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前編
39.目覚める力(1)
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エラは、驚愕した。
_針鼠だ!
針鼠がエラ達を助けに駆けつけてくれたのだ。
「聖堂で待機してるんじゃなかったのか?」
蜘蛛があくまでも冷静に聞いた。
「お前達が遅いから駆けつけて来たんだ!」
黒目が叫んだ。彼女は針鼠の背後で魔獣に応戦していた。
黒目は魔法で炎をまとったレイピアを魔獣達に斬りつけていた。隙をつかれて攻撃されてもひるまずに、見たこともないような魔法を繰り出す。少しの無駄もなく、魔法で複数の魔獣を同時に薙ぎ払っていく。エラは、黒目が何人かの『白い教会』のメンバーを率いてフリン牢獄を襲撃した事を思い出した。主戦力に内緒で、勝手に数人を従えて襲撃できたのは黒目に相応の戦闘能力があったからなのではないか、とエラは思った。
だが、それだけの強さを持つ黒目がかすんでしまう程、針鼠の威力はすさまじかった。蜘蛛達が束になっても手こずっていた魔獣をロングソードで軽々と吹き飛ばす。針鼠は細身であるのにもかかわらずに、重そうなロングソードを軽々と片手でぶんぶん振り回し、上に下にと魔獣の大きな体を叩き切っていく。蜘蛛達は『白い教会』の最強のメンバーだと聞いていたが、針鼠の実力は素人目に見ても比じゃなかった。さっきまで『白い教会』が魔獣に追い込まれていたのが針鼠一人来ただけで形勢が変わった。
「は、針鼠ってあんなに強かったの……!?」
エラは愕然とした。普段の憎たらしい部分ばかり見てきた分、まるでヒーローのように蜘蛛達を助け出す彼が別人のように思えた。
「奴は『白い教会』最強の剣士だぞ。」
心底驚いているエラに逆にびっくりした様子の黒目が教えてくれた。
確かに、針鼠に最初に会った時、『歩く月』の男達を蹴散らしていた。だが、目の前の魔獣の大群は『歩く月』のチンピラとは比べものにならない程の強敵だ。それをいとも簡単に倒す程の実力だとは、思いも寄らなかった。
「まあ、あれで『白い教会』のリーダーやってるんだ。性格悪い分強くなきゃ採算がとれないだろ。」
黒目の言葉に、「た、たしかに(?)」とエラは頷く。
「___ゥ…ァア__!」
突然、蜘蛛の叫び声が響いた。エラが振り返ると、蜘蛛が右肩から左脇にかけて魔獣の爪で深く切り裂かれていた。血がドッと吹き出し、後ろに倒れた。魔獣は機を逃さず口を大きく開き、牙で蜘蛛の頭を噛み砕こうとする。
「____っ」
エラは小さな悲鳴をあげた。
だが、すぐに針鼠が蜘蛛と魔獣の間に入った。ロングソードで魔獣の牙を受け止める。渾身の力で魔獣を吹き飛ばした。
流石に消耗したのか、針鼠は息があがっていた。
「……すまない。」
「……ッ……立て。」
針鼠は、蜘蛛の右腕を掴んで無理やり立たせた。蜘蛛は大きな傷を負って息も絶え絶えだったが、なんとか立ち上がる。
しかし、魔獣が一匹針鼠達に襲い掛かった。魔獣はさっきまで兄ドラ達と対峙していた。だが、それは針鼠が油断する隙を見計らっていた。針鼠をマークしていたのだ。
「危ない!」
エラは思わず叫んだ。咄嗟に腰布に挟んでいた杖を抜く。杖を構えた時、またあの白い蝶が視界の隅でキラキラと飛んでいるように見えた。
「も、燃えろ!」
___その時、不思議な事が起きた。
体が熱くなり一気に疲労感がのしかかってくる。エラの力が抜けていくのと同時に杖が熱を帯び、真っ白な光を放った。
__ゴオォッッ……
杖の先から炎が吹き出た。
魔法の訓練で黒目が見せてくれた物の何倍もの規模の、大きな火の玉だ。火の玉は、今まさに針鼠に攻撃しようとしていた魔獣に直撃し、魔獣は叫び声をあげた。針鼠達が驚愕して、魔獣を見て、エラを見た。
エラは自分に何が起きたか理解できなかった。その場で身体中の力が抜けきり、崩れ落ちた。
別の魔獣が怒りで咆哮する。突進し、動けなくなったエラに噛みつく___
「__ッ……ぅごけよ!! 死にてえのか!!」
__前に、針鼠がエラを引っ掴んで魔獣の攻撃を避けた。
「か、体が思うように動かない……。」
エラが弱々しく言うと、針鼠は盛大な舌打ちをして乱暴に担いだ。
「リーダー! こっちだ!」
兄ドラ達が魔獣の群れを押し退けて針鼠を呼ぶ。魔獣に取り囲まれた状況下で兄ドラ達がいる所だけ魔獣達の肉塊が地面に大量に転がり、退路ができていた。他の人たちはもう既に先に逃げていた。針鼠はエラを担いだまま兄ドラの元へ走りだした。しかし、魔獣の肉塊がすぐに集合し元の姿に回復し始めていた。
(このままでは間に合わないわ!)
