【完結済】女王に体の大切な部分が徐々になくなっていく呪いをかけられ絶望の縁に立たされていた貴族令嬢が元王子と出会って革命を起こします!!

寿(ひさ)

文字の大きさ
上 下
39 / 82
前編

39.目覚める力(1)

しおりを挟む
 エラは、驚愕した。

_針鼠だ!

 針鼠がエラ達を助けに駆けつけてくれたのだ。

「聖堂で待機してるんじゃなかったのか?」

 蜘蛛があくまでも冷静に聞いた。

「お前達が遅いから駆けつけて来たんだ!」

 黒目が叫んだ。彼女は針鼠の背後で魔獣に応戦していた。
 黒目は魔法で炎をまとったレイピアを魔獣達に斬りつけていた。隙をつかれて攻撃されてもひるまずに、見たこともないような魔法を繰り出す。少しの無駄もなく、魔法で複数の魔獣を同時に薙ぎ払っていく。エラは、黒目が何人かの『白い教会』のメンバーを率いてフリン牢獄を襲撃した事を思い出した。主戦力に内緒で、勝手に数人を従えて襲撃できたのは黒目に相応の戦闘能力があったからなのではないか、とエラは思った。

 だが、それだけの強さを持つ黒目がかすんでしまう程、針鼠の威力はすさまじかった。蜘蛛達が束になっても手こずっていた魔獣をロングソードで軽々と吹き飛ばす。針鼠は細身であるのにもかかわらずに、重そうなロングソードを軽々と片手でぶんぶん振り回し、上に下にと魔獣の大きな体を叩き切っていく。蜘蛛達は『白い教会』の最強のメンバーだと聞いていたが、針鼠の実力は素人目に見ても比じゃなかった。さっきまで『白い教会』が魔獣に追い込まれていたのが針鼠一人来ただけで形勢が変わった。

「は、針鼠ってあんなに強かったの……!?」

 エラは愕然とした。普段の憎たらしい部分ばかり見てきた分、まるでヒーローのように蜘蛛達を助け出す彼が別人のように思えた。

「奴は『白い教会』最強の剣士だぞ。」

 心底驚いているエラに逆にびっくりした様子の黒目が教えてくれた。
 確かに、針鼠に最初に会った時、『歩く月』の男達を蹴散らしていた。だが、目の前の魔獣の大群は『歩く月』のチンピラとは比べものにならない程の強敵だ。それをいとも簡単に倒す程の実力だとは、思いも寄らなかった。

「まあ、あれで『白い教会』のリーダーやってるんだ。性格悪い分強くなきゃ採算がとれないだろ。」

 黒目の言葉に、「た、たしかに(?)」とエラは頷く。

「___ゥ…ァア__!」

 突然、蜘蛛の叫び声が響いた。エラが振り返ると、蜘蛛が右肩から左脇にかけて魔獣の爪で深く切り裂かれていた。血がドッと吹き出し、後ろに倒れた。魔獣は機を逃さず口を大きく開き、牙で蜘蛛の頭を噛み砕こうとする。

「____っ」

 エラは小さな悲鳴をあげた。
 だが、すぐに針鼠が蜘蛛と魔獣の間に入った。ロングソードで魔獣の牙を受け止める。渾身の力で魔獣を吹き飛ばした。
 流石に消耗したのか、針鼠は息があがっていた。

