8 / 82
導入
8.大貴族フィンドレイ家子息レナードとの出会い(1)
しおりを挟む
姫はエラの前に青年を突き出した。
「エラ、これ、どう!?」
「……ど、どうって……??」
突然の事にエラは戸惑う事しかできない。青年は「『これ』って…」と苦笑しながらエラに向かって背筋を伸ばした。
「レナード・リー・フィンドレイよ、エラ。」
姫が紹介すると、レナードと呼ばれた青年は片手を胸にあててエラに頭を下げた。
(____!)
エラは身を引き締めた。フィンドレイ家は国の三大貴族の内の一つである。
「え、エラ・ド・ホールです。」
エラも慌てて挨拶した。
「どうぞよろしくお願いします。……では、私はこれで……。」
そそくさと逃げようとするレナードの首根っこを姫が強引に掴んで、再びエラの前に突き出した。
「すぐ逃げようとしないで!せめて一回だけでもエラと踊ってよ!あなた私にこの間の借りがあるでしょう?」
「借りの総数でいったら殿下の方が圧倒的に多いと思うんですが、」
「つべこべ言わないで、言う事を聞きなさい!エラに気に入られなかったら、最低限あなたの友達を紹介しなさい。」
「良いわね!?」と姫はレナードに、睨みつけた。姫はすぐに誕生日を祝う貴族の群衆に飲み込まれていった。
どうやら姫はレナードとエラをくっつけようとしているようだった。エラはちょっと気まずくなった。
「ふー……やれやれ」と、レナードは面倒臭そうに首をかく。
「あの、フィンドレイ公子様。」
「レナードで構いませんよ。」
「……レナード様。申し訳ございません、私のせいで大切なご学友との談話を妨げてしまいましたわね……。あの、姫様には上手く取り繕いますので、戻っていただいても差し支えありません。」
「ははっ、気にしないでくださいよ。殿下の突発的なご命令はよくある事です。ここは一曲、お姫様のご機嫌をとるためにも共に踊りましょう。それに、男としては、美人と踊れるなんてむしろ暁光ですよ。」
レナードはウインクした。
エラは顔が真っ赤になった。
レナードは柔和な笑顔を浮かべ、物腰が柔らかい。話しやすそうな人で、エラは密かにほっとしていた。
レナードは片手をエラに差し出してくれた。
「?どうされました?」
「……いえ、その……私、空中で踊るのが苦手でして。そもそもダンスがあまり得意ではないのです。……あ、いえ、下手という程ではないと思うのですが…。」
エラは言葉を濁す。フィンドレイ家の子息を前にしてダンスが下手だとは思われたくない。しかし、レナードの前にも3回踊ったのだが、エラは空中での踊りに慣れる事ができなかった。
「そうですね……。それでしたら、ちょっとこっちに来てくれますか?」
レナードは少し考えた後、エラの手を引っ張った。
「??」
エラはレナードに引かれるがままについていった。
レナードはホールの出入り口とは正反対の方角にある扉まで来て開けた。その扉の先には外庭があった。そこには誰もいないかと思いきや、意外にも何人かの貴族達が屯していた。ホール内の光の粒が庭でも浮いていて、夜ではあったが、暗くなかった。
「ここ、いつも若者の溜まり場になっているんですよ。休憩だとおもって軽い気持ちで踊りましょう。宙に浮かぶ必要もありませんよ。」
魔法なのか、外に出ても不思議と音楽が聞こえてくる。
今、さっきまで流れていた曲が丁度終わった所だった。レナードがエラの手をとると同時にすぐに次の曲が始まった。
エラが好きな曲だったので少しだけ気持ちが和らいだ。
周りの同年代ぐらいの若者達も一部が踊り出す。が、ホールの中の時とは明らかに雰囲気が違っていて、次々とペアの相手を変えたり、喋るのに夢中でほとんど体が動いていなかったりと、かなりカジュアルに踊っていた。
「まだ緊張します?」
「すみません、相手がフィンドレイ家のご子息とあっては、どうしても……。」
「息子といっても次男ですけどね。」
「……っ!」
エラの足が絡まって体の重心が前に傾いた。
「おっと!」
レナードは手慣れた様子でエラを抱き止めてすぐに体勢を整えた。
「なるほど、不得手というのは謙遜ではないようですね。」
「も、申し訳ございません……。」
レナードはいたずらっぽく笑った。
場を和ませるかのようにバイオリンの高音が鳴り響く。エラがこの曲の中で一番好きなフレーズだった。
エラはしばらくの間曲に心酔しながら集中して踊っていた。レナードは、エラの目から見てもかなりのダンス上級者のようだった。彼はただ黙って微笑みながらエラのたどたどしいダンスにあわせてくれた。
ふと、エラは途中で我に返った。
(何をやっているの私ったら!せっかく姫様がレナード様を紹介してくださったのだから、少しでも親しくなれるように話をしないと。レナード様だってきっとダンスより会話をメインでするためにここへ連れてきてくださったんだわ!私がダンス下手なせいで気を遣って話さないでくださっているのね。私ったらなんて気が利かないのかしら。)
「エラ、これ、どう!?」
「……ど、どうって……??」
突然の事にエラは戸惑う事しかできない。青年は「『これ』って…」と苦笑しながらエラに向かって背筋を伸ばした。
「レナード・リー・フィンドレイよ、エラ。」
姫が紹介すると、レナードと呼ばれた青年は片手を胸にあててエラに頭を下げた。
(____!)
