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前編
45.革命(1)
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ざわざわとざわめく群衆が、競技場のような巨大な円形の建物で立ち並んでいる。
ただし、この建物は競技場ではなく、処刑場だ。処刑場は切り立った崖の上に建っている。崖の下には、王都ロウサを取り囲む自然の防壁『迷いの森』が広がっている。『迷いの森』は、入ったが最後不思議な力により森から抜けられなくなるのだ。処刑場から万が一死刑囚が逃げ出そうとも、背後には大きな崖がありその下には『迷いの森』がある__つまり袋の鼠だ。絶対に死刑囚を逃さないためにこのような場所に処刑場が建設されたのである。
そして今、処刑場の円の中心には十数人の人々が手足を縛られて座っていた。彼らは数日前フリン牢獄を襲撃した犯罪者ギルド『白い教会』のメンバーだ。
_これから、彼らが処刑される。
処刑場には義務で来た者もいれば興味本位で来た者もいる。皆緊張してこの後起きる惨状を見守ろうとしていた。
そして、その群衆の中にエラもいた。
エラは一昨日火の魔法を放って以来、魔法が使えずにいた。黒目によると、どの魔法使いも初めて魔法を使えた時は魔力の調整がうまくできず、放った後数日は魔法が使えなくなるのだそうだ。せっかく魔法が使えるようになったのに、 今日のように重要な日に役に立てないのは歯痒かった。
杖は今黒目が持っている。基本的に魔法は杖なしでは放つ事ができない。ならば杖なしでもエラが「魔法で世界を見える」のは何故かと問うと、それは黒目でもわからないらしい。
他にもチビや昇り藤など、『白い教会』の全勢力が観客の中に紛れ込んでいる。戦力外のメンバーも、役割がある。針鼠が、王子宣言をした時に、観客席から『白い教会』に賛同する声をあげる役目をする__いわゆるサクラだ。黒目はサクラも重要な役割だと言っていた。チビや昇り藤はエラとは反対側の観客席の方にいる。エラは今一人だ。
観客席の最前列には貴族達が陣取っており、その中心には耳が長く、髪と顎が真っ白い毛で覆われた老人が座っていた。エルフ連合教会の大司教である。
「これより、罪人を処刑する!」
兵士が中央に立って大声で叫んだ。
「この者達は犯罪者ギルド『白い教会』である!フリン牢獄を襲い、残虐な罪人達を解き放った! 今、その血をもって罪をつぐなわせる!」
(彼らは罪もなく囚われた人達を救おうとしていたのよ…。)
エラは首を小さく振った。
フリン牢獄には罪人が収監されているが、その多くは女王の機嫌を損ねたり国政を疑問視しただけの善良な人々だ。黒目達は彼らを救いたくて、針鼠に知らせずに独自に襲撃をしたのだ。もし、彼らがいなかったらエラは今頃牢獄に閉じ込められていただろう。最悪の環境の中、呪いが進行し、最後には孤独に死を迎えていただろう。
兵士は足早に立ち去り、手足を縛られた人々だけが後に残された。
____ギ…ギギ__
向かい側の観客席の下にある大きな鉄格子の扉が少しだけ開いた。
「_ガァアアアッッ」
ガリッ!!と扉が大きな爪で引っ掛かれ、獣の唸り声が聞こえた。巨大な鉄格子の扉の隙間から餌を目の前にして唾を垂らした獰猛な獣の顔がちらりと見えた。観客達が悲鳴をあげた。
_獣に彼らを殺させる気だ!
エラは恐ろしくなって身震いした。手足が縛られ身動きがとれない死刑囚達を無惨に食い散らかせるつもりなのだ。
(早く……早く助けに行って!皆!!)
__ギイ……ギギィ……ギ
扉がどんどん上にあがってゆく。鋭い爪のついた大きな手が開いた扉の隙間から出た。エラはつい手を組んで祈った。
__ギギギィ……ギ
__……ギギ……ギ……ギギギィ
____________ギィ
(!!!!)
__扉が、開いた。
『白い教会』の他のメンバーが助けにこない。扉が完全に開いてしまった。
(……どういう事!?針鼠達はなんで来ないの!?何かあったの…!?)
闇の中へ獣の手が引っ込む。獣はすぐには出てこなかった。エラは手に汗を握った。獣はゆっくりと闇の中から出てきてその姿を現した。
見た目は犬のように見える。ただし、身体中の毛は真っ黒で大きさは人の何十倍もあり、頭が三つもあった!
__ケルベロスだ!
誰かが叫んだ。『白い教会』を処刑するためにケルベロスを連れてきたのだ!
