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間話3 拘束
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目が覚めると俺は天井を見ていた。知らない天井だ。天井が見えるということはどうやらベッドに寝かされているらしい。ここで違和感を感じる。立ち上がろうとしたが立ち上がれないのだ。どんなに力を込めても、身体は動くどころか締め付けられているような感覚に陥る。
俺は首を上げて自分の胴体を確認して合点がいった。
何本ものロープが俺の身体をぐるぐる巻きにしてベッドに括り付けていたのだ。何だ、拘束されていたから俺は動けなかったのか。なんて呑気に納得している場合ではない。俺は何者かに捕らえられ、ここに拘束されているのだ。それも身体を縛られているということはあまり友好的でないことの証左に他ならない。
俺は何とか情報を集めようと首を動かし横を向いた。淡い紫色のカーテンが見え、その近くの棚に巨大な熊のぬいぐるみが置いてあり、そしてこの部屋は甘いブドウの香りで満たされている。
「ルナぁ!!」
俺は姿を確認する前に叫んだ。俺には確信があった。これはルナの匂いだ。それに、こんな事をするのはルナしかいない。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」
それはやはりルナの声だった。俺は声のした方を見た。その姿にしばし目を奪われる。
いつもの医療魔法学部の制服ではなくメイド服を着たルナがそこには立っていた。メイド服と言っても何だか胸元がかなり多きく開いているし、お尻が見えそうなほど短い。まじまじと自分を見る男に対し、ルナは暗く微笑む。
何なんだろう。ジャンヌほど胸が大きいわけでもなく、紅花みたいに底抜けの明るさがあるわけでもないのに、その表情だけで立ち眩みがするような色気を打ち込まれているような気持になる。
「な、何でそんな恰好を……」
俺はようやく言葉にすることが出来た。
「ああ。これはクラウス様が喜んで下さると思って」
「ふっ、そんな事で我が喜ぶとでも思ったか」
嘘です。めっちゃ嬉しいです。
「あら、そうですか……でしたらもう少し脱いで差し上げますね」
「ま、待て待て待て待てえ!」
ルナが自分の胸元に手を差し込み、一気に引き下ろそうとしたので俺は慌ててそれを留めた。そんな事されたら今度こそ理性が崩壊しかねない。この身動きの取れない状況ではリーザ先生の時のように逃げることも出来ない。と言うより
「ルナ! 何故我を拘束した!」
「子供を作るためです」
ルナは眉一つ動かさず言い切った。うーん。ブレないねこの人。
不意にルナが俺の身体に跨ってきた。彼女の股が丁度俺の下腹部の辺りと重なっているのは完全に狙いすましての事だろう。
「おい! 降りろ! どうして我の上に乗るのだ!」
「子供を作るためです」
ルナは相変わらず笑顔を崩さない。
「クラウス様、今日の放課後、ジャンヌさんと会話されておりましたね」
「したが、見ていたのか?」
「ええ。見ていましたし、聞いていましたし、感じておりました」
どこに居たんだよ。あと感じるって何だよ。僕も今色々と感じるところがあります。
「ねえ、クラウス様。私も海に連れて行って下さい」
ルナは俺の方に倒れこみ、耳元で囁いた。必然的に彼女の身体は密着している状態である。得も言われぬ柔らかさに包まれている。
「そうじゃないと、このまま致しちゃいますよ?」
この時、ルナを連れて行くと言ったらジャンヌが怒るだろうという思考が一瞬俺の頭を過ったが、最早どうすることも出来なかった。ここで拒否したらルナがどんな行動に出るのかは火を見るよりも明らかである。
「わ、分かった! 連れて行ってもらえるように頼んでおこう!」
「頼むだけですか?」
ルナはまるで子猫が甘えるような声で囁き、俺の手に自分の手を絡めた。
「わ、分かった! 我の一存で絶対ルナも一緒に行けるよう動いてみよう! だから!」
するとルナは密着した状態から離れ、身体を起こした。その目は潤んでいる。
「嬉しいです。クラウス様にそこまで思って頂けていたなんて! 私、これ以上ないくらい幸せです!」
いやお前が言わせたんだろ。完全に脅迫じゃねえか。
「と、いうことでお礼に子作り致しましょう」
「何で!?」
こいつ俺のことをはめやがったな! どっちにしろアレする気なんじゃねえか! ドンとこい!