エラは身を引き締めた。フィンドレイ家は国の三大貴族の内の一つである。
「え、エラ・ド・ホールです。」
エラも慌てて挨拶した。
「どうぞよろしくお願いします。……では、私はこれで……。」
そそくさと逃げようとするレナードの首根っこを姫が強引に掴んで、再びエラの前に突き出した。
「すぐ逃げようとしないで!せめて一回だけでもエラと踊ってよ!あなた私にこの間の借りがあるでしょう?」
「借りの総数でいったら殿下の方が圧倒的に多いと思うんですが、」
「つべこべ言わないで、言う事を聞きなさい!エラに気に入られなかったら、最低限あなたの友達を紹介しなさい。」
「良いわね!?」と姫はレナードに、睨みつけた。姫はすぐに誕生日を祝う貴族の群衆に飲み込まれていった。
どうやら姫はレナードとエラをくっつけようとしているようだった。エラはちょっと気まずくなった。
「ふー……やれやれ」と、レナードは面倒臭そうに首をかく。
「あの、フィンドレイ公子様。」
「レナードで構いませんよ。」
「……レナード様。申し訳ございません、私のせいで大切なご学友との談話を妨げてしまいましたわね……。あの、姫様には上手く取り繕いますので、戻っていただいても差し支えありません。」
「ははっ、気にしないでくださいよ。殿下の突発的なご命令はよくある事です。ここは一曲、お姫様のご機嫌をとるためにも共に踊りましょう。それに、男としては、美人と踊れるなんてむしろ暁光ですよ。」
レナードはウインクした。
エラは顔が真っ赤になった。
レナードは柔和な笑顔を浮かべ、物腰が柔らかい。話しやすそうな人で、エラは密かにほっとしていた。
レナードは片手をエラに差し出してくれた。
「?どうされました?」
「……いえ、その……私、空中で踊るのが苦手でして。そもそもダンスがあまり得意ではないのです。……あ、いえ、下手という程ではないと思うのですが…。」
エラは言葉を濁す。フィンドレイ家の子息を前にしてダンスが下手だとは思われたくない。しかし、レナードの前にも3回踊ったのだが、エラは空中での踊りに慣れる事ができなかった。
「そうですね……。それでしたら、ちょっとこっちに来てくれますか?」
レナードは少し考えた後、エラの手を引っ張った。
「??」
エラはレナードに引かれるがままについていった。
レナードはホールの出入り口とは正反対の方角にある扉まで来て開けた。その扉の先には外庭があった。そこには誰もいないかと思いきや、意外にも何人かの貴族達が屯していた。ホール内の光の粒が庭でも浮いていて、夜ではあったが、暗くなかった。
「ここ、いつも若者の溜まり場になっているんですよ。休憩だとおもって軽い気持ちで踊りましょう。宙に浮かぶ必要もありませんよ。」
魔法なのか、外に出ても不思議と音楽が聞こえてくる。
今、さっきまで流れていた曲が丁度終わった所だった。レナードがエラの手をとると同時にすぐに次の曲が始まった。
エラが好きな曲だったので少しだけ気持ちが和らいだ。
周りの同年代ぐらいの若者達も一部が踊り出す。が、ホールの中の時とは明らかに雰囲気が違っていて、次々とペアの相手を変えたり、喋るのに夢中でほとんど体が動いていなかったりと、かなりカジュアルに踊っていた。
「まだ緊張します?」
「すみません、相手がフィンドレイ家のご子息とあっては、どうしても……。」
「息子といっても次男ですけどね。」
「……っ!」
エラの足が絡まって体の重心が前に傾いた。
「おっと!」
レナードは手慣れた様子でエラを抱き止めてすぐに体勢を整えた。
「なるほど、不得手というのは謙遜ではないようですね。」
「も、申し訳ございません……。」
レナードはいたずらっぽく笑った。
場を和ませるかのようにバイオリンの高音が鳴り響く。エラがこの曲の中で一番好きなフレーズだった。
エラはしばらくの間曲に心酔しながら集中して踊っていた。レナードは、エラの目から見てもかなりのダンス上級者のようだった。彼はただ黙って微笑みながらエラのたどたどしいダンスにあわせてくれた。
ふと、エラは途中で我に返った。
(何をやっているの私ったら!せっかく姫様がレナード様を紹介してくださったのだから、少しでも親しくなれるように話をしないと。レナード様だってきっとダンスより会話をメインでするためにここへ連れてきてくださったんだわ!私がダンス下手なせいで気を遣って話さないでくださっているのね。私ったらなんて気が利かないのかしら。)
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる