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導入
13.怒り狂った女王(2)
しおりを挟む「…のっ泥棒猫っ!」
エラは訳がわからずに頬を打たれたまま、ただ突っ立っている。間髪入れずに、女王はまたエラの頬を打った。
「___っ」
エラは何がなんだかわからなくて、ひたすら怖くて仕方がなかった。
「陛下、落ち着いてください。誤解をなさって…」
「この私に命令するな!!」
静かに諌めようとするレナードに女王は怒鳴り散らした。
「この女狐は私の男を誘惑したのよ!おまけに手の甲にキスまでさせた!!」
(……『私の男』?)
女王の言葉で、やっと、エラは状況がなんとなく理解できた。
女王は夫_先王が亡くなって以来、新しい夫も恋人ももたずにいる。しかし、それは表向きの話で、女王には何人か『お気に入り』がいるらしいという噂をきいた事がある。周りが面白がって噂しているのを聞いた事があるが、正直エラは半信半疑だった。
「そ、それじゃ、……レナード様が……。」
エラは驚いてレナードを見るが、目をそらされた。
(そんな……。レナード様は女王様の事なんて一度もおっしゃってくださらなかったじゃないの……。)
一瞬、騙された、という感情がエラを支配する。
しかし、すぐに思い直した。『お気に入り』は表立った存在ではない。言いたくても言えなかったのだろう。
「陛下、これは新しい友に対する親愛の証です。深い意味はありません。」
「嘘をつけ!!」
レナードが弁明するが女王は聞く耳をもたない。後ろでは更にひそひそと貴族達が何事か話している。
『お気に入り』の存在はエラが聞いた事あるくらいだから、ここにいる大半の貴族も知っているのだろう。が、このように公の場で騒ぎ立てれば良い笑い物だ。女王だけじゃなく、それを諌めているレナードもだ。それでもレナードは顔色は悪いものの、落ち着いた様子でいる。対して、女王は子供のように泣き喚いていた。
「キスだけじゃないわ!外庭でその女狐と楽しそうに踊っていたじゃない!しかも、初対面で3回も踊った!!」
「……人に監視させていたんですね。」
レナードはここでようやく顔をしかめた。
女王はエラに向き直った。
「よくもずけずけとこの場に立っていられるわね。綺麗な顔して、人の男たらしこんで、まるで下品な娼婦みたい!」
「そ……そんな、……私、何も知らなくて…。」
「ああ、その顔よ!なんにも知らない、なんにも知らない。内心ではレナードをどうやってたらしこむか考えながら舌なめずりしていたくせに。下級貴族の分際で、身の程知らずにも程があるわ。ねえ、聞かせなさいな。あなたその純粋そうな顔で一体今まで何人の男を誘惑してきたの?」
「ほ、本当にそのようなつもりは微塵もありませんでしたわ!!レナード様とは本当に良いお友達になれると思っていました!!決して恋人などと邪な気持ちを抱いていた訳ではあいません!!」
____パンッ…!!
問答無用でまた平手打ちをされる。耐えきれずにエラは涙が溢れてしまった。
「この売女!!」
____パンッ……!!
「何が友人よ!!」
____パンッ……!!
「誘惑する気だったくせに!!」
____パンッ……!!
「ホール家を皆殺しにしてしまえ!!」
「お、叔父様達は何も…」
____パンッ……!!!
エラは恐怖と痛みで目がくらくらした。
その時、ふと姫と目があった。女王の右奥の方にいた。涙を流しながらブルブル震えていた。真っ青だった姫の顔が、エラと目があった瞬間更に青くなった。
「身の毛がよだつような恐ろしい呪いをかけて、地下の一番奥深くに閉じ込めて二度と日の光を浴びれないようにしてやる!!」
女王は大きく振りかぶった。エラは咄嗟に目をつむった。
しかし、女王の平手が止まった。
_レナードが静かに女王の平手を止めたのだ。
こんな小さな静止ではあったが、確かにそれは、『一国の女王に逆らった』事を意味した。
「……弁明は?」
「ありません。俺は彼女を愛してしまいました。ですが、彼女にはなんの罪もございませ…」
レナードは最後まで言葉を話さなかった。
エラの目の前で、一瞬体がぐらりとゆらめいたかと思うと、
__その場で倒れてしまった。
貴族の誰かが短く、悲鳴をあげた。
「レ、レナード様……?」
女王の手には魔法の杖が握られていた。床に転がるレナードの首からドクドクと赤黒い液体が流れていた。
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