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後編
54.針鼠の過去。復讐への誓い。(2)
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針鼠はそこまで話して、ひ…ひひ…ヒ、とまたあの奇妙な笑い声をあげた。声は乾いていて、虚しい響きだった。
「その後、俺だけは国外への追放を言い渡された。まだ幼かったし、王の血をひく者だったからさすがに死刑にできなかったんだろう。だが、その道中山賊に出くわした。後でわかった話だが、それは女王の差金だった。山賊に殺されかけた俺を、密かに母を支持していた兵士が命懸けで逃がした。俺は再び王都に戻り、身分を隠し下級街の一画にあるギルド『歩く月』に転がりこんだ。当時はまだ国に吸収されていない、荒くれ者の巣窟だった。奴らはガキだった俺を快く受け入れたよ。知識もなく剣もろくに振れないガキの何を気に入ったと思う?__顔だよ。」
針鼠は、ヒヒヒッと口角を吊り上げた。
「信じられるか? まだ10歳だったガキにあいつら興奮してんだ! 詳しく聞きたいか?」
「……いいえ。」
エラは静かに首をふった。
「……そこからは、2年前『白い教会』に出会うまでずっと『歩く月』にいた。そこで剣の腕と人を殺す知識を身につけた。…俺の身の上話は終わりだ。」
針鼠は奇妙な笑い声をあげるのをやめた。エラはなんだか泣き終わった後みたいに感じた。
しばらく二人とも何も言わなくなる。やがて、エラは沈黙を破った。
「……あなたの事情は理解したわ。でも女王様は暴君だけれど、国の元首なのよ。女王様が今亡くなれば、貴族達の激しい権力争いの末にこの国はますます疲弊するわ。ひょっとしたら、そこを狙われて南の国のヒートンに攻めいられてしまうかもしれない。__大勢の罪の無い人々が血を流す事になってしまうわ。」
「……お前は俺を止めたいのか? あれだけの事をあの女にされてもなお、あいつを守るのか?」
「私が守りたいのは女王様じゃない! あなたよ!」
エラは思わず叫んだ。
「そんな重要な人を殺してあなた無事で済むと思ってんの? 大勢に憎まれて、想像もできないような残酷なやり方で処刑されてしまうかもしれないわ。というか、そもそもたった一人で復讐しに行くなんて無茶も良いところよ! なんのために私があなたを生かしたと思っているの? 女王様を殺して欲しいからじゃない。あなたに生きて欲しいと思ったからよ。……それが皆の願いだから。」
「……あいつらが俺に生きていて欲しいと願うのは俺に王になって欲しいからだ。それが叶わなくなった今となってはその願いは無効だ。」
「あなたに生きていて欲しいのは願いを託すためじゃないわ! 幸せになって欲しいからなのよ!」
針鼠から驚愕の感情が頭に流れてきた。
エラは革命前夜、針鼠が部屋を出て行った後に皆が話していた事を話した。皆最後には、針鼠に幸せになって欲しいと笑っていたのだ。エラはそれをどうしても針鼠にわかってほしかった。
語り終えたあと、針鼠から、初めて悲しみの感情が伝わってきた。針鼠の長い耳が少しだけ下がった。
「……それを聞いてもなお俺の気持ちは変わらない。俺は、自分のために生きる。周りがどう思おうとも、周りにどんな影響が及ぼされようとも俺は自分の決めた道を進む。」
「…………復讐は何も生まないわ。」
「……。」
「……そう。」
エラは力なく答えた。
わかっていた。針鼠は何を言ってももう止まる気が無い事ぐらい。皆の気持ちを知った所で針鼠は復讐を曲げる男ではない。
「___なら、私も行くわ!!私も…女王様に復讐するためにあなたについていく!」
「____っ」
針鼠は息をのんだ。エラは立ち上がった。
「勘違いしないでよね。あなたのためについていきたいなんて微塵も思っていないわ。私自身はあなたがどうなっても構わないんだから。これは、___私の戦いなのよ!勿論、叔父様と叔母様の事がある。女王様から解放して魔法を解いてあげたいわ!」
エラはカゴなしに自分の醜い顔がさらけだされているのにも構わず叫んだ。
「でもね、それだけじゃない!私にだって消えない炎が燃えてんのよ! 復讐は何も生まない? 結構よ! 誰の迷惑になろうとも世界中から悪魔と罵られようとも私は行くわ!そうでないと……そうでないと、もう誰も叫び続ける人がいなくなってしまう……! チビや昇り藤、黒目、皆の無念を__あの優しい人たちが確かにいたんだっていう事実を__叫び続ける人が! ……これが私のわがままだってのはわかってるわ。彼らは『白い教会』であった以上、こうなる日を覚悟していたのはわかってる。それでも私は納得ができない。たとえ、皆が復讐を望んでいなくても、私自身がそうしたいと望むから……だから私は復讐する!!」
エラは残りわずかな命である。黒目は、残された時間を何に使うか自分の頭で決めろ、と言っていた。ようやく今、結論が出た。もしかしたら、ずっと前から心に決めていたのかもしれない。
エラは針鼠に向き直った。
「だから、ここからは協力しあいましょう。あなたは自分の目的のために私を利用する。そして、私は自分のためにあなたを利用するわ。」
「……そうか。」
針鼠は、小さく頷いた。
