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仲良くしよ?

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 ルナが案内してくれると言うので、みんなで村を散策することになった。と言っても小さな村だから全長百メートルの大仏があったり、毛穴から火を吹き出すような面白超人がいるわけでもない。

「この麦畑は夕暮れ時になると凄く綺麗なんですよ」とか「ここのおばあちゃんはいつも寝ているんです」とか「この犬は一秒間に三十回も腰を振ることが出来るんです。時に光速に迫るんです」とか素朴な観光スポットが続いた。



 村をぐるぐる回っていた俺たちはやがてヴァレッジ村のメインストリートに入った。まあ長さ五十メートルくらいの小さな商店街だ。





「美味そうな匂いがするなあ!」



 と言ってニックは近くの料理屋に消えていった。





 その商店の一つに、明らかにおかしな場所がある。建物の間にある露店なのだが、そこにビッシリと藁を束ねた人形が売られている。知っているぞ、これは鶴義の国にある呪具の一つで、特定の相手を思い浮かべて釘を打ち込めば、呪いを掛けられるという代物だった気がする。……何でそんなものを大っぴらに売っているんだ。





「いいえ、クラウス様。これは呪いの藁人形ではありません」

「何故我の考えてることが分かった!?」



 ルナは微笑んだまま続ける。



「これは『祝い』の藁人形です。この人形に意中の相手を思い浮かべながら釘を刺すと、その相手と懇意になれると言われているんです。別にこれは恋愛でなくても、商売上で特定の相手と手を組みたい時にも使うんですよ」

「そう、なのか……?」

「ええ。せっかくですから私がお手本を見せますね」



 鶴義の藁人形文化が海を渡って伝わるにつれ、その効果が変質していったのだろうか。にしてもあまり気味の良いものではない。



「一つ下さい」

「はいよ。ここで祝っていくかい?」



 何だその「ここで装備していくかい」構文。ルナは頷き、店主から人形と金槌と釘を受け取った。すごくニコニコしているのが逆に怖い。



「ルナ。その、誰を……?」

「私はジャンヌさんと仲良くなりたいので、ジャンヌさんの顔を思い浮かべながら叩き潰します」



 今叩き潰すって言ったぞ! はっきり! 何か殺意こもってない!? 

 ……いや、でももしかしたら潰すくらい叩いたらそれだけ仲良くなれるのだろうか。にしてもジャンヌを選んだのは意外だ。ずっと二人は仲が悪かったし、仲良くする気も無いだろうと考えていたからだ。いがみ合っていても、心の中でルナはジャンヌと仲良くしたかったのかもしれない。

 ルナは店に用意されていた柱に向かって人形を据え、金槌を振り被った。



 その時、ルナの顔から表情が落ちた。空気が張り詰めていく。彼女から漂ってくるのは敵意。いや、もっと邪悪な、プレッシャーに満ちた、明確な殺気。

 やっぱ殺す気じゃねえか。

 ルナの腕がしなる。

 雄叫びを上げながら、柱ごと圧し折る勢いで釘をぶち込みまくっていく。まるで戦場で鉄同士がぶつかるかのような轟音が、地鳴りの如く響き渡る。



「クラウス様ぁあ!! クラウス様あああああああああああ!」



 何で俺の名前叫びながら叩くんだよ!

 こいつは決してジャンヌと仲良くなりたいために叩いているわけではないのは明らかだった。



「おじさん。一つ下さい」

「じゃ、ジャンヌ……?」

「私もルナと仲良くなりたいから」



 ジャンヌが隣から無感情な声で言った。絶対嘘だ。やり返す気に違いない。今、戦争が勃発しようとしている。俺は中立国になれない。



 藁人形を受け取ったジャンヌはルナの反対側に立った。その目は冷たく据わっている。彼女の持つ金槌は何故か蜃気楼でも見ているかの如く歪んで見え、熱気がこちらまで伝わってきそうだ。

 転瞬、ジャンヌが振り被った。



「クラウスぁあああああ!!」



 だから何で俺の名前叫ぶんだよ! 俺が呪われるだろ!



 おおよそ「祝う」なんてハッピー★な感情など到底無い、暴力的な腕のしなりによって人形に釘が打ち込まれていく。

 そのストロークによって風が舞い、地響きが起こり、ジャンヌの金槌は紅い光を弾きながらドスンドスンと打ち付けられる。もう何がしたいんだこいつら。

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