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逃走
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外はどっぷり闇に浸かっている。冷気が肌に染みる。小さなこの村では酒場の一つを除いて全て店仕舞いをしているようで、ほとんど人の気配がない。
ルナは走るスピードを落とし、しかし俺の手はガッチリと掴んだまま進む。この暗さでは村出身者である彼女も上手くスピードを出せないようだった。
「待ちなさい!」
「ルナ! 良い子だから闇魔道士さんを連れてこっちに来るんだ!」
「今なら怒らないから!」
「先っぽだけで良いから!」
後ろから松明を持った村人達が追いかけて来ている。すごい人数だ。彼らの持つ松明の炎はまるで村人の執念そのもののように轟々と燃え、不気味に、どこまでも俺たちを追いかけてくる。その光景はかなりの恐怖心を煽るものだった。もう亡霊だろこいつら。
徐々に距離が縮まる。このまま宿屋まで逃げ切れるのか……?
「追いつかれます! クラウス様! こちらへ!」
ルナは不意に狭い路地に入ったかと思うと、ジグザクに通路を抜け、ある民家の前に辿り着いた。
「ここは……?」
「説明は後です! さあ、入ってください!」
ルナは取り出した鍵で素早く解錠し、俺を中へと促した。もしかしてここはルナの自宅なのだろうか。にしては新築独特の、真新しい木の匂いがツンと鼻をつく。
「奥の部屋へ」
ルナに手を引かれるまま俺は奥の部屋へ向かった。この時点で俺は走った疲労と、追われたストレスによって既に息も絶え絶えだった。
外では村人達の走り回る足音と声が間近で響いてくる。間一髪だったのだろう。
何はともあれこれで一安心だ。本当に間一髪だった。俺が眠らされている時、ルナが起こしてくれなければ今頃どうなっていたか。そう、あんなに結婚にこだわっていたルナが改心するなんて思わなかった。だが態度が変わった理由は何となく分かる。
恐らくジャンヌの影響だろう。ルナは自分の容姿に圧倒的な自信を持っている。しかしこのまま強引に結婚を押し切ってしまえば、まるで「自分に魅力が無いからこんな強引な手段を取っている」と宣言しているようなものだ。
昼間、ジャンヌから散々妨害された時、そのことに気付いたのかもしれない。
プライドの高いルナにとって、それは許せなかったのだろう。
「もう、ここまで来れば、安心ですね」
ボウッと赤い光が部屋を照らした。ルナが蝋燭を灯したのだろう。淡い光に照らされたルナの顔が優しく俺を見つめている。
薄暗い中で彼女の表情はひたすらに妖しい。まるで魂を吸い取られそうで、俺は思わず目を背けてしまった。
改めて照らされた部屋の中を見回すと、は小さなベッドや木馬などが見て取れる。
どれも大人が使うには小さすぎるのは恐らく全て赤ちゃん用のものだからだ。カラン、コロン、と部屋のどこから聞こえてくるのはオルゴールだろうか。
「ここは子供部屋か……?」
「はい。この家には今度結婚する夫婦が住む予定なのです。村のみんなでお金を出し合って建てたのですよ」
「そ、そんな場所に入って良かったのか?」
「ええ。だってその新婚夫婦というのはクラウス様と私のことですから」
「へー」
ゑ?
ガチャン。と鍵の掛かる音がした。
振り返ると、ルナが扉の鍵穴に素早く鍵を差し込んで引き抜くのが見えた。ねえ! 何で鍵掛けたの!?
何だか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ!
「お、おい。別にこの部屋に鍵を掛ける必要は無いのではないか?」
俺は平静を装って聞いてみた。ルナは微笑んでいる。微笑んでいるが先ほどの優しい笑みとは似ても似つかない。挑発的で、男の本能を煽るような、悩ましい笑みを浮かべている。
「捕まえた」
ルナは「はぁ」と熱い吐息を吐いた。
ルナは走るスピードを落とし、しかし俺の手はガッチリと掴んだまま進む。この暗さでは村出身者である彼女も上手くスピードを出せないようだった。
「待ちなさい!」
「ルナ! 良い子だから闇魔道士さんを連れてこっちに来るんだ!」
「今なら怒らないから!」
「先っぽだけで良いから!」
後ろから松明を持った村人達が追いかけて来ている。すごい人数だ。彼らの持つ松明の炎はまるで村人の執念そのもののように轟々と燃え、不気味に、どこまでも俺たちを追いかけてくる。その光景はかなりの恐怖心を煽るものだった。もう亡霊だろこいつら。
徐々に距離が縮まる。このまま宿屋まで逃げ切れるのか……?
「追いつかれます! クラウス様! こちらへ!」
ルナは不意に狭い路地に入ったかと思うと、ジグザクに通路を抜け、ある民家の前に辿り着いた。
「ここは……?」
「説明は後です! さあ、入ってください!」
ルナは取り出した鍵で素早く解錠し、俺を中へと促した。もしかしてここはルナの自宅なのだろうか。にしては新築独特の、真新しい木の匂いがツンと鼻をつく。
「奥の部屋へ」
ルナに手を引かれるまま俺は奥の部屋へ向かった。この時点で俺は走った疲労と、追われたストレスによって既に息も絶え絶えだった。
外では村人達の走り回る足音と声が間近で響いてくる。間一髪だったのだろう。
何はともあれこれで一安心だ。本当に間一髪だった。俺が眠らされている時、ルナが起こしてくれなければ今頃どうなっていたか。そう、あんなに結婚にこだわっていたルナが改心するなんて思わなかった。だが態度が変わった理由は何となく分かる。
恐らくジャンヌの影響だろう。ルナは自分の容姿に圧倒的な自信を持っている。しかしこのまま強引に結婚を押し切ってしまえば、まるで「自分に魅力が無いからこんな強引な手段を取っている」と宣言しているようなものだ。
昼間、ジャンヌから散々妨害された時、そのことに気付いたのかもしれない。
プライドの高いルナにとって、それは許せなかったのだろう。
「もう、ここまで来れば、安心ですね」
ボウッと赤い光が部屋を照らした。ルナが蝋燭を灯したのだろう。淡い光に照らされたルナの顔が優しく俺を見つめている。
薄暗い中で彼女の表情はひたすらに妖しい。まるで魂を吸い取られそうで、俺は思わず目を背けてしまった。
改めて照らされた部屋の中を見回すと、は小さなベッドや木馬などが見て取れる。
どれも大人が使うには小さすぎるのは恐らく全て赤ちゃん用のものだからだ。カラン、コロン、と部屋のどこから聞こえてくるのはオルゴールだろうか。
「ここは子供部屋か……?」
「はい。この家には今度結婚する夫婦が住む予定なのです。村のみんなでお金を出し合って建てたのですよ」
「そ、そんな場所に入って良かったのか?」
「ええ。だってその新婚夫婦というのはクラウス様と私のことですから」
「へー」
ゑ?
ガチャン。と鍵の掛かる音がした。
振り返ると、ルナが扉の鍵穴に素早く鍵を差し込んで引き抜くのが見えた。ねえ! 何で鍵掛けたの!?
何だか猛烈に嫌な予感がしてきたぞ!
「お、おい。別にこの部屋に鍵を掛ける必要は無いのではないか?」
俺は平静を装って聞いてみた。ルナは微笑んでいる。微笑んでいるが先ほどの優しい笑みとは似ても似つかない。挑発的で、男の本能を煽るような、悩ましい笑みを浮かべている。
「捕まえた」
ルナは「はぁ」と熱い吐息を吐いた。
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