「……イシ、…………………ありがとう。命を助けられた事にじゃない。もう一度……復讐する機会をくれた事に、感謝する。」
針鼠はそういうと、体力の限界が来たのか静かに寝息をたて始めた。
「その後、俺だけは国外への追放を言い渡された。まだ幼かったし、王の血をひく者だったからさすがに死刑にできなかったんだろう。だが、その道中山賊に出くわした。後でわかった話だが、それは女王の差金だった。山賊に殺されかけた俺を、密かに母を支持していた兵士が命懸けで逃がした。俺は再び王都に戻り、身分を隠し下級街の一画にあるギルド『歩く月』に転がりこんだ。当時はまだ国に吸収されていない、荒くれ者の巣窟だった。奴らはガキだった俺を快く受け入れたよ。知識もなく剣もろくに振れないガキの何を気に入ったと思う?__顔だよ。」
針鼠は、ヒヒヒッと口角を吊り上げた。
「信じられるか? まだ10歳だったガキにあいつら興奮してんだ! 詳しく聞きたいか?」
「……いいえ。」
エラは静かに首をふった。
「……そこからは、2年前『白い教会』に出会うまでずっと『歩く月』にいた。そこで剣の腕と人を殺す知識を身につけた。…俺の身の上話は終わりだ。」
針鼠は奇妙な笑い声をあげるのをやめた。エラはなんだか泣き終わった後みたいに感じた。
しばらく二人とも何も言わなくなる。やがて、エラは沈黙を破った。
「……あなたの事情は理解したわ。でも女王様は暴君だけれど、国の元首なのよ。女王様が今亡くなれば、貴族達の激しい権力争いの末にこの国はますます疲弊するわ。ひょっとしたら、そこを狙われて南の国のヒートンに攻めいられてしまうかもしれない。__大勢の罪の無い人々が血を流す事になってしまうわ。」
「……お前は俺を止めたいのか? あれだけの事をあの女にされてもなお、あいつを守るのか?」
「私が守りたいのは女王様じゃない! あなたよ!」
エラは思わず叫んだ。
「そんな重要な人を殺してあなた無事で済むと思ってんの? 大勢に憎まれて、想像もできないような残酷なやり方で処刑されてしまうかもしれないわ。というか、そもそもたった一人で復讐しに行くなんて無茶も良いところよ! なんのために私があなたを生かしたと思っているの? 女王様を殺して欲しいからじゃない。あなたに生きて欲しいと思ったからよ。……それが皆の願いだから。」
「……あいつらが俺に生きていて欲しいと願うのは俺に王になって欲しいからだ。それが叶わなくなった今となってはその願いは無効だ。」
「あなたに生きていて欲しいのは願いを託すためじゃないわ! 幸せになって欲しいからなのよ!」
針鼠から驚愕の感情が頭に流れてきた。
エラは革命前夜、針鼠が部屋を出て行った後に皆が話していた事を話した。皆最後には、針鼠に幸せになって欲しいと笑っていたのだ。エラはそれをどうしても針鼠にわかってほしかった。
語り終えたあと、針鼠から、初めて悲しみの感情が伝わってきた。針鼠の長い耳が少しだけ下がった。
「……それを聞いてもなお俺の気持ちは変わらない。俺は、自分のために生きる。周りがどう思おうとも、周りにどんな影響が及ぼされようとも俺は自分の決めた道を進む。」
「…………復讐は何も生まないわ。」
「……。」
「……そう。」
エラは力なく答えた。
わかっていた。針鼠は何を言ってももう止まる気が無い事ぐらい。皆の気持ちを知った所で針鼠は復讐を曲げる男ではない。
「___なら、私も行くわ!!私も…女王様に復讐するためにあなたについていく!」
「____っ」
針鼠は息をのんだ。エラは立ち上がった。
「勘違いしないでよね。あなたのためについていきたいなんて微塵も思っていないわ。私自身はあなたがどうなっても構わないんだから。これは、___私の戦いなのよ!勿論、叔父様と叔母様の事がある。女王様から解放して魔法を解いてあげたいわ!」
エラはカゴなしに自分の醜い顔がさらけだされているのにも構わず叫んだ。
「でもね、それだけじゃない!私にだって消えない炎が燃えてんのよ! 復讐は何も生まない? 結構よ! 誰の迷惑になろうとも世界中から悪魔と罵られようとも私は行くわ!そうでないと……そうでないと、もう誰も叫び続ける人がいなくなってしまう……! チビや昇り藤、黒目、皆の無念を__あの優しい人たちが確かにいたんだっていう事実を__叫び続ける人が! ……これが私のわがままだってのはわかってるわ。彼らは『白い教会』であった以上、こうなる日を覚悟していたのはわかってる。それでも私は納得ができない。たとえ、皆が復讐を望んでいなくても、私自身がそうしたいと望むから……だから私は復讐する!!」
エラは残りわずかな命である。黒目は、残された時間を何に使うか自分の頭で決めろ、と言っていた。ようやく今、結論が出た。もしかしたら、ずっと前から心に決めていたのかもしれない。
エラは針鼠に向き直った。
「だから、ここからは協力しあいましょう。あなたは自分の目的のために私を利用する。そして、私は自分のためにあなたを利用するわ。」
「……そうか。」
針鼠は、小さく頷いた。
「……イシ、…………………ありがとう。命を助けられた事にじゃない。もう一度……復讐する機会をくれた事に、感謝する。」
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