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後編
60.場面は切り替わり、王都では『白い教会』の生き残りが処刑されようとしていた......(2)
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_ドゴォッッ!!!
瞬間、爆発音が響いた。
『歩く月』も『白い教会』も全員驚いて爆発音がした方を見る。彼らがいるのはメインストリートだが、向こうの方では細い道に分かれる部分がある。遠目に見ると、道の入口は所々焼け焦げた跡があり、数人が悲鳴をあげながら吹き飛ばされてきた。
そして、細道からカゴを被った女_エラが出てきた。
「向こうに潜んでいた『歩く月』を蹴散らしてきたわ。皆逃げるわよ……!」
エラは魔法で小さな氷をたくさん作り、蜘蛛達を取り囲んだ『歩く月』に向けて放つ。彼らは氷の吹雪で後ろに吹き飛ばされる。
「な、なんだあの魔女は……!? 国家認定の魔法使いだってあんな強力な魔法は出せないぞ……!」
『歩く月』は驚きの声をあげる。
「女イシ……!」
蜘蛛も神父も翡翠も白銀も状況についていけず一瞬凍りつく。白銀に至ってはエラと面識すらないので何がなんだかわからない。
「一応言っておくけど、まだ私は『白い教会』の味方だからね! ほら、私の魔力もそう長くもたないからさっさと来て!!」
エラが叫ぶと、やっと最初に翡翠が動き出す。翡翠は白銀の腕を掴み、エラが作った逃げ道の方へ走りだす。ついで蜘蛛と神父がそれに続いた。
「針鼠は……!?」
エラは『歩く月』の群れの中心を見た。まだ、針鼠は蛇女と剣を交えていた。傷がまだ癒えていない針鼠の方が明らかに劣勢だった。
「もう……何やってんのよ! あなた達、先に行ってて! 私が針鼠を連れてくるわ!」
「待ってくれ! 俺も助けに行く!」
蜘蛛が叫ぶと、残りの人々も頷いた。だが、エラは首を横に振った。
「ダメよ! あなた達ボロボロじゃない! 足手まといだわ! 針鼠はあなた達を助けるために危険をおかして助けに来たのよ! 今は私に任せて逃げて!」
話す内に『歩く月』が体勢を立て直し始めた。蜘蛛達はしぶったが、エラが彼らを守るように『歩く月』に氷魔法をぶつけるのを見て今の自分達が足手まといにしかならないのを察した。彼らは背を向けて逃走する。そうはさせまいと『歩く月』が攻撃をするが、それをエラが氷魔法をぶつけて防いだ。
エラは氷の吹雪で人々を押し退ける。魔力を使った後の疲労感がたまりにたまり、息があがる。
一方突如現れた魔法使いに、蛇女は怒り心頭だった。巨大斧を持つ手が自然と力み、針鼠を大きく後ろへ吹き飛ばす。針鼠はすぐに受け身を取る。が、腹の古傷が開いた感触がし、血を吐いて体勢が崩れる。蛇女は何事か呪文を唱えると、斧杖の先から禍々しい黒い煙が出てきた。
「誰にも邪魔はさせない……蛇であるアタシが最強なんだ……。女だろうと関係ない。針鼠を討ち、それを証明してやる!」
周りの『歩く月』は危機感を察知して、蛇女から離れる。黒い煙は蛇女を包み込み、やがて、
_ウォォオオッッ!
