【完結済】女王に体の大切な部分が徐々になくなっていく呪いをかけられ絶望の縁に立たされていた貴族令嬢が元王子と出会って革命を起こします!!

寿(ひさ)

文字の大きさ
上 下
60 / 82
後編

60.場面は切り替わり、王都では『白い教会』の生き残りが処刑されようとしていた......(2)

しおりを挟む
_ドゴォッッ!!!

 瞬間、爆発音が響いた。
 『歩く月』も『白い教会』も全員驚いて爆発音がした方を見る。彼らがいるのはメインストリートだが、向こうの方では細い道に分かれる部分がある。遠目に見ると、道の入口は所々焼け焦げた跡があり、数人が悲鳴をあげながら吹き飛ばされてきた。
 そして、細道からカゴを被った女_エラが出てきた。

「向こうに潜んでいた『歩く月』を蹴散らしてきたわ。皆逃げるわよ……!」

 エラは魔法で小さな氷をたくさん作り、蜘蛛達を取り囲んだ『歩く月』に向けて放つ。彼らは氷の吹雪で後ろに吹き飛ばされる。

「な、なんだあの魔女は……!? 国家認定の魔法使いだってあんな強力な魔法は出せないぞ……!」

 『歩く月』は驚きの声をあげる。

「女イシ……!」

 蜘蛛も神父も翡翠も白銀も状況についていけず一瞬凍りつく。白銀に至ってはエラと面識すらないので何がなんだかわからない。

「一応言っておくけど、まだ私は『白い教会』の味方だからね! ほら、私の魔力もそう長くもたないからさっさと来て!!」

 エラが叫ぶと、やっと最初に翡翠が動き出す。翡翠は白銀の腕を掴み、エラが作った逃げ道の方へ走りだす。ついで蜘蛛と神父がそれに続いた。

「針鼠は……!?」

 エラは『歩く月』の群れの中心を見た。まだ、針鼠は蛇女と剣を交えていた。傷がまだ癒えていない針鼠の方が明らかに劣勢だった。

「もう……何やってんのよ! あなた達、先に行ってて! 私が針鼠を連れてくるわ!」

「待ってくれ! 俺も助けに行く!」

 蜘蛛が叫ぶと、残りの人々も頷いた。だが、エラは首を横に振った。

「ダメよ! あなた達ボロボロじゃない! 足手まといだわ! 針鼠はあなた達を助けるために危険をおかして助けに来たのよ! 今は私に任せて逃げて!」

 話す内に『歩く月』が体勢を立て直し始めた。蜘蛛達はしぶったが、エラが彼らを守るように『歩く月』に氷魔法をぶつけるのを見て今の自分達が足手まといにしかならないのを察した。彼らは背を向けて逃走する。そうはさせまいと『歩く月』が攻撃をするが、それをエラが氷魔法をぶつけて防いだ。

 エラは氷の吹雪で人々を押し退ける。魔力を使った後の疲労感がたまりにたまり、息があがる。

 一方突如現れた魔法使いに、蛇女は怒り心頭だった。巨大斧を持つ手が自然と力み、針鼠を大きく後ろへ吹き飛ばす。針鼠はすぐに受け身を取る。が、腹の古傷が開いた感触がし、血を吐いて体勢が崩れる。蛇女は何事か呪文を唱えると、斧杖の先から禍々しい黒い煙が出てきた。

「誰にも邪魔はさせない……蛇であるアタシが最強なんだ……。女だろうと関係ない。針鼠を討ち、それを証明してやる!」

 周りの『歩く月』は危機感を察知して、蛇女から離れる。黒い煙は蛇女を包み込み、やがて、

_ウォォオオッッ!

 けたたましい獣の鳴き声と共に姿を現す。蛇女は体中が真っ黒に変色し、鋭い蛇の目を怪しく光らせた。ニタッと口角を釣り上げるとさっきまで無かった巨大な牙が顔を覗かせた。魔獣と自身を融合させたのだ。腕も体も何もかもが肥大化し、ただでさえ大きかった斧が大きくなった。人間三人くらいは裕に一振りで斬れそうだった。
 蛇女は斧を振り下ろし、体勢を崩した針鼠の頭蓋骨を打ち砕こうとする。

 斧の切っ先が針鼠の頭に直撃するか否か。その時、

「針鼠!」

 拳くらいの氷塊が大量に巨大斧に突き刺さる。蛇女はバランスを崩した。斧は針鼠の横スレスレに突き刺さる。

「来るな馬鹿! 何やってんだ! さっさとあいつらと逃げろ!」

「馬鹿って何よ! あなた今私が助けなかったら完全にやられてたでしょ!?」

 叫ぶエラの語気が弱い。魔力の使いすぎだ。

「俺がここで死のうがイシには関係ないだろ!」

「まだそんな事言うの!?」

 エラは針鼠の胸ぐらを掴んだ。

「いい!? 私にとってあなたは大切なの! 一番、大切!! お願いだから理解してよ!!」

 エラは腹の底から叫んだ。

 最初に会ったときは、奇妙な笑い声をあげ『歩く月』を無情に殺す針鼠が精神異常者か何かに思えた。その後も何度も話をする中で根本的な考え方の違いから彼の事が好きになれなかった。だが、仲間を想い復讐を誓ったあの日、針鼠という人間がなんとなくわかるようになった。彼は今や目的を共有する仲間だ。そうして共に過ごす内に、ふと兄ドラが『針鼠は愛する事も愛される事も恐れている』と言っていた事を思い出した。本当にその通りかもしれない、とエラは思った。彼は孤独に生きざるを得ない哀れな少年だ。エラは針鼠がどうしても放っておけなくなった。彼がエラの中でかけがえのない存在になっている事に嫌でも気付かされた。

「___」

 針鼠ははっと息をのんだ。

 エラは蛇女に追い討ちで火の魔法を放つ。蛇女は攻撃魔法をもろにくらい後ろに押される。が、体は燃えない。エラは魔法を放った直後、力が抜けて体がゆらめく。針鼠は舌打ちして、エラの服を掴む。

「しっかりしろ! ずらかるぞ!」

 エラは慌てて自力で立ち、針鼠に続けて走る。逃げようとする二人に他の『歩く月』が襲い掛かる。針鼠は一人を斬り、一人を蹴って蛇女にぶつける。エラも体内に残る魔力をかき集めて氷魔法を敵にぶつけまくった。エラは針鼠の足の速さに追いつくために自身の足を魔法で強化した。その内に『歩く月』の群れと距離ができるようになる。

_ウォォオオッッ!

 蛇女が遠くの方でキレて吠えている。魔獣化した蛇女は、スピードはそこまでではない。このままいけば、順調に逃げきれる

「___っ」

 しかし、その時、エラに異変が起こる。急激に息が苦しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...