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前編
36.女王のペット(1)
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夕闇が、どんどん夜の暗さに変わってゆく。
欠けた月と星々が徐々にその光を強めていった。もっとも、明暗のわからないエラには何も見えなかった。
今、エラ達はロウサ城内にいた。
ロウサ城内へはエラが昔姫から聞いていた抜け道から入る事であっさり中に侵入する事ができた。
女王に呪われた日、エラは絶望の縁に立たされていた。それが、まさか数日後には城に戻ってくる事になるなんて思いも寄らなかった。ロウサ城の中には限られた者しか知らない巨大な街が広がっている。その美しい景色は今のエラの目では見えないはずだが、ありありとその情景が目に浮かんだ。
ロウサ城侵入作戦は驚く程順調に進んだ。
黒目、針鼠と分かれて、地図とエラの記憶を頼りに、警備の目をくぐりつつロウサ城内最奥の王家の城へと侵入した。
「猫の見た目をした魔獣がいるんだ。それが、目下最も注意すべき魔獣だ。」
茶髪のノドム族の男_蜘蛛が言った。
エラはロウサ城の入口を守っていた、目の見えない老猫の事を思い出した。エラが見たときはあまり脅威ではなさそうだったが、侵入者を目の前にすると恐ろしい姿に変化すると言う。蜘蛛曰くそれが王家の城にわんさかいるらしい。
「強いの?」
「強いなんてもんじゃない。」
蜘蛛は首をふった。エラはごくりと唾をのんだ。
王家の城にも_エラは知らなかったが_隠し通路があり、そこから侵入した。途中、数人の警備に見つかってしまったが蜘蛛達が手慣れた手つきで倒してしまった。魔獣には会う事もなく中に入り込む事ができた。部屋を一つ一つ確認していく。
_女王の執務室にたどり着いた。
女王の執務室は奥に寝室が続いていた。大きな部屋だが、今は主が不在のため、召使いや警備もいなくてガランとしている。
「あった……! これだ……!」
弟ドラが奥の寝室で、小さな声で叫んだ。
壁にエラの手のひら程度の小さな丸い蓋がついていた。どうやらこの蓋を開けると目当ての物が入っているらしい。だが、蓋は紫色の霧のような物に包まれていて、まだ魔法で封印されているようだった。弟ドラが力づくで開けようとしてもびくともしない。
「チッ……針鼠の奴、手こずってるな……。」
弟ドラは苛立って舌打ちをする。
この蓋の封印を解くのは針鼠と黒目の役目だ。彼らがロウサ城内聖堂の地下にある魔法の封印を解く事でこの蓋が開くようになるらしい。
「誰か応援に行くべきでしょうか?」
神父が心配そうに言った。
「いや、あいつが万一にも抜かるこたねえだろ。下手に動いた方がかえって危険だ。待とう。」
そう言って弟ドラは持っていた斧を下ろして地面に座った。他の面々も動く様子がなく、ただ黙って待機した。
エラはその間に執務室にある女王の机を探った。机の上には書類が大量に散らばっており、それをまとめ上げた。目が見えていた時程ではないが、なんとなく文章が頭に入ってくる。エラは「ホール家」という単語がないか一枚一枚目を通した。あまりにも書類が多いので、兄ドラあたりに手伝ってもらおうかと思ったが字が読めないようなので、一人で黙々と読み進めた。
読んでいる途中、ふと、背後で物音がした。エラは気のせいかと思いつつも振り返る。すると__
「_プッ…ギーィー!」
豚の鳴き声が聞こえてエラに何かが乗っかってきた。
「魔獣か!?」
『白い教会』の男達がそれぞれの武器をもって構える。
「いいえ、ただの動物のようよ。」
エラは落ち着いて答えた。エラに乗っかかってきたのは豚だった。エラぐらいの身長はある。他にも何故今まで気づかなかったのかわからないが、犬や猫、ポニーなど、様々な動物がやってきた。
「女王のペットだ。奥の方で隠れていたみたいだ。」
蜘蛛が教えてくれた。
と、その時、バチバチッ……という音が聞こえて蓋の紫の霧が晴れた。兄ドラが緊張したように蓋に手をかけて、取手を握る。
ギイイッ……という音が鳴り、蓋が開いた。『白い教会』は小さな声で歓喜の声をあげた。
針鼠達が蓋の封印を解いたのだ!
