冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

文字の大きさ
上 下
89 / 92

結果発表

しおりを挟む
 ふぇええ、駄目だったよぉ。

 紅花の獲得した点数は51点と決勝に残った八人中最下位で、ここに来て大魔法料理対決の厳しさを身をもって味わった。上には上がいるのだ。

 ところで、今俺の隣を歩いている紅花は嬉しそうに微笑んでいる。何故、必ず優勝すると息巻いていた紅花が優勝を逃してもニコニコしているのか。その理由は彼女が大事そうに抱えているトロフィーが教えてくれる。

 これは「審査員特別賞」のトロフィーである。一人でマッシュオークを加工、調理した紅花の行為はやはり長い大魔法料理対決の中でも前代未聞だったらしい。その斬新さと、オンリーワンの尖った能力が審査員達に認められ、今回の受賞に至ったのだ。また、総評の中には「マッシュオークの処理に新たな光を見出した」と付け加えられていた。

 あの審査員達は本当にただアヘってただけではなく、冷静に、客観的な審査を行っていたらしい。



 賞金も出た。もちろん借金の全額返済には程遠いけれども、紅花に言わせると

「この金額があれば、返済の期限を延ばしてもらえる」

 そうだ。それなら今回の目的は達成したに等しいのではないだろうか。これで一先ず紅花のお父さんが身売りせずに済む。



 それだけではない。紅花はマナ国の高級料理店と、地元炎武の貴族家から同時に就職のお誘いを受けた。どちらも紅花が卒業するまで待ってくれるらしく、待遇もかなりのものらしい。急に進路が決まりそうになった本人はかなり戸惑っており、もう少し待って欲しいと先方には伝えたようだ。贅沢な悩みといううやつだろう。



 そして俺達は今、調理棟に向けて歩いている。紅花が調理棟に取りに行きたい物があるというので、それに付き添っているのだ。

 空はオレンジ色に染まり、いずれ日が沈むだろう。

 辺りには誰も居ないが遠くで喧噪が聞こえる。大魔法料理対決はこれからが本番なのだ。何せ大会で作られた料理が全て観客達に振舞われるからだ。会場内はさながらお祭り騒ぎの様相を呈していることだろう。ニックも「全部俺が食ってやる」と息巻いていた。



「おい」



 不意に後ろから声がした。振り返ると、栗色の髪の少年が首を前後に動かしながら立っている。



「アーサー」



 紅花が不審そうに彼を見る。そんな目で見てあげるな。



「おい闇魔道士! お前、ちゃんと俺の卵は使ったんだろうな?」

「卵?」



 俺は首を傾げた。アーサーの卵とは何のことだろう。まさかアーサーの吐き出した卵を料理に使うなんて、そんなラリったことをする奴がいたらドン引きだが。俺の反応が鈍いのを見たアーサーは目を伏せた。



「あ。いや。知らないなら知らないほうが良い」



 今度はぐあっと顔を上げ紅花を半ば睨みつける。真剣な眼差しだ。



「おい、紅花、その、あの……俺は、お前が」



 お、告白か? 恐らく紅花の決勝戦での活躍を見て本人もテンション上がったんだろう。やるなら今日だと思ったに違いない。頑張れ! 頑張れアーサー! 鶏にされても折れないお前の気持ちを今! 紅花にぶつけるんだ! 



「何ヨ」

「お、お、お、お前の力で優勝出来るわけないだろ! 残念だったな! バーカバーカ!!」



 あーあ。照れ隠ししようとして完全な悪口になっちまってるよ。



「ちょっと審査員に褒められたからって調子に乗るなよ! あいつら全員世界的な料理人だだからってよ!」



 褒めたいけど素直に褒められない感じだ。



「本番で100%の力を出し切ったからって満足してんじゃねえぞ! 俺だって100%出し切ってニワトリなんだからな!」



 何が言いたいんだこいつは。



「あと良い就職先から声かけられておめ、調子に乗るなよ!」



 今祝福しかけたな。素直になれば良いのに。



「お前の今の力で渡っていけるほど料理魔法界隈は甘くねえ! 仕方ねえから俺が放課後練習に付き合ってやるよ! 次の大魔法料理対決に向けてな!」



 おお! 最終的にちゃんと告白したぞ! やるじゃないかアーサー! 紅花はどんな反応をするだろう。

 紅花はキョトンとした顔でアーサーを見ていた。その表情が一気にストンと落ちる。



「え、普通に嫌です。私あなたの事嫌いです」



 めっちゃ敬語でキレてる!! これネタ抜きに本気で怒ってる奴じゃん!

 紅花からすごい勢いで拒絶されたアーサーは一瞬身体をビクンと振るわせた後固まってしまった。まるでメデューサを見て石にされてしまったかのようである。これは、相当ショックを受けてるんじゃ……。



「おっ、おっ、おっ」



 オットセイかな?



「おい闇魔道士ぃ! 覚えとけよおおおおおお!」



 と捨て台詞を吐いた彼は、俊敏に首を前後に動かしながら走り去っていってしまった。どうでも良いけど何で恨む対象が俺なんだよ。









 ***







「クラウス、ありがとうヨ」



 紅花はさっきまでの凍てつくような真顔ではなく、柔和な笑顔で俺を見ている。機嫌を直してくれたようでほっとした。その笑顔が見れたんなら手伝った甲斐があったというものだ。



「ククク……我は無敵の闇魔道士並びに料理を生業とする者……当然のことをしたまで」



 俺はいつものように左手で右目を隠し、ポーズを取った。いつものようにと言ったがこの動きをするのは何だか久しぶりな気がする。

 ふと紅花の頬が赤いことに気付く。夕日に染まっているのか、それとも紅潮しているのか、俺には判断が付かない。



「大好きヨ」



 紅花は掠れるほど小さな声で呟いた。

 紅花の潤んだ瞳と、普段とは違う甘い囁きに俺もドキッとする。

 彼女はいつも俺やニック、そしてメランドリ先生に対しても気軽に「好き」と言う。今回もそういったフランクな物だと思う一方、何だか少し特別な意味が籠っている気もする。そう感じさせる紅花の表情だった。勿論俺の気のせいかもしれないが。



「クラウス、また一緒に料理してくれル?」



 紅花の声はやはり甘い。



「ククク……我らは血の盟約により結ばれし同胞はらから。いつでも召喚するが良い」



 大魔法料理対決は終わった。だが、紅花の料理人人生はこれから始まるのだ。俺も彼女の人生に、少しでも力を加えられたら幸いなことだ。

 急に紅花が俺の手を握った。柔らかな手が俺の手をふんわりと包み込む。突然のことだったので俺は驚いて跳ねそうになった。手汗がダラダラ出ていて紅花に申し訳ない。



「行こ?」



 紅花はいつものすべてを溶かすような笑みを浮かべ、俺の手を引いた。調理棟の方へ引っ張って行く。いつもの笑顔なのに、この暗闇だと何だか妖しいな。

 俺は引っ張られて進みながら空を見上げた。





 夕闇は紫に落ちかけており、夏の生ぬるい風が俺達の頬をかすめていく。

 夜の虫が涼しい声で鳴く中、俺達二人の足音が響いていく。

 いよいよ夏が来る。







 大魔法料理対決編 おわり
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...