「待て! そ、そうだ! ルナ! 貴様はメイドだったな」
「はい、そうです。どんなプレイだろうとお申し付けください」
「タケノコが食べたい! ちょっと持って来てくれないか?」
「はい、こちらに御座います」
ルナは俺の上から立ち上がると、ベッドの下を探り、一本の立派なタケノコを取り出してきた。
何であるんだよ!
「こちら、どちらに挿入されますか?」
そうじゃねえ!
「い、いや、食べたいから、調理してきて貰って良いか?」
「かしこまりました。こちらの立派なタケノコを」
言いながら再びベッドの下に手を差し込む。
「調理したのがこちらです」
ルナの手は皿を掴んでおり、その上にはタケノコの煮物が湯気を立てている。だから何であるんだよ!
「ふふっ。クラウス様のして欲しいことなら全て分かります」
「終いには我の心を読んできよってからに!」
「はい、あーん。うん、美味しいですね」
そんでお前が食べるんかい!
どうしよう。このままだとタケノコを食べた後結局子作りの流れにならないだろうか。こうなったら強行突破じゃ!
俺は頭の中で呪文を詠唱する。口に出さなくても、このロープを切るだけなら容易い。
「【衝襲霊攻斬カース・ソード】」
その瞬間、俺を縛っていたロープが、まるで粉末のように砕け切った。極力極力威力を落としたつもりだったが、これを人に撃ったらと思うと怖くて出来たものではない。
「きゃあっ!」
ルナの悲鳴。まさかルナに当たってしまったのか!?
俺は一気に血の気が引くのを感じながら彼女の方を見た。
そこには、変わり果てた姿があった。……メイド服の。
どういうわけか俺の魔法はルナの服だけを器用に切断し、彼女を裸にしていた。
「クラウス様……やっとその気になって下さったのですね」
ルナは両手を広げて俺を受け入れる態勢になった。当然、彼女の胸に下着は付けられていない。
「ち、違う! 故意ではない!」
いや故意ではないとは言ったもののルナを裸にしたのは俺なわけで、無意識にルナを剥こうとしなかったとは言い切れないかもしれない。
しかし弁明している場合ではない。今はまさに逃げるチャンスなのだ。
俺はベッドから飛び降りるとドアの方に向かって突進した。ルナのことだから絶対ドアにも細工がしてある。思い切りぶつからなければ。
俺は全身に力を入れ、ドアノブを捻りつつ全力で体当たりした。
ところが勢いよく捻ったドアノブは容易く回り、ドアも軽々とスイングした。拍子抜けだがラッキーだ。
これで逃げられる!
「あ、クラウス様! そちらから出てはダメです!」
「そのような台詞に耳を貸していられるか!」
俺が勢いよく廊下に飛び出した瞬間、とんでもない数の人間と目が合った。というより一方的に凝視されていた。全員が少女で、みんな部屋着だったり、薄着だったり、下着がはだけたりしている。
そして気付く。
先ほどの部屋がルナの部屋だとしたら、ここは学園の女子寮である、と。
「きゃああああああああああああ!」
「変態!」
「何で男子がいるの!」
「殺せ!」
「八つ裂きにしろ!」
「血祭りにあげてやるぁあ!!」
それはもう大騒ぎになった。少女達は手に手に箒や魔法の杖、中には剣を持ち、俺の方ににじり寄ってくる。
「いやあああああああ!」
これは俺の悲鳴である。悲鳴を上げながら俺は逃げた。振り返ってはならない。立ち止まってはならない。殺気立った戦闘魔法使い達にたちまち食い殺されてしまうだろう。
「逃げたわよ!」
「撃て撃てー!」
「ファイヤーボール!」
自分のすぐ後ろで致死量の熱を感じる。次々に爆風が追い越していく。四方八方から色んな物が飛んでくる。鉛筆、笛、漬物石。
俺は寸前のところで躱し、時に転げながら走って走って走りまくり、突き当りにあった窓をぶち破った。
甲高いガラスの割れる音と共に俺は夜空に投げ出される。
満月が笑っている。俺と、ガラス片を照らしている。
うーん、こんなのばっかり。
こうして俺のビナー魔法学園における初めての一学期が終了した。
そして明日から、人生初めての夏休みが始まるのである。
俺は期待に胸を膨らましながら、下にあった池にしぶきを上げて沈んでいったのだった。
後書き
ここまでお読みいただきありがとうございました。
1学期編が終わり、一応自分の書きたいところまで書けたので一旦完結設定とさせて頂きます。
長編小説を20万字以上書いたのは初めての経験でしたが、読者の皆様の支えがあってここまで続ける事が出きました。
