は家に帰って来ました。

「アルちゃーん、おかえりなさい!!」

「アルベール、よく帰って来た!!」

 上品で優しそうな夫婦がはしゃぎながら僕を迎えてくれた。
 この夫婦は現世での僕の親である。 
 ふたりとも僕の親なので、かなり顔面偏差値は高い。
 特に母さんは40代だが20代後半(20代前半は厳しい)に見えるほど若々しい。
 母さんが僕をぎゅっと抱きしめてきて、さらに父さんが僕と母さんを抱きしめてくる。
 ふたりの愛に押しつぶされて息が出来ない……

「ただいま……」

「お友達は出来たか?」

「……はい、沢山います」

 親に心配かけたくなくて、僕は小さな嘘をつく。
 父さん、母さん、友達も出来ない不出来な息子でごめんなさい。

「アルベールの学生生活は順風満帆だな。学生時代の友達は人生の宝だからな」

「良かったわ。ママ心配していたのよ」

 両親は安心したように微笑んでいる。
 この笑顔を壊したくない。

「ちょっと疲れたから、部屋で休んでくる」

「あら、アルちゃん、具合悪いの?」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」

「アルベール、夕食は一緒に食べよう。今日はアルベールの好物にしよう」

「はい、父上」

 僕は母さんの腕の中から抜け出し、虹色の鎧と金色の兜を父さんに渡した。

「父上、お土産です。安物ですが」

「アルベール、ありがとう。せっかくだから、応接間に飾っておこう」

 両親は毎週学園から帰ってくる僕に対し、出迎えが大袈裟すぎる気がする。
 他の親もあんななのだろうか。
 まあ、両親が幸せそうだから何よりです。
 両親のことはちょっとだけ鬱陶しいが、嫌いじゃない。
 むしろ大好き。
 前世の記憶がなかったら、こんなに広い心ではいられなかったかもしれない。
 反抗期には鬱陶しいほどの愛され方(過干渉とも言う)
 多分僕はグレていたかもしれない。

「坊っちゃま」

 自分の部屋に向かう途中、ルベッソン家で雇われている執事とメイドに話しかけられた。
 ふたりとも60代くらいであろうか。
 執事とメイドとしてはかなりのベテランだ。
 二人とも僕が生まれる前からルベッソン家に仕えてくれていて、僕にとってはほぼ身内の間柄である。
 小さい頃からよく僕の面倒を見てくれたから、第2の親と言っても過言ではない。
 執事は時々僕のために厳しいことをいうが、愛に溢れた人である。
 執事が僕の写真を持ち歩いているのを僕は知っている。

「坊っちゃま、おかえりなさいませ」

「お勉強は順調ですかな?」

 執事とメイドが丁寧に頭を下げた。
 ふたりの髪に白髪が混じっているのを見て、このふたりも歳を取ったなぁと思った。

「まあまあかな。二人とも変わりないか?」

「こちらは何も変わらずですわ」

「坊っちゃまはお友達は出来ましたかな?」

「た、沢山いるよ」

「坊っちゃまは奥ゆかしい方ですからな。私はとても心配しておりました」

 執事が僕の心に追い打ちをかけてきた。
 昔から執事とメイドだけは誤魔化すことが出来ない。
 ふたりとも、かなり鋭いのだ。

「大丈夫だよ。心配しないで」

 逃げるように自分の部屋に入ると、僕の魔力が漏れ出て部屋が凍ってしまった。

 メンタルが弱っている時は魔力のコントロールが上手くいかない。

 ドア越しに家で雇われているベテランメイドと執事の会話が聞こえる。

(ドアノブが凍っていますな)

(あの様子ではお友達は出来ていないみたいですわね)

(やはり旦那様と奥様に相談するべきか……お二人は坊っちゃまの言葉を信じ過ぎる傾向がありますからな。坊っちゃまは奥ゆかしい方だから、友達作りに苦戦すると思っておりました。一人悩んでいるなら、助けになってやりたいものだが……)

(ですが、坊っちゃまもプライドがおありでしょうし……もう少し見守ってあげても)

(悩み過ぎて最悪の事態にならねば良いが……)

(いじめられてはいないでしょうか……)

 僕の目から涙が溢れてきた。
 後先短い二人にこんなに心配させて、本当にごめん。
 二人の優しさは痛いほど分かる。
 でも、大丈夫だから。
 次に帰省する時までに友達を必ず作ってくるから。

 今日も僕に友達が出来なかった。
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