53 / 82
後編
53.針鼠の過去。復讐への誓い。(1)
しおりを挟む
俺の母_エミリアは心の優しい人だった。
王の妃という身分でありながら、誰にでも分け隔てなく尊敬心を持ち、思いやりをもって接していた。王にはもう一人妃がいた。その女の性格は最悪だったよ。そいつはエミリアよりも優秀で、美しい女で、エミリアに負ける要素がなかった。それでもあいつは母を侮辱し嫌がらせをし続け、王妃の座から退けようとした。エミリアが王子を産んだのが余程気に食わなかったんだろうな。エミリアは嫌がらせを耐え続け、父王にも報告しなかった。俺は子供ながらにもう一人の王妃の事が大嫌いだったよ。
俺はある日、
「あいつがいなくなればいいのに。」
と言った。すると、母は言った。
「そんな事言ってはダメ。人間良い所と悪い所の両方を持っているものよ。私たちはあの人の悪い所を見ているだけ。あの人にもきっと素晴らしい部分があるのよ。」
とんだお人好しだな。もう一人の王妃は父王には性格の悪さを取り繕ったようだが、父はそれを見破っていたようだった。次第に母に愛情を傾けるようになった。だが母は、そんな父王に、二人の王妃を平等愛してくれと頼んだ。そうでなくてはもう一人の王妃がかわいそうだ、と。
その内に、父王は病で忽然と亡くなってしまった。亡くなる直前もう一人の王妃が『王家の指輪』を受け継ぎ、王位を継承した。
そこからが地獄だった。
あの女___女王は、王位に即位した途端、母と俺を捕まえた。罪状は『先王が病に伏せっているにもかかわらず、若い男と不義理の関係を結んでいた』だった。勿論、でっちあげだ。母エミリアは生涯父王を愛し続けた。あまりにも屈辱だった。貴族達はすぐに女王の側につき、母と俺には味方がほとんどいなかった。忠誠心の厚い者達が何人か味方してくれた。
だが、女王は彼らも母も捕まえた。そして、俺の目の前で全員、火炙りの刑にした。
母は泣きながら父と俺の名前を何度も叫んでいたよ。力尽きる最期の時まで。何度も何度も。俺は何もできずにただ見ている事しかできなかった。あんなに優しかった母や忠臣達を、残酷に殺してしまう世界そのものが受け入れられなかった。
あの日から俺の中に炎がある。ずっと俺を蝕み燃え続けている。ずっとその炎に焼かれて苦しくてしょうがない。ただ、あの女_女王が苦しむのを想像する時だけは痛みが和らぐんだ。あの女を殺せばきっとこの火は消える。
そうすれば、きっと消えるはずだ。皮膚が焼けただれる匂いも、パチパチと人間を焼く火の音も、母の狂ったような叫び声も、全部___
――――
王の妃という身分でありながら、誰にでも分け隔てなく尊敬心を持ち、思いやりをもって接していた。王にはもう一人妃がいた。その女の性格は最悪だったよ。そいつはエミリアよりも優秀で、美しい女で、エミリアに負ける要素がなかった。それでもあいつは母を侮辱し嫌がらせをし続け、王妃の座から退けようとした。エミリアが王子を産んだのが余程気に食わなかったんだろうな。エミリアは嫌がらせを耐え続け、父王にも報告しなかった。俺は子供ながらにもう一人の王妃の事が大嫌いだったよ。
俺はある日、
「あいつがいなくなればいいのに。」
と言った。すると、母は言った。
「そんな事言ってはダメ。人間良い所と悪い所の両方を持っているものよ。私たちはあの人の悪い所を見ているだけ。あの人にもきっと素晴らしい部分があるのよ。」
とんだお人好しだな。もう一人の王妃は父王には性格の悪さを取り繕ったようだが、父はそれを見破っていたようだった。次第に母に愛情を傾けるようになった。だが母は、そんな父王に、二人の王妃を平等愛してくれと頼んだ。そうでなくてはもう一人の王妃がかわいそうだ、と。
その内に、父王は病で忽然と亡くなってしまった。亡くなる直前もう一人の王妃が『王家の指輪』を受け継ぎ、王位を継承した。
そこからが地獄だった。
あの女___女王は、王位に即位した途端、母と俺を捕まえた。罪状は『先王が病に伏せっているにもかかわらず、若い男と不義理の関係を結んでいた』だった。勿論、でっちあげだ。母エミリアは生涯父王を愛し続けた。あまりにも屈辱だった。貴族達はすぐに女王の側につき、母と俺には味方がほとんどいなかった。忠誠心の厚い者達が何人か味方してくれた。
だが、女王は彼らも母も捕まえた。そして、俺の目の前で全員、火炙りの刑にした。
母は泣きながら父と俺の名前を何度も叫んでいたよ。力尽きる最期の時まで。何度も何度も。俺は何もできずにただ見ている事しかできなかった。あんなに優しかった母や忠臣達を、残酷に殺してしまう世界そのものが受け入れられなかった。
あの日から俺の中に炎がある。ずっと俺を蝕み燃え続けている。ずっとその炎に焼かれて苦しくてしょうがない。ただ、あの女_女王が苦しむのを想像する時だけは痛みが和らぐんだ。あの女を殺せばきっとこの火は消える。
そうすれば、きっと消えるはずだ。皮膚が焼けただれる匂いも、パチパチと人間を焼く火の音も、母の狂ったような叫び声も、全部___
――――
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる