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前編

25.ボウシ族の子供に懐かれた(2)

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 次の日の朝は黒目に叩き起こされる所から始まった。
 目が覚めた時、エラは無意識的に顔を触った。相変わらず不自然な凹凸が感触で伝わる。慌てて立ち上がると、今度は身体中を見回した。すぐに、全身鏡の前に立ち自分の姿を確認する。

(……良かった……。)

 どうやら特にエラの身に何か変化がある様子はなかった。エラはホッと胸を撫で下ろし、カゴを被った。
 寝室には既に昇り藤がいなかった。が、すぐに彼女はキッチンで料理を作っていた事を知った。
 エラはテーブルにつくとまた昨日のように頭に乗せたカゴを少しずらして野菜を口に運ぼうとした。しかし、途中でフォークを止めた。

__針鼠が食堂に入ってきたのだ。

 エラは眠気が吹っ飛び、一気に緊張する。
 昨日針鼠はエラを「牢に入れておけ」と命令していた。それが、服を着がえて自由に歩き回り食事もとっているのだからさすがに何か言われるとエラは身構えた。

「り、リーダー……」

 昇り藤もまた、緊張したように顔をこわばらせていた。
 針鼠はエラを見た。
___が、それも一瞬で、すぐにどうでもよさそうに欠伸をしてテーブルについた。そのまま黙々と食事をとる。

 どうやら本当にエラの事なんて気にしていないようだった。昨日の『牢にでもぶちこんでおけ』という命令はなんだったのか。
 後から茶髪のノドムが入ってきた。黒目と昇り藤にエラを監視するように言いつけた男だ。彼は針鼠の横にあった椅子に腰かける。だが、料理を食べにきた訳ではない。

「リーダー」

「んん」

 針鼠は葉野菜をもぐもぐと咀嚼しながら適当に返事した。

「先ほど潜らせていた奴らが知らせてくれた。フィンドレイ家の件、やはり事実らしい。今日葬儀が執り行われるそうだ。貴族の間では既に色々な噂が出回っている。」

「____っ」

 エラは思わず立ち上がった。
 茶髪のノドムが驚いてエラを見た。

(レナード様……心のどこかではきっとまだ無事なんじゃないかと……。いえ……、今私が気にしなければならないのは……)

「ホール家は……ホール家はどうなったの!?」

 茶髪のノドムは混乱した顔で「牢に入れたんじゃなかったのか?」と昇り藤に聞いた。昇り藤が「良い子なんだよ。」と言うと呆れたように肩をすくめた。

「ホール家がどうなったのかは知らない。」

「し、城の中の人に聞いてもらえない?」

 エラが食い下がると、針鼠が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「なんでわざわざお前のために探りをいれなきゃいけないんだよ。」

 エラは力なく、椅子に座り込んだ。同時に、針鼠と茶髪のノドムが立ち上がった。気づいたら、針鼠は朝食を食べ終わっていた。二人はさっさと食堂を出て行ってしまった。昇り藤がすぐに針鼠の皿を片付ける。

「リーダーがこんな時間に来るとは思わなかったよ。大丈夫?」

「え、ええ。」

 エラは叔父さん夫婦がどうなったのか、ホール家がどうなったのか知りたかった。だが、今のエラにはそれを知る手段がないのがもどかしい。どうやら『白い教会』からこれ以上ホール家の情報を入手する事はできなさそうだった。捕虜である以上、外へは自由に出入りできない。外に出られても下級街では大した情報は得られないだろう。牢から抜け出してきた身で上級街に行く訳にも行かない。
 向かいで、ずっと黙って食事していた黒目が口を開いた。

「イシ、この後は少し私につきあってもらうぞ。」

「え?」

「__魔法の特訓をするんだ。」
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