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前編
35.城侵入作戦決行(2)
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翌日、『白い教会』は城侵入作戦決行の日を迎えた。
白い教会の中央の広い部屋に、今回ロウサ城に侵入する数人の選ばれたメンバーが集まっていた。昇り藤曰く彼らは『白い教会』の最強の精鋭らしい。
黒目が手短に彼らの紹介をしてくれた。
まずは弟ドラと兄ドラ。エラは彼らとは既に面識がある、虎頭の獣人兄弟だ。弟の方はエラが『白い教会』に連れてこられた日以来、事ある毎にエラの事を馬鹿にする針鼠と一緒になって嘲笑っていた嫌な奴だ。一方兄の方は温厚な性格で、随分親しくしてもらった。
次に神父だ。神父の服装に似合わない大剣を装備している。30代くらいの白髪の男で、長い耳を持つノドム族だ。虎兄弟に負けず劣らず大柄だった。聞けば本当に、ここ白い教会の神父らしい。エラは会った事がなかったから白い教会には住んでいないようだ。
次に蜘蛛だ。彼は針鼠によく付き従っていた茶髪のノドム族だ。彼は冷静沈着な性格で、エラが嫌いな針鼠の取り巻きに属していたが、彼がエラの事を嘲笑っている所は見た事がなかった。というか、ずっと無表情で常に『白い教会』の作戦の事ばかり考えていた。
最後に翡翠という、緑髪のドワーフを紹介された。小柄で、両腰についた鞘にダガーが収まっている。ドワーフなので体が小さいのは当たり前だが、翡翠はどう見てもただの少年に見えた。下手したらチビと同い年くらいかもしれない。
「最強メンバーって……。子供がいるんだけど……」
「……。」
翡翠はさっきから無表情で特に何か言う気配はない。エラの事を警戒しているのかと思ったが、元からそういう性格だと黒目が言った。
「翡翠はまだ幼いが、優秀な戦士だよ。『白い教会』に留めておくのがもったいないくらいだ。父親もとても強かったんだが、……先日のフリン牢獄の襲撃で捕まっているんだ。彼のためにもなんとしても公開処刑を食い止めなければ……。」
その話を聞いてエラは同情したが、翡翠は依然として無表情のままだった。
黒目はエラにメンバーを紹介し終えると、エラでも扱えるようなナイフと予備の魔法の杖を1本持たせてくれた。杖に関しては、エラは結局ちゃんとした魔法を使う事が出来なかったが、一応という事で渡してくれた。
「作戦の確認をするぞ。」
退屈そうに椅子に腰かけていた針鼠が立ち上がった。腰に下げたロングソードがカチャリと音を立てる。今回はあのおもちゃのような短剣ではなく、本物の剣を装備していた。
(作戦の確認って……。私まだその作戦をちゃんと聞いた事ないんだけど……。)
エラは一人モヤモヤと苛立つ。いくら捕虜とはいえ、これから命懸けの作戦に協力するのだ。早めに説明して欲しかった。
「例の物はロウサ城内の王の城の執務室の奥にある金庫で魔法によって封印されている。封印を解くには別の場所_聖堂に行く必要がある。弟ドラ、兄ドラ、神父、蜘蛛、翡翠は執務室に、俺と黒目が聖堂の地下に忍び込む。女イシ、お前は執務室に向かう奴らに同行するんだ。詳しい段取りは蜘蛛が指示する。」
(黒目と針鼠は別行動なのね……!)