「……すまない。」

「……ッ……立て。」

 針鼠は、蜘蛛の右腕を掴んで無理やり立たせた。蜘蛛は大きな傷を負って息も絶え絶えだったが、なんとか立ち上がる。

 しかし、魔獣が一匹針鼠達に襲い掛かった。魔獣はさっきまで兄ドラ達と対峙していた。だが、それは針鼠が油断する隙を見計らっていた。針鼠をマークしていたのだ。

「危ない!」

 エラは思わず叫んだ。咄嗟に腰布に挟んでいた杖を抜く。杖を構えた時、またあの白い蝶が視界の隅でキラキラと飛んでいるように見えた。

「も、燃えろ!」




___その時、不思議な事が起きた。
 体が熱くなり一気に疲労感がのしかかってくる。エラの力が抜けていくのと同時に杖が熱を帯び、真っ白な光を放った。

__ゴオォッッ……

 杖の先から炎が吹き出た。
 魔法の訓練で黒目が見せてくれた物の何倍もの規模の、大きな火の玉だ。火の玉は、今まさに針鼠に攻撃しようとしていた魔獣に直撃し、魔獣は叫び声をあげた。針鼠達が驚愕して、魔獣を見て、エラを見た。
 エラは自分に何が起きたか理解できなかった。その場で身体中の力が抜けきり、崩れ落ちた。

 別の魔獣が怒りで咆哮する。突進し、動けなくなったエラに噛みつく___

「__ッ……ぅごけよ!! 死にてえのか!!」

__前に、針鼠がエラを引っ掴んで魔獣の攻撃を避けた。

「か、体が思うように動かない……。」

 エラが弱々しく言うと、針鼠は盛大な舌打ちをして乱暴に担いだ。

「リーダー! こっちだ!」

 兄ドラ達が魔獣の群れを押し退けて針鼠を呼ぶ。魔獣に取り囲まれた状況下で兄ドラ達がいる所だけ魔獣達の肉塊が地面に大量に転がり、退路ができていた。他の人たちはもう既に先に逃げていた。針鼠はエラを担いだまま兄ドラの元へ走りだした。しかし、魔獣の肉塊がすぐに集合し元の姿に回復し始めていた。

(このままでは間に合わないわ!)

 針鼠から、兄ドラたちがいる所まで少し距離があった。走る間にも魔獣はものすごいスピードで回復していく。エラは深い絶望感に襲われた。
 針鼠のすぐ後ろで回復しきった魔獣が起き上がった。恐ろしく鋭い牙をエラたちに向けた。

「_キ…アァアア___」

 魔獣は針鼠に担がれたエラに狙いを定めて、大きく口を開けた。エラはほとんど反射的に杖を構えた。

_世の中案外目に頼らなくていいもの_むしろ、頼らない方がいいものが結構あるのかもしれないねぇ。

 前に、兄ドラに言われた言葉をふと思い出した。

 目に頼らない。その事を意識した時、エラは急に、どこに何があるのかが頭にはいってくるようになった。つまり、魔法が使えるようになったのだ。

(目に頼らない。新しい力に_新しい私に身を委ねるのよ、エラ!!)

 一瞬、何十匹もの白い蝶がエラの周囲を舞ったように思えた。

「___燃えろ!!」

 エラは叫んだ。
 今度はさっきとは比べものにならない程大きな疲労感と苦痛がエラの体を襲った。杖からバチバチッと火花が飛び出し、徐々に、徐々に光が大きく輝き始める。




__ゴオオオオォッッ!!








 火の玉なんてものではなかった。

 あたり一面が焼き尽くされ、魔獣は苦痛の叫び声をあげた。エラが火を放った衝撃で針鼠が前へ吹き飛ばされる。針鼠はすぐに受け身をとったが、エラは地面に放り出され、強く体を強打した。


 そこからは、エラの意識が曖昧だった。魔法による疲労感と体への強い衝撃で意識が途切れ途切れだった。針鼠がすぐにエラを担ぎ上げたのは覚えていた。その後、『白い教会』は誰一人欠ける事なく抜け道を使いロウサ城から脱出した。
__ロウサ城侵入作戦は成功したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬
恋愛
 10歳で異世界を訪れたカリン。元の世界に帰されたが、異世界に残した兄を止めるために16歳で再び異世界へ。  しかし、戻った場所は聖女召喚の儀の真っ最中。誤解が誤解を呼んで、男性しかなれない勇者見習いに認定されてしまいました。  ところで私は女です。  訳あり名門貴族(下僕)、イケメン義兄1(腹黒)、イケメン義兄2(薄幸器用貧乏)、関西弁(お人好し)に囲まれながら、何故か人外(可愛い)に落とされてしまった話。 √アンズ すぽいる様リクエストありがとうございました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...