【完結済】女王に体の大切な部分が徐々になくなっていく呪いをかけられ絶望の縁に立たされていた貴族令嬢が元王子と出会って革命を起こします!!

寿(ひさ)

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前編

18.追手を振り切って逃げたは良いもののこの後どうすればいいのか途方に暮れるエラ。そうこうするうちに危なそうな人たちに絡まれます…!(2)

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 突然、別の男の声が響いた。エラも、エラを囲んでいた男達も驚いて声の方を振り返る。
 振り返ると、耳の長いノドム族の男が立っていた。年はエラと同じくらいだろうか、碧い瞳をもち、金髪にバンダナを巻いた青年だった。

「『歩く月』の奴らか!国を守る側の人間が喝上げとはこの国も終わったもんだな。」

 青年はすぐに駆け寄って来た。
 『歩く月』の男達は最初こそ青年の登場に驚いていたものの、すぐにニヤニヤと笑い出した。男達が屈強な体に頑丈そうな武器防具を身に付けている一方で、青年は細身で軽装備もつけておらず短剣を一つ持っているだけだった。青年はエラを助けようとしてくれているようだが、見るからに弱そうだ。エラは落胆した。

「なあ、あんた、女助けて正義のヒーローにでもなったつもりなのか知らねえが、よく見てみろ。この女どっからどう見ても訳ありだろ?」

「だからなんだっていうんだ!弱い者を理不尽に恐喝して、金稼いでいる事には変わりないだろ!お前らの悪事を全部本部に言いつけてやる!その女についてはしかるべき場所で処遇を決めるべきだ。」

 青年は息巻いて叫んだ。しかし、どこか心細い声だ。エラは、青年が気丈にふるまっているだけではないかと感じた。

「おい!皆聞いたか?こいつ、俺らの事を本部にチクるんだってさ!」

「そりゃ怖い!」

 大口を開けて『歩く月』の男達はゲラゲラ笑った。
 青年は怒りのあまり顔を真っ赤にした。すかさず腰に下げた短剣に片手を伸ばす。
 しかし、『歩く月』の方がはやかった。流石に戦い慣れているらしく、トカゲ頭の男が一瞬の内に青年の手から短剣を落として、腹にパンチを食らわした。

「____っ」

 エラは声にならない悲鳴をあげた。恐ろしさに身震いする。貴族の令嬢として育ったエラは暴力を見た事がなかったのだ。

 腹を思い切り攻撃されて倒れた青年に、『歩く月』の男達は容赦なく何発も蹴りをいれた。青年は血を吐いた。

「や、やめて……!」

 エラは恐怖に耐えながら声を振り絞ったが、男達は聞く耳を持たなかった。エラは恐ろしさに身がすくみ、割って入る勇気はなかった。
 トカゲ頭の男だけが一歩ひいた所に立ち、口角を吊り上げている。エラが逃げ出さないように見張っているのだ。

 青年がほとんど動けなくなったのを確認すると、ドワーフが持っていた縄で青年の腕を後ろ手に縛った。

「こいつよく見たら可愛い顔してんなあ。」

「実は女だったりして。確認してみっか?」

「やめろ!……触んな!!」

「暴れんなって可愛がってやるからよぉ。」

 男達が青年のズボンを脱がそうとする。青年は顔を青くして暴れるが、縛られた状態でうまく抗う事ができない。簡単に男達に抑えられてしまった。

「クソッ……!『歩く月』もこの国も狂ってる!お前ら全員『白い教会』に殺されれば良いんだ!」

「白い教会……?」

 男達が突然驚いて手を止めた。

「お前、もしかして『白い教会』の奴か?」

「ばか、こんななよっちい奴が『白い教会』のメンバーな訳ないだろ。大方、その信奉者ってとこじゃないのか。」

 エラは『白い教会』という言葉に聞き覚えがない。なんとなく、青年達の会話から察するに、組織の名前のようだったが、ギルドは『歩く月』以外には存在しないし、他に思い当たる組織がない。