エラは内心驚きつつも、こくりとうなずいた。
「黒目の魔法で聖堂の封印が解けたら盗み出して速やかに執務室を出ろ。その後俺らと聖堂で合流し、脱出する。」
「女王様の執務室に忍びこめって……簡単に言ってくれるわね……。」
エラは表情を暗くした。
『白い教会』は抜け道や警備の状況など、エラが補完せずともかなりの事を把握していた。だが、それでも王家の城に侵入するのは至難の業だ。警備を通り抜けられた所で女王と遭遇する可能性だってある。女王はとても強力な魔法使いだ。出会ってしまったが最後だ。
「女王は今不在だ。それに伴い、警備も手薄になっている。」
「……え、なんでよ?女王様がお城を留守にされるなんて滅多な事ではないわ。」
エラにいちいち説明するのが面倒なのかイラだち始めた針鼠の代わりに黒目が答えた。
「イシはずっと外に出ていなかったから知らないんだな。エルフ連合教会の大司教が4年ぶりに目を覚ましたんだよ。それで、女王は大司教を歓迎しに王都を出ているんだ。外ではすっかりお祭り騒ぎだよ。」
「!! 大司教様が!?」
エラは驚愕した。
エルフ連合教会というのはどの国からも独立し中立な立場のエルフ達の教会で、エラ達の国_ローフォードとも対等な関係を築いている。エルフ連合教会の大司教もやはりエルフで、エラでは想像もできない程長く生きているらしい。大司教は常に眠りについていて、3、4年に一度目を覚まし、各国を訪問するのだ。毎回大司教がこの国を訪問するときは王都中がお祭りムードに包まれる。そんな街の雰囲気にエラ自身も毎回興奮していたものだ。
(ここしばらくは白い教会に引きこもっていたせいで、外がそんな事になっているなんて知らなかったわ。なんだか変な感じ。)
「話を戻すぞ。そういう事情で女王は明日になるまで帰ってこない。城に侵入するのは女王不在の今がチャンスだ。いいか、今回の俺達の作戦は、フリン牢獄襲撃で捕まった奴らだけじゃなく、『白い教会』、ひいてはこの国に住む民達全員の未来に関わる! 抜かるんじゃねえぞ。」
針鼠は獣のような低く唸る声で仲間を鼓舞した。皆一斉に頷く。
(よく言うわ。他の人の事なんかどうでもいいくせに。)
心の中で毒づきながらエラも頷いた。
白い教会の中央の広い部屋に、今回ロウサ城に侵入する数人の選ばれたメンバーが集まっていた。昇り藤曰く彼らは『白い教会』の最強の精鋭らしい。
黒目が手短に彼らの紹介をしてくれた。
まずは弟ドラと兄ドラ。エラは彼らとは既に面識がある、虎頭の獣人兄弟だ。弟の方はエラが『白い教会』に連れてこられた日以来、事ある毎にエラの事を馬鹿にする針鼠と一緒になって嘲笑っていた嫌な奴だ。一方兄の方は温厚な性格で、随分親しくしてもらった。
次に神父だ。神父の服装に似合わない大剣を装備している。30代くらいの白髪の男で、長い耳を持つノドム族だ。虎兄弟に負けず劣らず大柄だった。聞けば本当に、ここ白い教会の神父らしい。エラは会った事がなかったから白い教会には住んでいないようだ。
次に蜘蛛だ。彼は針鼠によく付き従っていた茶髪のノドム族だ。彼は冷静沈着な性格で、エラが嫌いな針鼠の取り巻きに属していたが、彼がエラの事を嘲笑っている所は見た事がなかった。というか、ずっと無表情で常に『白い教会』の作戦の事ばかり考えていた。
最後に翡翠という、緑髪のドワーフを紹介された。小柄で、両腰についた鞘にダガーが収まっている。ドワーフなので体が小さいのは当たり前だが、翡翠はどう見てもただの少年に見えた。下手したらチビと同い年くらいかもしれない。
「最強メンバーって……。子供がいるんだけど……」
「……。」
翡翠はさっきから無表情で特に何か言う気配はない。エラの事を警戒しているのかと思ったが、元からそういう性格だと黒目が言った。