けたたましい獣の鳴き声と共に姿を現す。蛇女は体中が真っ黒に変色し、鋭い蛇の目を怪しく光らせた。ニタッと口角を釣り上げるとさっきまで無かった巨大な牙が顔を覗かせた。魔獣と自身を融合させたのだ。腕も体も何もかもが肥大化し、ただでさえ大きかった斧が大きくなった。人間三人くらいは裕に一振りで斬れそうだった。
蛇女は斧を振り下ろし、体勢を崩した針鼠の頭蓋骨を打ち砕こうとする。
斧の切っ先が針鼠の頭に直撃するか否か。その時、
「針鼠!」
拳くらいの氷塊が大量に巨大斧に突き刺さる。蛇女はバランスを崩した。斧は針鼠の横スレスレに突き刺さる。
「来るな馬鹿! 何やってんだ! さっさとあいつらと逃げろ!」
「馬鹿って何よ! あなた今私が助けなかったら完全にやられてたでしょ!?」
叫ぶエラの語気が弱い。魔力の使いすぎだ。
「俺がここで死のうがイシには関係ないだろ!」
「まだそんな事言うの!?」
エラは針鼠の胸ぐらを掴んだ。
「いい!? 私にとってあなたは大切なの! 一番、大切!! お願いだから理解してよ!!」
エラは腹の底から叫んだ。
最初に会ったときは、奇妙な笑い声をあげ『歩く月』を無情に殺す針鼠が精神異常者か何かに思えた。その後も何度も話をする中で根本的な考え方の違いから彼の事が好きになれなかった。だが、仲間を想い復讐を誓ったあの日、針鼠という人間がなんとなくわかるようになった。彼は今や目的を共有する仲間だ。そうして共に過ごす内に、ふと兄ドラが『針鼠は愛する事も愛される事も恐れている』と言っていた事を思い出した。本当にその通りかもしれない、とエラは思った。彼は孤独に生きざるを得ない哀れな少年だ。エラは針鼠がどうしても放っておけなくなった。彼がエラの中でかけがえのない存在になっている事に嫌でも気付かされた。
「___」
針鼠ははっと息をのんだ。
エラは蛇女に追い討ちで火の魔法を放つ。蛇女は攻撃魔法をもろにくらい後ろに押される。が、体は燃えない。エラは魔法を放った直後、力が抜けて体がゆらめく。針鼠は舌打ちして、エラの服を掴む。
「しっかりしろ! ずらかるぞ!」
エラは慌てて自力で立ち、針鼠に続けて走る。逃げようとする二人に他の『歩く月』が襲い掛かる。針鼠は一人を斬り、一人を蹴って蛇女にぶつける。エラも体内に残る魔力をかき集めて氷魔法を敵にぶつけまくった。エラは針鼠の足の速さに追いつくために自身の足を魔法で強化した。その内に『歩く月』の群れと距離ができるようになる。
_ウォォオオッッ!
蛇女が遠くの方でキレて吠えている。魔獣化した蛇女は、スピードはそこまでではない。このままいけば、順調に逃げきれる
「___っ」
しかし、その時、エラに異変が起こる。急激に息が苦しくなった。
瞬間、爆発音が響いた。
『歩く月』も『白い教会』も全員驚いて爆発音がした方を見る。彼らがいるのはメインストリートだが、向こうの方では細い道に分かれる部分がある。遠目に見ると、道の入口は所々焼け焦げた跡があり、数人が悲鳴をあげながら吹き飛ばされてきた。
そして、細道からカゴを被った女_エラが出てきた。
「向こうに潜んでいた『歩く月』を蹴散らしてきたわ。皆逃げるわよ……!」
エラは魔法で小さな氷をたくさん作り、蜘蛛達を取り囲んだ『歩く月』に向けて放つ。彼らは氷の吹雪で後ろに吹き飛ばされる。
「な、なんだあの魔女は……!? 国家認定の魔法使いだってあんな強力な魔法は出せないぞ……!」
『歩く月』は驚きの声をあげる。
「女イシ……!」
蜘蛛も神父も翡翠も白銀も状況についていけず一瞬凍りつく。白銀に至ってはエラと面識すらないので何がなんだかわからない。
「一応言っておくけど、まだ私は『白い教会』の味方だからね! ほら、私の魔力もそう長くもたないからさっさと来て!!」
エラが叫ぶと、やっと最初に翡翠が動き出す。翡翠は白銀の腕を掴み、エラが作った逃げ道の方へ走りだす。ついで蜘蛛と神父がそれに続いた。
「針鼠は……!?」
エラは『歩く月』の群れの中心を見た。まだ、針鼠は蛇女と剣を交えていた。傷がまだ癒えていない針鼠の方が明らかに劣勢だった。
「もう……何やってんのよ! あなた達、先に行ってて! 私が針鼠を連れてくるわ!」
「待ってくれ! 俺も助けに行く!」
蜘蛛が叫ぶと、残りの人々も頷いた。だが、エラは首を横に振った。
「ダメよ! あなた達ボロボロじゃない! 足手まといだわ! 針鼠はあなた達を助けるために危険をおかして助けに来たのよ! 今は私に任せて逃げて!」
話す内に『歩く月』が体勢を立て直し始めた。蜘蛛達はしぶったが、エラが彼らを守るように『歩く月』に氷魔法をぶつけるのを見て今の自分達が足手まといにしかならないのを察した。彼らは背を向けて逃走する。そうはさせまいと『歩く月』が攻撃をするが、それをエラが氷魔法をぶつけて防いだ。
エラは氷の吹雪で人々を押し退ける。魔力を使った後の疲労感がたまりにたまり、息があがる。
一方突如現れた魔法使いに、蛇女は怒り心頭だった。巨大斧を持つ手が自然と力み、針鼠を大きく後ろへ吹き飛ばす。針鼠はすぐに受け身を取る。が、腹の古傷が開いた感触がし、血を吐いて体勢が崩れる。蛇女は何事か呪文を唱えると、斧杖の先から禍々しい黒い煙が出てきた。
「誰にも邪魔はさせない……蛇であるアタシが最強なんだ……。女だろうと関係ない。針鼠を討ち、それを証明してやる!」
周りの『歩く月』は危機感を察知して、蛇女から離れる。黒い煙は蛇女を包み込み、やがて、
_ウォォオオッッ!