「『白い教会』ってなんなんだ?」

 赤毛のノドムもエラと同じで、『白い教会』という単語を聞いた事がないらしく首を傾げた。トカゲ頭の男が呆れたように首をふったが、片目の潰れたドワーフが「こいつはまだ新人なんだ。」と言った。

「『白い教会』は違法な犯罪者ギルドの事だ。国が認めた訳でもないのに、勝手にギルドを名乗ってやがる。何度もテロ行為を繰り返してくる迷惑なうじ虫共だ。」

「『白い教会』は正義のギルドだ!じき、お前らに制裁を下してくれるだろう!」

「いいか、ガキ。」

 ドワーフが青年の胸ぐらを乱暴に掴んだ。

「『白い教会』なんてもう時代遅れなんだよ。奴らは壊滅した。リーダーの『猫』だか『ハムスター』だか…」

「『針鼠はりねずみ』だよ、兄貴。」

「……『針鼠』は1年も前に俺ら『歩く月』が捕らえて処刑した。昨日はフリン牢獄を残党が襲撃したようだが、それもわずかな生き残りだけだ。そしてワチらが一人残らず捕まえてやった。_そうだ、良い事教えてやるよ。まだ、ワチらしか知らねえ事だがな、来月の1日にそいつらを公開処刑する事になってるんだ。一般市民のお前らにはまだ知らせちゃいけねえ貴重な情報だぜ。」

 青年はショックを受けたように固まった。ドワーフは青年の反応が心底面白いらしく満面の笑みを浮かべた。

「いいねえ、その顔興奮するぜ。」

「こっちの女諸共楽しめそうだぜ。」

 突然の青年の登場で、すっかり青年ばかりに気をとられていた『歩く月』の男達がやっとエラに関心を戻した。

「前からボウシ族の顔ってどんなんなってんのか気になってたんだ。」

 茶髪のノドムはそう言って、エラが被っていたカゴを強引に取った。男達は上機嫌でエラの素顔を見た。

 そして、次の瞬間には信じられない物を見た、という顔で固まってしまった。

「こ、こいつ……ボウシじゃねえ。イシ……なのか……?」

 エラの呪われた顔は、戦場慣れした男達にも衝撃的な物だったようだ。
 男達が硬直する数秒間は、エラにとって長く感じた。

 この時、男達の背後で、青年は眉ひとつ動かさずに、ギラギラとした目で見ていた事に誰も気がつかなかった。

 数秒後、最初に動いたのは片目が潰れたドワーフだった。ドワーフは素早い動きでエラの喉元にナイフを突きつけた。

「な……っ、ど、どうする気だよ。」

「こ、殺すに決まってんだろ!得体の知れない流行病かもしんねえ!うつったらたまったもんじゃない!」

 ドワーフの腕は震えていて、鳥肌が立っていた。エラの中で、今にもナイフが喉をかっ切るんじゃないかという恐怖と 人々の化け物を見るような目の苦痛がごちゃ混ぜになって爆発しそうになる。

「いや、これは病じゃない。呪いの類だ。」

 トカゲ頭の男が断言した。

「どっちみち気持ち悪いよ!殺しちまおう!」

「兄貴!殺すより見せ物小屋に売りつけようぜ!」

 手下のノドムが嘲笑する。だが、ドワーフは聞いていない。相当怖がっているようだ。ドワーフがナイフを振り上げた。
 エラは今度こそ、本当に終わりだと思った。体に力を込め、目をぎゅっと瞑った。

と、その時___






「ひ、ヒヒ…ヒヒッ…」


 奇妙な笑い声がドワーフを静止させた。

 また、新たに別の人間が来たのか。

 男達は周囲を見回す。
 だが、すぐに、声が他の人間の物ではないことに気がついた。声は、さっきまで男達にボコボコにされていた青年の口から発せられていたのだ。
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