「翡翠はまだ幼いが、優秀な戦士だよ。『白い教会』に留めておくのがもったいないくらいだ。父親もとても強かったんだが、……先日のフリン牢獄の襲撃で捕まっているんだ。彼のためにもなんとしても公開処刑を食い止めなければ……。」
その話を聞いてエラは同情したが、翡翠は依然として無表情のままだった。
黒目はエラにメンバーを紹介し終えると、エラでも扱えるようなナイフと予備の魔法の杖を1本持たせてくれた。杖に関しては、エラは結局ちゃんとした魔法を使う事が出来なかったが、一応という事で渡してくれた。
「作戦の確認をするぞ。」
退屈そうに椅子に腰かけていた針鼠が立ち上がった。腰に下げたロングソードがカチャリと音を立てる。今回はあのおもちゃのような短剣ではなく、本物の剣を装備していた。
(作戦の確認って……。私まだその作戦をちゃんと聞いた事ないんだけど……。)
エラは一人モヤモヤと苛立つ。いくら捕虜とはいえ、これから命懸けの作戦に協力するのだ。早めに説明して欲しかった。
「例の物はロウサ城内の王の城の執務室の奥にある金庫で魔法によって封印されている。封印を解くには別の場所_聖堂に行く必要がある。弟ドラ、兄ドラ、神父、蜘蛛、翡翠は執務室に、俺と黒目が聖堂の地下に忍び込む。女イシ、お前は執務室に向かう奴らに同行するんだ。詳しい段取りは蜘蛛が指示する。」
(黒目と針鼠は別行動なのね……!)
エラは内心驚きつつも、こくりとうなずいた。
「黒目の魔法で聖堂の封印が解けたら盗み出して速やかに執務室を出ろ。その後俺らと聖堂で合流し、脱出する。」
「女王様の執務室に忍びこめって……簡単に言ってくれるわね……。」
エラは表情を暗くした。
『白い教会』は抜け道や警備の状況など、エラが補完せずともかなりの事を把握していた。だが、それでも王家の城に侵入するのは至難の業だ。警備を通り抜けられた所で女王と遭遇する可能性だってある。女王はとても強力な魔法使いだ。出会ってしまったが最後だ。
「女王は今不在だ。それに伴い、警備も手薄になっている。」
「……え、なんでよ?女王様がお城を留守にされるなんて滅多な事ではないわ。」
エラにいちいち説明するのが面倒なのかイラだち始めた針鼠の代わりに黒目が答えた。
「イシはずっと外に出ていなかったから知らないんだな。エルフ連合教会の大司教が4年ぶりに目を覚ましたんだよ。それで、女王は大司教を歓迎しに王都を出ているんだ。外ではすっかりお祭り騒ぎだよ。」
「!! 大司教様が!?」
エラは驚愕した。
エルフ連合教会というのはどの国からも独立し中立な立場のエルフ達の教会で、エラ達の国_ローフォードとも対等な関係を築いている。エルフ連合教会の大司教もやはりエルフで、エラでは想像もできない程長く生きているらしい。大司教は常に眠りについていて、3、4年に一度目を覚まし、各国を訪問するのだ。毎回大司教がこの国を訪問するときは王都中がお祭りムードに包まれる。そんな街の雰囲気にエラ自身も毎回興奮していたものだ。
(ここしばらくは白い教会に引きこもっていたせいで、外がそんな事になっているなんて知らなかったわ。なんだか変な感じ。)
「話を戻すぞ。そういう事情で女王は明日になるまで帰ってこない。城に侵入するのは女王不在の今がチャンスだ。いいか、今回の俺達の作戦は、フリン牢獄襲撃で捕まった奴らだけじゃなく、『白い教会』、ひいてはこの国に住む民達全員の未来に関わる! 抜かるんじゃねえぞ。」
針鼠は獣のような低く唸る声で仲間を鼓舞した。皆一斉に頷く。
(よく言うわ。他の人の事なんかどうでもいいくせに。)
心の中で毒づきながらエラも頷いた。
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