けたたましい獣の鳴き声と共に姿を現す。蛇女は体中が真っ黒に変色し、鋭い蛇の目を怪しく光らせた。ニタッと口角を釣り上げるとさっきまで無かった巨大な牙が顔を覗かせた。魔獣と自身を融合させたのだ。腕も体も何もかもが肥大化し、ただでさえ大きかった斧が大きくなった。人間三人くらいは裕に一振りで斬れそうだった。
蛇女は斧を振り下ろし、体勢を崩した針鼠の頭蓋骨を打ち砕こうとする。
斧の切っ先が針鼠の頭に直撃するか否か。その時、
「針鼠!」
拳くらいの氷塊が大量に巨大斧に突き刺さる。蛇女はバランスを崩した。斧は針鼠の横スレスレに突き刺さる。
「来るな馬鹿! 何やってんだ! さっさとあいつらと逃げろ!」
「馬鹿って何よ! あなた今私が助けなかったら完全にやられてたでしょ!?」
叫ぶエラの語気が弱い。魔力の使いすぎだ。
「俺がここで死のうがイシには関係ないだろ!」
「まだそんな事言うの!?」
エラは針鼠の胸ぐらを掴んだ。
「いい!? 私にとってあなたは大切なの! 一番、大切!! お願いだから理解してよ!!」
エラは腹の底から叫んだ。
最初に会ったときは、奇妙な笑い声をあげ『歩く月』を無情に殺す針鼠が精神異常者か何かに思えた。その後も何度も話をする中で根本的な考え方の違いから彼の事が好きになれなかった。だが、仲間を想い復讐を誓ったあの日、針鼠という人間がなんとなくわかるようになった。彼は今や目的を共有する仲間だ。そうして共に過ごす内に、ふと兄ドラが『針鼠は愛する事も愛される事も恐れている』と言っていた事を思い出した。本当にその通りかもしれない、とエラは思った。彼は孤独に生きざるを得ない哀れな少年だ。エラは針鼠がどうしても放っておけなくなった。彼がエラの中でかけがえのない存在になっている事に嫌でも気付かされた。
「___」
針鼠ははっと息をのんだ。
エラは蛇女に追い討ちで火の魔法を放つ。蛇女は攻撃魔法をもろにくらい後ろに押される。が、体は燃えない。エラは魔法を放った直後、力が抜けて体がゆらめく。針鼠は舌打ちして、エラの服を掴む。
「しっかりしろ! ずらかるぞ!」
エラは慌てて自力で立ち、針鼠に続けて走る。逃げようとする二人に他の『歩く月』が襲い掛かる。針鼠は一人を斬り、一人を蹴って蛇女にぶつける。エラも体内に残る魔力をかき集めて氷魔法を敵にぶつけまくった。エラは針鼠の足の速さに追いつくために自身の足を魔法で強化した。その内に『歩く月』の群れと距離ができるようになる。
_ウォォオオッッ!
蛇女が遠くの方でキレて吠えている。魔獣化した蛇女は、スピードはそこまでではない。このままいけば、順調に逃げきれる
「___っ」
しかし、その時、エラに異変が起こる。急激に息が苦しくなった。
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