職場は超ブルー

森山 銀杏

文字の大きさ
上 下
37 / 41

死するべき戦いの始まり1

しおりを挟む

俺は撤退してゆく防衛軍の車両を見送り、ポイントA地点に来ていた。

ビルの屋上で周囲が見渡しやすく、通りにも面している。

戦いを始める場所としてはここ以外には無いポジションだ。

俺は戦いの準備をするためしっかりと筋を伸ばし、体をほぐす。今日は無理をするつもりだったから入念にだ。

三十二歳。良い年のおっさんだ。

体の筋肉は若い頃と比べてやはり落ちている。

特に持続力が落ちているのは感じるが、それはユニフォームのおかげで問題はない。

ユニフォームを着れば、着た瞬間の状態を保ってくれる。だから全速力でいつまでも走れるし、体を痛める事も無い。 それゆえにベストな状態で変身する事が求められる。

体を温めた俺の耳につけたイヤホンから声が入る。

「次元振動感知。F7地点、怪人出現します」

その声を聞き、俺は研究員から受け取った銀色のケースを開き、注射器を取り出す。

袋を開け、思い切ってむき出しにしていた肩に刺した。

「いっ!」

思わず顔をしかめて、声を上げるくらいには痛い。そこから中の液体を流し込む。

それから服を着込む。

聞いた話だと反応はすぐ出るって話だが……。

そう思ったときだった。大きく心臓が鼓動して、目の奥が熱くなる。

気がつけば、膝をついていた。

俺が打ったのは神経増強剤。いわゆるドーピング。

集中力の著しい向上を行い、同時に肉体へのリミッターを緩くする。その試薬である。

副作用の話は効いたが、それでもやらなくてはならない。

立ち上がり、空を見る。

青い。実に青い。やけにすっきりとしている。

なるほど、腕にまいた時計の秒針の動きがやけにのんびりして感じる。

「男の意地を薬品で支えるのもどうかと思うが」

俺はそう呟き、携帯電話を取り出した。

副作用は三分後、だがしかしユニフォームは今の状態を保持してくれる。

つまり副作用が来るのはユニフォームを脱いだ三分後だ。

「ファイバーズ、ブルー。変身!」

俺はそう叫び、携帯電話を腕に付けているバングルに重ねる。バングルは青く輝く。

実は俺はこの変身が嫌いじゃない。機械音声がバングルから出る。

「 装着者認識! チェンジ、ファイバーズ」

青いユニフォームが俺を覆って行く。

俺がこれを脱ぐときは副作用でゲロをぶちまけるか、あるいは死んでいるときかのどちらかだ。

青いユニフォームの上には戦闘服とタクティカルジャケット。

マガジンを入れたポーチ。キーホルダーのようにぶら下がった手榴弾。

いつもの戦闘スタイルだが、それらすべてがひどく軽い。

なるほど気分は悪くない。いいや、最高だ。

しかも敵は異世界人、何の遠慮もいらない。

こんな気持ちで戦えるなら、兵隊も悪くない。

俺は禁止されて使ってなかった対物ライフルを手に取り、敵の出現方向に向きなおる。

三脚を出し、ライフルを置いて目を凝らす。遠くの向こうに黒い点が見えてきた。

首から下げていたゴーグルを構えて距離を算出。おおよそ五百四十五。

「良い方向だ。大通り沿いとは運がいい」

幸運な事に俺が居るビルの屋上からは敵の出現位置は丸見えだった。これなら存分に狙える。

ライフルのスコープを距離に合わせて修正しながらレンズの向こうを覗き込む。

そこには黒い点から黄土色を基調とした出来の悪い泥人形みたいなものがわき出してくる。

「よしきた。又来週」

それに合わせて、引き金を絞る。

肩を思い切り蹴り上げられたような衝撃。それを押さえ込み、角度をかえる。再びの衝撃。

発砲した際の揺れの中で、もう一度。続けてもう一度。もう一度。もう一度。これで最後。

六発の弾丸が群れとなって飛んで行く。

まるで吸込まれるように、弾丸はすべてそれぞれ別の怪人へと命中する。

弾が当たった瞬間、怪人の体は上下が捩じれて、千切れ飛ぶ。

俺はその大惨事に呆然とした。

対物ライフル……俺が今使っているのはオートマチックだ。

連射は効くが、その連射を活かしながら別の的に立て続けて当てる事はほぼ無理だ。いや、無理だった。

だが行けると思った。だから引き金を引いた。

その結果が全弾命中。……なるほど、薬の効果はでかいらしい。

俺は下唇を軽く舐めて、マガジンを交換する為に腕を伸ばした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追憶の君は花を喰らう 

メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。 花を題材にした怪奇ファンタジー作品。 ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。 また文量が多めです、ご承知ください。 水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。) 気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura 完結済みです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

さっちゃんにサチアレ!

壊れ始めたラジオ
キャラ文芸
毎日のようにギャグをぶちかますエリートキャリアウーマン、蝶茶韻理早智。彼女のギャグの根底にあるものとは……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お供え物は、プロテイン

Emi 松原
キャラ文芸
寺の跡取り息子である奥村 安明、神社の跡取り息子である藤江 陽一、そしてマッチョである岡地 虎之助は幼なじみの大学三年生で別々の大学に通っている。彼らは寺や神社、そして口コミで持ち込まれる依頼を解決していたことから、「奇怪な人物達」、通称《キカイ》と呼ばれるようになっていた。《キカイ》の三人が、怪奇現象を解決していく短編連作のホラーコメディ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...