職場は超ブルー

森山 銀杏

文字の大きさ
上 下
35 / 41

決戦前 上司こと大林

しおりを挟む
んっ……ゴクッ。

真っ暗な空間、三十七階と三十六階の秘密空間で大林は一人、パイプ椅子に座っていた。

目の前には昨日まで無かった24インチのテレビと、見やすい高さに置く台が増えている。

いや……それ以外にも増えているものが二つあった。

一つはパイプ椅子の横に置かれた日本酒の一升瓶。

もう一つは大林が持っている安っぽい使い捨ての紙コップ。そこには既に日本酒が入っている。

それをつまみも無く、チビチビとやりながら……大林は時間になるのを待っていた。

午前中から酒盛りとはお気楽だなと自虐しながら、大林の顔は楽しそうでは無い。

これから彼は目の前のテレビで殺人をみるのだ。殺されるのは自分の部下の青島だ。

自分を作った人間に頼んで、青島の———ブルーの戦いをリアルタイムで見れるようにしてもらった。

知り合いと言うには親しいが、友人と呼ぶには遠い。

上司と部下と言う関係であったが、それに関わったものとして……見届けるべきだと大林は思ったのだ。

自分以外はこれが殺人だとも思わないだろう。酒が少し回った頭でそう思う。回ってなければこんなに露骨には考えられなかったかもしれない。

だがこれは殺人だ。異世界の向こうのやつが意図的に青島を殺すのだ。これを殺人と言わずなんとする。

今日、青島は異世界の都合で死ぬのだ。

それに関わったものとして、そして大きな流れに抗えなかったものとしてそれを見届けておく義務があると大林は思った。

彼は異世界から送り込まれた人工生命だが、高度な判断が可能なように自意識も持っている。

青島は結局一人で戦うと言う。子供達は居ない。

この世界で……誰かの為に戦うその姿を一人も見てないと言うのはあんまりだと大林は思っていた。

怒りなのか、悲しみなのか、それとも哀れみなのか。

いまいち判断は出来ないが、しらふで見る事も出来ず、酒の力を借りていると言う訳だ。

大林が青島と喋ったのは金曜日が最期になる。つまらない会話だった。

つまらない……いつもの会話をした。土曜日に電話しようかと思ったくらいだ。

だがしなかった。

できれば……生き残ってほしい。だが出来る訳も無い。

大林に取って、自分を作ったTV局は神に等しい。それが青島を殺すと断言したのだ。

絶対に殺される。いや、今まではむしろ生かされてきたのだ。

主役の登場人物が勝手に死んではお話にならない。物語にならない。

侵略と言うのは嘘なのだ。

青島を始めとしたファイバーズのメンバーは努力に寄って勝利していると思わされているだけだ。

実際は勝たされている。

悪魔のようなマッチポンプで、戦わされて、勝たされている。

そんな加護が無くなって、どうして生きていられようか。

大林に出来るのはその無駄なあがきを止めないでいる事だけだった。

青島が何か……いろいろ準備しているのは知っていたが、それを見ないふりをした。

大林にしてやれるのはそんな事だけだった。

つまらない事だ。結局は、走りたいように走らせてやる事しか出来ない。

邪魔をしないだけ……ただそれだけだ。

一升瓶で足りるかなと思う。大林にはそれが心配と言えば心配だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追憶の君は花を喰らう 

メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。 花を題材にした怪奇ファンタジー作品。 ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。 また文量が多めです、ご承知ください。 水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。) 気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura 完結済みです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

さっちゃんにサチアレ!

壊れ始めたラジオ
キャラ文芸
毎日のようにギャグをぶちかますエリートキャリアウーマン、蝶茶韻理早智。彼女のギャグの根底にあるものとは……。

お供え物は、プロテイン

Emi 松原
キャラ文芸
寺の跡取り息子である奥村 安明、神社の跡取り息子である藤江 陽一、そしてマッチョである岡地 虎之助は幼なじみの大学三年生で別々の大学に通っている。彼らは寺や神社、そして口コミで持ち込まれる依頼を解決していたことから、「奇怪な人物達」、通称《キカイ》と呼ばれるようになっていた。《キカイ》の三人が、怪奇現象を解決していく短編連作のホラーコメディ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...