蜘蛛は無言で中にある物を取り出した。
蜘蛛が手にした物は、_____指輪だ。
それがただの指輪でない事はエラにもわかった。
_あれは王家の指輪だ。
王位に就いた者が代々受け継ぐ宝物だ。『白い教会』が盗み出したかったのは、王家の指輪だったのだ。
(あれを盗んで針鼠達はどうしようっていうのかしら。)
指輪を盗んだ所で針鼠が本物の王子である事の証明にはならない。女王が盗人に指輪を盗まれたと騒ぎ立てるだけだ。
ふと、エラは疑問を感じた。
(宝物庫は別の場所にあるわよね……?宝物庫ならば近衛騎士団が厳重に警備しているはずだから、もっと安全なはずなのに、何故女王様はこんな所に隠していたのかしら?)
色々エラには腑に落ちない事があった。だが、エラが今気にすべき事はそこではない。指輪を手に入れた蜘蛛達が早々にここを立ち去ろうとしている。
(なんでもいい……! 何か叔父様達に少しでも関係した書類はないのかしら?)
エラは急いで書類をめくる。だが…
「_プギー!!」
さっきの豚がエラに体当たりしてきた。
「な、何……!?」
エラは流石に様子がおかしいと思って、豚の様子を探った。
エラの中に豚の感情が流れてくる。
とても、悲しい感情だ。
(………………え?)
_そうして、エラは、ある恐ろしい事に気づいてしまった。
「捕虜、早くしねえと置いてくぞ!」
弟ドラが急かしてくる。が、エラは聞かない。エラは目の前の事実に目を背けられない。
「お、叔父様……?」
欠けた月と星々が徐々にその光を強めていった。もっとも、明暗のわからないエラには何も見えなかった。
今、エラ達はロウサ城内にいた。
ロウサ城内へはエラが昔姫から聞いていた抜け道から入る事であっさり中に侵入する事ができた。
女王に呪われた日、エラは絶望の縁に立たされていた。それが、まさか数日後には城に戻ってくる事になるなんて思いも寄らなかった。ロウサ城の中には限られた者しか知らない巨大な街が広がっている。その美しい景色は今のエラの目では見えないはずだが、ありありとその情景が目に浮かんだ。
ロウサ城侵入作戦は驚く程順調に進んだ。
黒目、針鼠と分かれて、地図とエラの記憶を頼りに、警備の目をくぐりつつロウサ城内最奥の王家の城へと侵入した。
「猫の見た目をした魔獣がいるんだ。それが、目下最も注意すべき魔獣だ。」
茶髪のノドム族の男_蜘蛛が言った。
エラはロウサ城の入口を守っていた、目の見えない老猫の事を思い出した。エラが見たときはあまり脅威ではなさそうだったが、侵入者を目の前にすると恐ろしい姿に変化すると言う。蜘蛛曰くそれが王家の城にわんさかいるらしい。
「強いの?」
「強いなんてもんじゃない。」
蜘蛛は首をふった。エラはごくりと唾をのんだ。
王家の城にも_エラは知らなかったが_隠し通路があり、そこから侵入した。途中、数人の警備に見つかってしまったが蜘蛛達が手慣れた手つきで倒してしまった。魔獣には会う事もなく中に入り込む事ができた。部屋を一つ一つ確認していく。
_女王の執務室にたどり着いた。
女王の執務室は奥に寝室が続いていた。大きな部屋だが、今は主が不在のため、召使いや警備もいなくてガランとしている。
「あった……! これだ……!」
弟ドラが奥の寝室で、小さな声で叫んだ。
壁にエラの手のひら程度の小さな丸い蓋がついていた。どうやらこの蓋を開けると目当ての物が入っているらしい。だが、蓋は紫色の霧のような物に包まれていて、まだ魔法で封印されているようだった。弟ドラが力づくで開けようとしてもびくともしない。