もはや、手遅れになった。エラはそう思った。今から針鼠達が助けにきてもあんなに大きな化け物を止められるはずがない。エラはこれから行われる惨状が目に浮かんだ。その時__
何か一つの黒い影が観客席から飛び込み、ケルベロスの背中に乗った。
「_ウォガァアアアァァアアアアアア__ッッ!!」
ケルベロスが甲高い悲鳴をあげた。と、同時にケルベロスの背中からドス黒い血が、ドバッ!!と噴き出た。ケルベロスの大きな身体はゆっくりと横に倒れる。その背中にはまだあの影が残っていた。観客は固唾をのんで影を見た。
___そこにいたのは、一人の青年だった。
ただし、この建物は競技場ではなく、処刑場だ。処刑場は切り立った崖の上に建っている。崖の下には、王都ロウサを取り囲む自然の防壁『迷いの森』が広がっている。『迷いの森』は、入ったが最後不思議な力により森から抜けられなくなるのだ。処刑場から万が一死刑囚が逃げ出そうとも、背後には大きな崖がありその下には『迷いの森』がある__つまり袋の鼠だ。絶対に死刑囚を逃さないためにこのような場所に処刑場が建設されたのである。
そして今、処刑場の円の中心には十数人の人々が手足を縛られて座っていた。彼らは数日前フリン牢獄を襲撃した犯罪者ギルド『白い教会』のメンバーだ。
_これから、彼らが処刑される。
処刑場には義務で来た者もいれば興味本位で来た者もいる。皆緊張してこの後起きる惨状を見守ろうとしていた。
そして、その群衆の中にエラもいた。
エラは一昨日火の魔法を放って以来、魔法が使えずにいた。黒目によると、どの魔法使いも初めて魔法を使えた時は魔力の調整がうまくできず、放った後数日は魔法が使えなくなるのだそうだ。せっかく魔法が使えるようになったのに、 今日のように重要な日に役に立てないのは歯痒かった。
杖は今黒目が持っている。基本的に魔法は杖なしでは放つ事ができない。ならば杖なしでもエラが「魔法で世界を見える」のは何故かと問うと、それは黒目でもわからないらしい。
他にもチビや昇り藤など、『白い教会』の全勢力が観客の中に紛れ込んでいる。戦力外のメンバーも、役割がある。針鼠が、王子宣言をした時に、観客席から『白い教会』に賛同する声をあげる役目をする__いわゆるサクラだ。黒目はサクラも重要な役割だと言っていた。チビや昇り藤はエラとは反対側の観客席の方にいる。エラは今一人だ。
観客席の最前列には貴族達が陣取っており、その中心には耳が長く、髪と顎が真っ白い毛で覆われた老人が座っていた。エルフ連合教会の大司教である。
「これより、罪人を処刑する!」
兵士が中央に立って大声で叫んだ。
「この者達は犯罪者ギルド『白い教会』である!フリン牢獄を襲い、残虐な罪人達を解き放った! 今、その血をもって罪をつぐなわせる!」
(彼らは罪もなく囚われた人達を救おうとしていたのよ…。)
エラは首を小さく振った。
フリン牢獄には罪人が収監されているが、その多くは女王の機嫌を損ねたり国政を疑問視しただけの善良な人々だ。黒目達は彼らを救いたくて、針鼠に知らせずに独自に襲撃をしたのだ。もし、彼らがいなかったらエラは今頃牢獄に閉じ込められていただろう。最悪の環境の中、呪いが進行し、最後には孤独に死を迎えていただろう。
兵士は足早に立ち去り、手足を縛られた人々だけが後に残された。
____ギ…ギギ__
向かい側の観客席の下にある大きな鉄格子の扉が少しだけ開いた。
「_ガァアアアッッ」
ガリッ!!と扉が大きな爪で引っ掛かれ、獣の唸り声が聞こえた。巨大な鉄格子の扉の隙間から餌を目の前にして唾を垂らした獰猛な獣の顔がちらりと見えた。観客達が悲鳴をあげた。
_獣に彼らを殺させる気だ!
エラは恐ろしくなって身震いした。手足が縛られ身動きがとれない死刑囚達を無惨に食い散らかせるつもりなのだ。
(早く……早く助けに行って!皆!!)
__ギイ……ギギィ……ギ
扉がどんどん上にあがってゆく。鋭い爪のついた大きな手が開いた扉の隙間から出た。エラはつい手を組んで祈った。
__ギギギィ……ギ
__……ギギ……ギ……ギギギィ
____________ギィ
(!!!!)
__扉が、開いた。
『白い教会』の他のメンバーが助けにこない。扉が完全に開いてしまった。
(……どういう事!?針鼠達はなんで来ないの!?何かあったの…!?)
闇の中へ獣の手が引っ込む。獣はすぐには出てこなかった。エラは手に汗を握った。獣はゆっくりと闇の中から出てきてその姿を現した。
見た目は犬のように見える。ただし、身体中の毛は真っ黒で大きさは人の何十倍もあり、頭が三つもあった!
__ケルベロスだ!
誰かが叫んだ。『白い教会』を処刑するためにケルベロスを連れてきたのだ!
もはや、手遅れになった。エラはそう思った。今から針鼠達が助けにきてもあんなに大きな化け物を止められるはずがない。エラはこれから行われる惨状が目に浮かんだ。その時__
何か一つの黒い影が観客席から飛び込み、ケルベロスの背中に乗った。
「_ウォガァアアアァァアアアアアア__ッッ!!」
ケルベロスが甲高い悲鳴をあげた。と、同時にケルベロスの背中からドス黒い血が、ドバッ!!と噴き出た。ケルベロスの大きな身体はゆっくりと横に倒れる。その背中にはまだあの影が残っていた。観客は固唾をのんで影を見た。
___そこにいたのは、一人の青年だった。
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