上 下
2 / 82
導入

2.体の大切な部分が徐々になくなっていく呪いをかけられた貴族令嬢の話(2)

しおりを挟む
「今度私の誕生日でしょう?それで、私のお誕生日のダンスパーティーにあなたをお誘いしたいと思ったの。」

「え……?」

 エラは目を大きく広げた。姫の17歳の誕生日がもうすぐ来るのは知っている。しかし、誕生日会にお呼ばれするとは思っていなかった。毎年、姫の誕生日パーティーには貴族の限られた人間のみが参加を許され、盛大なパーティーが開かれる。

「姫様、それは私のような下級貴族の者が行くような所ではありませんわ!」

「でも、エラの家は元々は上級貴族でしょう?」

「それは……」

 エラは苦い顔をした。

「なぜ姫様は私をダンスパーティーに誘われようと思ったのですか?」

「あなたのためよ、エラ。あなたは自分の家をいつか再興させたいと思っている。そうでしょ?」

「……え、ええ。そうです。」

「でも、あなたは積極性が足りないわ。意地でも身分の高い人と繋がって這い上がってやろうってガッツが足りないの!このままじゃいつまで経っても再興は叶わないわ。それに、エラみたいに素晴らしい人が日陰に隠れてしまうのはとても残念な事だと思うのよ。あなたは今は身分が低いかもしれないけれど、きっといつか高貴な身分の男の人と結ばれる事だってできるはずよ!だってこんなに美しいんだもの!それに優秀だわ!」

 突然、姫に褒められて、エラは顔を真っ赤に赤らめる。姫はかなりエラの容姿を気に入っているらしい。
 エラ自身も特に自慢できる物のない中で唯一少しだけ自慢に思っているのが自分の顔だった。

「姫様は私の事を褒めすぎです。成績だって、私はスクールで中くらいですわ。」

「とてもすごいわ!」

「すごくありません!勉強もお稽古も、ほとんど休まずに熱心に取り組んでいるはずなのに、何一つとして私の取り柄となるようなものはありませんわ。…才能がないんです。だから、あまり私の事を褒めないでください。」

「成績にはなかなか表れないかもしれないけど、熱心に物事に取り組む姿勢はとても素晴らしいものだと思うわ。以前に私はあなたに聞いた事があったわよね。『同世代の子達がもっと適当にこなしている中で何故あなたは真面目に勉強しているの?』って。その時あなたは『勉強して、お稽古して、優秀な人間になれば、叔父様や叔母様のためになると思ったから。』って言ったわ。」

 エラはとある事情でおじさん夫婦の元で暮らしていた。自分の親でない二人に育ててもらった恩があり、彼女はいつか恩返しがしたいと考えていた。

「私はその時、あなたは他の子と違うと思ったの。」

 姫は興奮でますます長い耳をピンっと立てた。

「皆、身分の高い素敵な男の人と結婚したいとか、お金持ちになりたいとか、自分の事ばかりだと思うの。でも、エラは違うわ。叔父様や叔母様に対する献身的な想いはとても美しいと思う。だから、エラはとても素晴らしい人間だと思うし、機会を与えられるべきだと思うわ。」

「……でも、私のような者が行っても白い目で見られるだけです……。」

 エラは少し口籠った。上級貴族の中に入っていくのは怖い。
 だが、もっと怖いのは女王と近づく事になるかもしれないという事だ。そんな事、姫の前では絶対に言えない。

「それは……た、多少は我慢するしかないわ。そうすれば、上級貴族の殿方の目にとまるかもしれない。叔父様達だって喜ぶはずだわ。」

 エラは押し黙った。自分のような人間がのうのうと高貴な集まりに参加するだなんて、あまりにも恐れ多い。だが、姫に叔父と叔母の名前を出されて、思いとどまった。

 エラの実の父親はホール家の当主だった。エラの父は大酒飲みで金を湯水のように使い果たしだらしのない生活をしていた。ホール家は元々は上級貴族だったのだが、父親のだらしなさのせいで、下級貴族に降格されてしまったのだ。だから、今、エラの叔父は多くの苦痛や屈辱と闘いながら現当主を務めている。そんな中でも、叔父夫婦はエラを今日まで大切に育ててくれたのだ。

 彼女は日々、どうやって育ててもらった恩を返そうか考えていた。もしかしたらこのパーティーで上級貴族と太いつながりを持てるかもしれない。そしてもしかしたら結婚だってできるかもしれない。

 エラは叔父と叔母が喜んでいる顔を想像した。

「……無理に行動して危ない橋を渡るのは危険すぎるって思ってるんでしょ?そんなの単に失敗するのが怖いだけの言い訳に過ぎないわ。」

 姫が鋭い事をいう。

 確かに、このまま現状維持を続けてもホール家は永遠に下級貴族のままである。貴族界のいい笑いものだ。親のせいでホール家が辛酸をなめているのなら、後始末はエラが果たすべき役目なのかもしれない。

 そこまで考えてエラはふとある物に目がとまった。

「____」

「どうしたの?」

 姫は不思議に思って、尋ねた。姫には、エラが何もない所を見て驚いているように見えた。

「……赤い蝶が……。」

 エラは一瞬視界の端に珍しい赤い蝶がヒラヒラと飛んでいるように見えた。

「蝶?」

「……よくない事が起こる時、見る事があるのです。」

 姫はエラが見ている方向を見る。だが、何もない。

「……姫様、やはり、パーティーに行くことはできません。何か嫌な予感がしますわ。」

「そんな!きっと大丈夫よ!赤い蝶だって、私には見えないもの。エラは色々と心配しすぎよ。」

「……でも……」

「これが最後のチャンスになるかもしれないのよ?エラはもうとっくに結婚を考えても良い年齢だわ。いつまでも行動しないで、乗り遅れて、最後に叔父様達が悲しい思いをしてももう遅いわ。あなたはホール家の一人娘_最後の希望なのだから、勇気をだして、行動しなくちゃ。」

「……それは……」

「大丈夫、何かあれば、私が上手く立ち回るわ。一緒に行きましょう?」

 エラは姫のキラキラした瞳に促されて、最後には弱々しく頷いてしまった。エラは再び赤い蝶がいた方を見たが、その時には既にいなくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

処理中です...