針鼠から、兄ドラたちがいる所まで少し距離があった。走る間にも魔獣はものすごいスピードで回復していく。エラは深い絶望感に襲われた。
針鼠のすぐ後ろで回復しきった魔獣が起き上がった。恐ろしく鋭い牙をエラたちに向けた。
「_キ…アァアア___」
魔獣は針鼠に担がれたエラに狙いを定めて、大きく口を開けた。エラはほとんど反射的に杖を構えた。
_世の中案外目に頼らなくていいもの_むしろ、頼らない方がいいものが結構あるのかもしれないねぇ。
前に、兄ドラに言われた言葉をふと思い出した。
目に頼らない。その事を意識した時、エラは急に、どこに何があるのかが頭にはいってくるようになった。つまり、魔法が使えるようになったのだ。
(目に頼らない。新しい力に_新しい私に身を委ねるのよ、エラ!!)
一瞬、何十匹もの白い蝶がエラの周囲を舞ったように思えた。
「___燃えろ!!」
エラは叫んだ。
今度はさっきとは比べものにならない程大きな疲労感と苦痛がエラの体を襲った。杖からバチバチッと火花が飛び出し、徐々に、徐々に光が大きく輝き始める。
__ゴオオオオォッッ!!
火の玉なんてものではなかった。
あたり一面が焼き尽くされ、魔獣は苦痛の叫び声をあげた。エラが火を放った衝撃で針鼠が前へ吹き飛ばされる。針鼠はすぐに受け身をとったが、エラは地面に放り出され、強く体を強打した。
そこからは、エラの意識が曖昧だった。魔法による疲労感と体への強い衝撃で意識が途切れ途切れだった。針鼠がすぐにエラを担ぎ上げたのは覚えていた。その後、『白い教会』は誰一人欠ける事なく抜け道を使いロウサ城から脱出した。
__ロウサ城侵入作戦は成功したのだ。
_針鼠だ!
針鼠がエラ達を助けに駆けつけてくれたのだ。
「聖堂で待機してるんじゃなかったのか?」
蜘蛛があくまでも冷静に聞いた。
「お前達が遅いから駆けつけて来たんだ!」
黒目が叫んだ。彼女は針鼠の背後で魔獣に応戦していた。
黒目は魔法で炎をまとったレイピアを魔獣達に斬りつけていた。隙をつかれて攻撃されてもひるまずに、見たこともないような魔法を繰り出す。少しの無駄もなく、魔法で複数の魔獣を同時に薙ぎ払っていく。エラは、黒目が何人かの『白い教会』のメンバーを率いてフリン牢獄を襲撃した事を思い出した。主戦力に内緒で、勝手に数人を従えて襲撃できたのは黒目に相応の戦闘能力があったからなのではないか、とエラは思った。
だが、それだけの強さを持つ黒目がかすんでしまう程、針鼠の威力はすさまじかった。蜘蛛達が束になっても手こずっていた魔獣をロングソードで軽々と吹き飛ばす。針鼠は細身であるのにもかかわらずに、重そうなロングソードを軽々と片手でぶんぶん振り回し、上に下にと魔獣の大きな体を叩き切っていく。蜘蛛達は『白い教会』の最強のメンバーだと聞いていたが、針鼠の実力は素人目に見ても比じゃなかった。さっきまで『白い教会』が魔獣に追い込まれていたのが針鼠一人来ただけで形勢が変わった。
「は、針鼠ってあんなに強かったの……!?」
エラは愕然とした。普段の憎たらしい部分ばかり見てきた分、まるでヒーローのように蜘蛛達を助け出す彼が別人のように思えた。
「奴は『白い教会』最強の剣士だぞ。」
心底驚いているエラに逆にびっくりした様子の黒目が教えてくれた。
確かに、針鼠に最初に会った時、『歩く月』の男達を蹴散らしていた。だが、目の前の魔獣の大群は『歩く月』のチンピラとは比べものにならない程の強敵だ。それをいとも簡単に倒す程の実力だとは、思いも寄らなかった。
「まあ、あれで『白い教会』のリーダーやってるんだ。性格悪い分強くなきゃ採算がとれないだろ。」
黒目の言葉に、「た、たしかに(?)」とエラは頷く。
「___ゥ…ァア__!」
突然、蜘蛛の叫び声が響いた。エラが振り返ると、蜘蛛が右肩から左脇にかけて魔獣の爪で深く切り裂かれていた。血がドッと吹き出し、後ろに倒れた。魔獣は機を逃さず口を大きく開き、牙で蜘蛛の頭を噛み砕こうとする。