また連載を再開する機会があるかもしれないので、その時は夏休み編で会いましょう。
ありがとうございました。
俺は首を上げて自分の胴体を確認して合点がいった。
何本ものロープが俺の身体をぐるぐる巻きにしてベッドに括り付けていたのだ。何だ、拘束されていたから俺は動けなかったのか。なんて呑気に納得している場合ではない。俺は何者かに捕らえられ、ここに拘束されているのだ。それも身体を縛られているということはあまり友好的でないことの証左に他ならない。
俺は何とか情報を集めようと首を動かし横を向いた。淡い紫色のカーテンが見え、その近くの棚に巨大な熊のぬいぐるみが置いてあり、そしてこの部屋は甘いブドウの香りで満たされている。
「ルナぁ!!」
俺は姿を確認する前に叫んだ。俺には確信があった。これはルナの匂いだ。それに、こんな事をするのはルナしかいない。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」
それはやはりルナの声だった。俺は声のした方を見た。その姿にしばし目を奪われる。
いつもの医療魔法学部の制服ではなくメイド服を着たルナがそこには立っていた。メイド服と言っても何だか胸元がかなり多きく開いているし、お尻が見えそうなほど短い。まじまじと自分を見る男に対し、ルナは暗く微笑む。
何なんだろう。ジャンヌほど胸が大きいわけでもなく、紅花みたいに底抜けの明るさがあるわけでもないのに、その表情だけで立ち眩みがするような色気を打ち込まれているような気持になる。
「な、何でそんな恰好を……」
俺はようやく言葉にすることが出来た。
「ああ。これはクラウス様が喜んで下さると思って」
「ふっ、そんな事で我が喜ぶとでも思ったか」
嘘です。めっちゃ嬉しいです。
「あら、そうですか……でしたらもう少し脱いで差し上げますね」
「ま、待て待て待て待てえ!」
ルナが自分の胸元に手を差し込み、一気に引き下ろそうとしたので俺は慌ててそれを留めた。そんな事されたら今度こそ理性が崩壊しかねない。この身動きの取れない状況ではリーザ先生の時のように逃げることも出来ない。と言うより
「ルナ! 何故我を拘束した!」
「子供を作るためです」
ルナは眉一つ動かさず言い切った。うーん。ブレないねこの人。
不意にルナが俺の身体に跨ってきた。彼女の股が丁度俺の下腹部の辺りと重なっているのは完全に狙いすましての事だろう。
「おい! 降りろ! どうして我の上に乗るのだ!」
「子供を作るためです」
ルナは相変わらず笑顔を崩さない。
「クラウス様、今日の放課後、ジャンヌさんと会話されておりましたね」
「したが、見ていたのか?」
「ええ。見ていましたし、聞いていましたし、感じておりました」
どこに居たんだよ。あと感じるって何だよ。僕も今色々と感じるところがあります。
「ねえ、クラウス様。私も海に連れて行って下さい」
ルナは俺の方に倒れこみ、耳元で囁いた。必然的に彼女の身体は密着している状態である。得も言われぬ柔らかさに包まれている。
「そうじゃないと、このまま致しちゃいますよ?」
この時、ルナを連れて行くと言ったらジャンヌが怒るだろうという思考が一瞬俺の頭を過ったが、最早どうすることも出来なかった。ここで拒否したらルナがどんな行動に出るのかは火を見るよりも明らかである。
「わ、分かった! 連れて行ってもらえるように頼んでおこう!」
「頼むだけですか?」
ルナはまるで子猫が甘えるような声で囁き、俺の手に自分の手を絡めた。
「わ、分かった! 我の一存で絶対ルナも一緒に行けるよう動いてみよう! だから!」
するとルナは密着した状態から離れ、身体を起こした。その目は潤んでいる。
「嬉しいです。クラウス様にそこまで思って頂けていたなんて! 私、これ以上ないくらい幸せです!」
いやお前が言わせたんだろ。完全に脅迫じゃねえか。
「と、いうことでお礼に子作り致しましょう」
「何で!?」
こいつ俺のことをはめやがったな! どっちにしろアレする気なんじゃねえか! ドンとこい!
「待て! そ、そうだ! ルナ! 貴様はメイドだったな」
「はい、そうです。どんなプレイだろうとお申し付けください」
「タケノコが食べたい! ちょっと持って来てくれないか?」
「はい、こちらに御座います」
ルナは俺の上から立ち上がると、ベッドの下を探り、一本の立派なタケノコを取り出してきた。
何であるんだよ!
