攻略対象のイケメンに生まれ変わりボッチになってしまった話

碧海慧

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8、悪役令嬢

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 皆さん、ご機嫌よう……
 僕の名はアルベール・ルベッソン…… 
 恋愛ゲームの攻略キャラの一人です……

 スミマセン……
 今、メンタルがすごく落ちていまして……
 友達大作戦から一週間が経とうとしていますが、メンタルは未だに回復せず……

 モブ男君と王太子殿下は目も合わせてくれません……
 もう誰とも会いたくなくて、お化けトンネルに来ています……

 お化けトンネルって何かって?
 学校の中庭にある何かの植物で出来た長いトンネルです。
 時々茨が動くので、魔法生物なのかもしれない。
 薄暗くて怖いし、お化けの目撃談もあるから、お化けトンネルと呼ばれているらしいです。
 生徒達は怖がって誰も近寄りません。

 ヒャーヒャヒャ! お化けでも何でも良いや!
 僕と友達になろうぜ!
 人間より怖いものなんてないからな!

「私とお友達になりましょ……」

 ん? 何か聞こえた気がするが……
 これは女の声……?

「私とお友達になりましょ……」

 やっぱり気のせいじゃない!
 確かに聞こえる。 

「誰かいるの……?」

 女の声が近づいてくる。

 伯爵家の嫡男で氷の貴公子の異名を持つ僕だが、さすがの僕の足もガクガク震えている。
 トンネルの奥から青い顔をした少女が出てきた。

「ぎゃー!! 出たー!! 悪霊退散!!」

 僕の口から数年振りに「はい」「いいえ」以外の言葉が出た。
 それを喜ぶ余裕もなく、僕は一目散に逃げ出そうとした。

「お待ちなさい!」

 少女が僕の腕を掴んだ。
 僕は恐怖のあまり腰が抜けて地面にへたりこんだ。

「あんた日本人?」

 よく見ると、極悪非道の悪役令嬢だった。
 確か名前はアナベル……名字は忘れた。
 ルビーのように真っ赤な髪と真っ赤な瞳が特徴的だ。
 うん……ザ・悪役って感じだな。
 他に特記することはない。たぶん。
 あ! 王太子殿下の婚約者だった!
 一番大切なことを忘れるところだった。
 王太子殿下……僕のことが嫌いなのだろうか……
 は! いけない! これ以上考えてはダメだ!

「悪霊退散って言わなかったかしら?」

「いいえ」

 僕は咄嗟に嘘をついた。
 悪役令嬢に関わる者は良い最期を迎えられない。
 ある意味、幽霊よりも恐ろしい存在だ。
 悪役令嬢に弱みを握られてはいけない。

「あんたも私と関わりたくないのね……」

 悪役令嬢は寂しそうに呟いた。 
 他人事に思えなくて、僕は泣きそうになる。
 僕は思わず悪役令嬢の顔を覗き込んだ。

「どいつもこいつも腰抜けばかり! クソゲーだわ!」

 悪役令嬢は僕の襟元を掴んで殴りかかってきた。
 このゲームってアクションゲームだっけ
 確か悪役令嬢って、めっちゃ強かったはず……やられる!
 思わず僕は目を閉じる。
 あれ? 殴られない? おかしいな……
 瞼に冷たいものが落ちた。
 僕は目を恐る恐る開けると、悪役令嬢のルビーのような赤い瞳から涙が零れていた。

「もう一人は嫌」

 悪役令嬢は僕を真っ直ぐに見つめて言う。

「私を避けないでよ。お願い」

 僕は悪役令嬢の涙に怯んだ。
 そっか……
 全世界の人間が転生者ってことは、全世界の人間が悪役令嬢の行く末を知っているのか……
 悪役令嬢自身も含めて……

 この子はゲームのキャラじゃない。
 僕達と同じ人間だ。

「あんたも転生者なら知っているでしょ? 私の最期。ストーリー通りに進めば皆幸せになれる。だから……」 

 悪役令嬢はストーリーを変える気はないと言う。

「ちょっとだけで良いの。私の話し相手になってよ」

 悪役令嬢が手を差し出してきた。
 僕は少し迷ったが悪役令嬢の手を取った。
 僕の断罪ルートなんて存在しないから、少しくらい大丈夫だろう。
 問題事に巻き込まれそうになったら、すぐに手を引けば良い。
 悪役令嬢は僕の勘だが、悪い人間ではなさそうだ。

「あんた、顔に似合わず意外とチョロいのね」

 僕は悪役令嬢を睨み付けた。

「ごめんね。悪役令嬢の話し方が抜けなくて。悪気はないのよ」

 嘘つけ。
 この悪役令嬢、なかなか良い性格をしている。

「あんた、ホントに話さないのね。前世もこんなだったの?」

「いいえ……」

「そうなんだ。あんたも自分のキャラに引っ張られているのかしら? まあ、いいわ。私の話を聞いてくれるだけで十分よ」

 悪役令嬢はニコニコと嬉しくて堪らないという笑みを浮かべている。
 そんなに喜ばれると悪い気はしない。

「私もキャラに引っ張られてついついキツイ口調になっちゃうのよね……」 

 悪役令嬢は困ったように眉をひそめた。

「私、ホントは友達が欲しいの。でも、悪役令嬢のキャラに引っ張られて、なかなか『私とお友達になりましょう』って言えなくて」

「はい」

「ここで言えるように毎日練習しているのよ。驚かせちゃって、ごめんね」

「はい」

 悪役令嬢は突然グシャグシャと僕の頭を撫でて、にっと笑った。

「あんたも色々大変そうね! 何かあったら私に相談しなさいよ」

 悪役令嬢は僕の背中をバンバン叩いた。

 「そんなに不安そうな顔しなくて大丈夫! あんたを私の断罪には絶対巻き込まないわ! 私が命にかけてもあんたを守ってあげる!」

 悪役令嬢があははと口を開けて笑った
 僕、不安そうな顔をしていたのか……
 全く自覚はなかった。

「はい」

 僕は悪役令嬢の優しさに、思わず笑みを浮かべた。
 ん? 悪役令嬢がなんか変な顔をしている。
 どうしたんだ?

「あんた、不意打ちはやめなさいよね……」

「はい?」

 私じゃなかったら勘違いしていたんだからねと悪役令嬢はゴニョゴニョ言っている。

「あんたが良かったら、明日もここで話さない?」

「はい」

「楽しみにしてるわ! 忙しかったり気が乗らなかったら、無理しなくて大丈夫よ!」

「はい」

「今日はありがとう」

 悪役令嬢はイタズラっぽく笑うと、颯爽とトンネルを出て行った。
 僕はその背中を明るい気持ちで見送った。

 ついに僕に友達が出来たかもしれない!
 し・か・も! 
 数年振りに「はい」「いいえ」以外の言葉をしゃべった!
 いやっほ~!! やったぜ~!!
 は! すまない。つい取り乱してしまった。

 この出会いが僕の運命を大きく変えることになるとは、その時の僕は思ってもいなかった。
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