「____っ」
エラは小さな悲鳴をあげた。
だが、すぐに針鼠が蜘蛛と魔獣の間に入った。ロングソードで魔獣の牙を受け止める。渾身の力で魔獣を吹き飛ばした。
流石に消耗したのか、針鼠は息があがっていた。
「……すまない。」
「……ッ……立て。」
針鼠は、蜘蛛の右腕を掴んで無理やり立たせた。蜘蛛は大きな傷を負って息も絶え絶えだったが、なんとか立ち上がる。
しかし、魔獣が一匹針鼠達に襲い掛かった。魔獣はさっきまで兄ドラ達と対峙していた。だが、それは針鼠が油断する隙を見計らっていた。針鼠をマークしていたのだ。
「危ない!」
エラは思わず叫んだ。咄嗟に腰布に挟んでいた杖を抜く。杖を構えた時、またあの白い蝶が視界の隅でキラキラと飛んでいるように見えた。
「も、燃えろ!」
___その時、不思議な事が起きた。
体が熱くなり一気に疲労感がのしかかってくる。エラの力が抜けていくのと同時に杖が熱を帯び、真っ白な光を放った。
__ゴオォッッ……
杖の先から炎が吹き出た。
魔法の訓練で黒目が見せてくれた物の何倍もの規模の、大きな火の玉だ。火の玉は、今まさに針鼠に攻撃しようとしていた魔獣に直撃し、魔獣は叫び声をあげた。針鼠達が驚愕して、魔獣を見て、エラを見た。
エラは自分に何が起きたか理解できなかった。その場で身体中の力が抜けきり、崩れ落ちた。
別の魔獣が怒りで咆哮する。突進し、動けなくなったエラに噛みつく___
「__ッ……ぅごけよ!! 死にてえのか!!」
__前に、針鼠がエラを引っ掴んで魔獣の攻撃を避けた。
「か、体が思うように動かない……。」
エラが弱々しく言うと、針鼠は盛大な舌打ちをして乱暴に担いだ。
「リーダー! こっちだ!」
兄ドラ達が魔獣の群れを押し退けて針鼠を呼ぶ。魔獣に取り囲まれた状況下で兄ドラ達がいる所だけ魔獣達の肉塊が地面に大量に転がり、退路ができていた。他の人たちはもう既に先に逃げていた。針鼠はエラを担いだまま兄ドラの元へ走りだした。しかし、魔獣の肉塊がすぐに集合し元の姿に回復し始めていた。
(このままでは間に合わないわ!)
針鼠から、兄ドラたちがいる所まで少し距離があった。走る間にも魔獣はものすごいスピードで回復していく。エラは深い絶望感に襲われた。
針鼠のすぐ後ろで回復しきった魔獣が起き上がった。恐ろしく鋭い牙をエラたちに向けた。
「_キ…アァアア___」
魔獣は針鼠に担がれたエラに狙いを定めて、大きく口を開けた。エラはほとんど反射的に杖を構えた。
_世の中案外目に頼らなくていいもの_むしろ、頼らない方がいいものが結構あるのかもしれないねぇ。
前に、兄ドラに言われた言葉をふと思い出した。
目に頼らない。その事を意識した時、エラは急に、どこに何があるのかが頭にはいってくるようになった。つまり、魔法が使えるようになったのだ。
(目に頼らない。新しい力に_新しい私に身を委ねるのよ、エラ!!)
一瞬、何十匹もの白い蝶がエラの周囲を舞ったように思えた。
「___燃えろ!!」
エラは叫んだ。
今度はさっきとは比べものにならない程大きな疲労感と苦痛がエラの体を襲った。杖からバチバチッと火花が飛び出し、徐々に、徐々に光が大きく輝き始める。
__ゴオオオオォッッ!!
火の玉なんてものではなかった。
あたり一面が焼き尽くされ、魔獣は苦痛の叫び声をあげた。エラが火を放った衝撃で針鼠が前へ吹き飛ばされる。針鼠はすぐに受け身をとったが、エラは地面に放り出され、強く体を強打した。
そこからは、エラの意識が曖昧だった。魔法による疲労感と体への強い衝撃で意識が途切れ途切れだった。針鼠がすぐにエラを担ぎ上げたのは覚えていた。その後、『白い教会』は誰一人欠ける事なく抜け道を使いロウサ城から脱出した。
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