「こちら、どちらに挿入されますか?」
そうじゃねえ!
「い、いや、食べたいから、調理してきて貰って良いか?」
「かしこまりました。こちらの立派なタケノコを」
言いながら再びベッドの下に手を差し込む。
「調理したのがこちらです」
ルナの手は皿を掴んでおり、その上にはタケノコの煮物が湯気を立てている。だから何であるんだよ!
「ふふっ。クラウス様のして欲しいことなら全て分かります」
「終いには我の心を読んできよってからに!」
「はい、あーん。うん、美味しいですね」
そんでお前が食べるんかい!
どうしよう。このままだとタケノコを食べた後結局子作りの流れにならないだろうか。こうなったら強行突破じゃ!
俺は頭の中で呪文を詠唱する。口に出さなくても、このロープを切るだけなら容易い。
「【衝襲霊攻斬カース・ソード】」
その瞬間、俺を縛っていたロープが、まるで粉末のように砕け切った。極力極力威力を落としたつもりだったが、これを人に撃ったらと思うと怖くて出来たものではない。
「きゃあっ!」
ルナの悲鳴。まさかルナに当たってしまったのか!?
俺は一気に血の気が引くのを感じながら彼女の方を見た。
そこには、変わり果てた姿があった。……メイド服の。
どういうわけか俺の魔法はルナの服だけを器用に切断し、彼女を裸にしていた。
「クラウス様……やっとその気になって下さったのですね」
ルナは両手を広げて俺を受け入れる態勢になった。当然、彼女の胸に下着は付けられていない。
「ち、違う! 故意ではない!」
いや故意ではないとは言ったもののルナを裸にしたのは俺なわけで、無意識にルナを剥こうとしなかったとは言い切れないかもしれない。
しかし弁明している場合ではない。今はまさに逃げるチャンスなのだ。
俺はベッドから飛び降りるとドアの方に向かって突進した。ルナのことだから絶対ドアにも細工がしてある。思い切りぶつからなければ。
俺は全身に力を入れ、ドアノブを捻りつつ全力で体当たりした。
ところが勢いよく捻ったドアノブは容易く回り、ドアも軽々とスイングした。拍子抜けだがラッキーだ。
これで逃げられる!
「あ、クラウス様! そちらから出てはダメです!」
「そのような台詞に耳を貸していられるか!」
俺が勢いよく廊下に飛び出した瞬間、とんでもない数の人間と目が合った。というより一方的に凝視されていた。全員が少女で、みんな部屋着だったり、薄着だったり、下着がはだけたりしている。
そして気付く。
先ほどの部屋がルナの部屋だとしたら、ここは学園の女子寮である、と。
「きゃああああああああああああ!」
「変態!」
「何で男子がいるの!」
「殺せ!」
「八つ裂きにしろ!」
「血祭りにあげてやるぁあ!!」
それはもう大騒ぎになった。少女達は手に手に箒や魔法の杖、中には剣を持ち、俺の方ににじり寄ってくる。
「いやあああああああ!」
これは俺の悲鳴である。悲鳴を上げながら俺は逃げた。振り返ってはならない。立ち止まってはならない。殺気立った戦闘魔法使い達にたちまち食い殺されてしまうだろう。
「逃げたわよ!」
「撃て撃てー!」
「ファイヤーボール!」
自分のすぐ後ろで致死量の熱を感じる。次々に爆風が追い越していく。四方八方から色んな物が飛んでくる。鉛筆、笛、漬物石。
俺は寸前のところで躱し、時に転げながら走って走って走りまくり、突き当りにあった窓をぶち破った。
甲高いガラスの割れる音と共に俺は夜空に投げ出される。
満月が笑っている。俺と、ガラス片を照らしている。
うーん、こんなのばっかり。
こうして俺のビナー魔法学園における初めての一学期が終了した。
そして明日から、人生初めての夏休みが始まるのである。
俺は期待に胸を膨らましながら、下にあった池にしぶきを上げて沈んでいったのだった。
後書き
ここまでお読みいただきありがとうございました。
1学期編が終わり、一応自分の書きたいところまで書けたので一旦完結設定とさせて頂きます。
長編小説を20万字以上書いたのは初めての経験でしたが、読者の皆様の支えがあってここまで続ける事が出きました。
また連載を再開する機会があるかもしれないので、その時は夏休み編で会いましょう。
ありがとうございました。
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