「チッ……針鼠の奴、手こずってるな……。」
弟ドラは苛立って舌打ちをする。
この蓋の封印を解くのは針鼠と黒目の役目だ。彼らがロウサ城内聖堂の地下にある魔法の封印を解く事でこの蓋が開くようになるらしい。
「誰か応援に行くべきでしょうか?」
神父が心配そうに言った。
「いや、あいつが万一にも抜かるこたねえだろ。下手に動いた方がかえって危険だ。待とう。」
そう言って弟ドラは持っていた斧を下ろして地面に座った。他の面々も動く様子がなく、ただ黙って待機した。
エラはその間に執務室にある女王の机を探った。机の上には書類が大量に散らばっており、それをまとめ上げた。目が見えていた時程ではないが、なんとなく文章が頭に入ってくる。エラは「ホール家」という単語がないか一枚一枚目を通した。あまりにも書類が多いので、兄ドラあたりに手伝ってもらおうかと思ったが字が読めないようなので、一人で黙々と読み進めた。
読んでいる途中、ふと、背後で物音がした。エラは気のせいかと思いつつも振り返る。すると__
「_プッ…ギーィー!」
豚の鳴き声が聞こえてエラに何かが乗っかってきた。
「魔獣か!?」
『白い教会』の男達がそれぞれの武器をもって構える。
「いいえ、ただの動物のようよ。」
エラは落ち着いて答えた。エラに乗っかかってきたのは豚だった。エラぐらいの身長はある。他にも何故今まで気づかなかったのかわからないが、犬や猫、ポニーなど、様々な動物がやってきた。
「女王のペットだ。奥の方で隠れていたみたいだ。」
蜘蛛が教えてくれた。
と、その時、バチバチッ……という音が聞こえて蓋の紫の霧が晴れた。兄ドラが緊張したように蓋に手をかけて、取手を握る。
ギイイッ……という音が鳴り、蓋が開いた。『白い教会』は小さな声で歓喜の声をあげた。
針鼠達が蓋の封印を解いたのだ!
蜘蛛は無言で中にある物を取り出した。
蜘蛛が手にした物は、_____指輪だ。
それがただの指輪でない事はエラにもわかった。
_あれは王家の指輪だ。
王位に就いた者が代々受け継ぐ宝物だ。『白い教会』が盗み出したかったのは、王家の指輪だったのだ。
(あれを盗んで針鼠達はどうしようっていうのかしら。)
指輪を盗んだ所で針鼠が本物の王子である事の証明にはならない。女王が盗人に指輪を盗まれたと騒ぎ立てるだけだ。
ふと、エラは疑問を感じた。
(宝物庫は別の場所にあるわよね……?宝物庫ならば近衛騎士団が厳重に警備しているはずだから、もっと安全なはずなのに、何故女王様はこんな所に隠していたのかしら?)
色々エラには腑に落ちない事があった。だが、エラが今気にすべき事はそこではない。指輪を手に入れた蜘蛛達が早々にここを立ち去ろうとしている。
(なんでもいい……! 何か叔父様達に少しでも関係した書類はないのかしら?)
エラは急いで書類をめくる。だが…
「_プギー!!」
さっきの豚がエラに体当たりしてきた。
「な、何……!?」
エラは流石に様子がおかしいと思って、豚の様子を探った。
エラの中に豚の感情が流れてくる。
とても、悲しい感情だ。
(………………え?)
_そうして、エラは、ある恐ろしい事に気づいてしまった。
「捕虜、早くしねえと置いてくぞ!」
弟ドラが急かしてくる。が、エラは聞かない。エラは目の前の事実に目を背けられない。
「お、叔父様……?」
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