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自警団の居場所

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 放課後、俺は生徒会第三倉庫前に立っていた。ここは表向き、生徒会の行事や催しなどで使われる物品が収められる場所であるが、実際は自警団が取り仕切った賭博場になっている。夜な夜な違法な賭博が平然と行われており、また、生徒たちから不当な上納金を集めるのにも使われているのだと狐塚が言っていた。

 ここにジャンヌを襲った連中が集まっていると教えてくれたのも狐塚である。



「本当にジャンヌを暴行した連中がこの中にいるのか?」



 俺は隣に立つ狐塚に念を押した。



「うーん、僕も中々信用されてないみたいだなあ」



 狐塚は肩を竦めて見せた。



「でも心配しないで大丈夫だよ。ちゃんとここに全員集めておいたから」

「集めたとは……?」



 俺は返答の意図が分からずに聞き返したが、狐塚は答えない。ただただいつもの笑顔でこちらを見返してくるだけだ。夕日が狐塚の真横から当たっているため、彼の左の顔は血のように染まり、右は闇に塗り潰されている。

 この男は恐らく何かを隠している。直感的にそう感じていた。



「ま、重要なのは集める過程よりも集まった結果の方だよね? だってクラウス君の目的は自警団の連中を殺す事だし!」



 微動だにしていなかった狐塚が急に戯けた仕草で言った。



「さあ、早くしないと裏から逃げる奴がいるかもしれないよ? 早く早く! 全員皆殺しにするなら今しかないよ!」



 相変わらず物騒な単語で捲し立ててくる狐塚。彼の人懐っこい笑顔と裏腹に、言っている言葉の落差がより不気味さを際立たせている。

 確かに俺の目的はジャンヌの受けた仕打ちへの報復。そして指輪を取り返す事だ。俺は改めて倉庫のドアを睨みつけた。



 中から物音は聞こえてこない。しかし不気味なほど静かな中に、ざわざわと蠢く殺気は肌で感じられる。特に場数を踏んでいるわけでもない俺が気付くくらいなのだから、相当の人数がいるのだろう。



 普段の俺なら真っ先に逃げ帰っていただろう。事実、ここまで覚悟を決めて来たにも関わらず、俺の胸は早鐘を打っているし、身体中がぐっしょりと汗で濡れている。だが今の俺は絶対に退かない。俺を助けてくれたジャンヌのために、俺は命を張ると決めたのだ。そのためにこれまで鍛錬をしてきた。尻を叩かれてきた。



 俺は一度目を閉じ、大きく息を吸い込む。目を開き、ゆっくり唱える。

「我が意志を伝えよ。【インテンション】」



 その瞬間、倉庫の引き戸がくの字に折れ曲がり、鉄の塊がちぎれるかのよう凄まじい音と共に内側へ吹き飛んだ。

 静かだ。しかし、水を打った様に静かな中に、殺気が光っている。おびただしい数の白い目が、夕日の逆光でぎょろぎょろと動いていた。やはりいた。

 俺はゆっくりと、その中に踏み込んでいった。



「ギラのクソ野郎はノックの仕方も知らねえのか」



 倉庫の奥から聞き覚えのある声がした。食堂で怒鳴っていたあの声。正面奥の椅子に座り、足を組んでいる肥満気味の男が視界に入った。

 俺は精一杯にそいつを睨みつけ、言った。



「我は深淵に住み、幽暝に潜む者。貴様らの理屈ルールには疎いのだ。第二自警団団長、メスナーよ」



 あちこちから気配を感じる。恐らく三十人以上に囲まれているだろう。



「口の利き方もなってねえな。こいつは教育が必要そうだ」



 メスナーが右手を上げた。それを合図にするように、じわじわと倉庫内の明度が上がっていく。取り巻き達が呪文の詠唱を始めたのだ。だが俺はそいつらに目もくれなかった。



「指輪を寄越せ」

「あ?」

「とぼけるな。貴様らがジャンヌ・オリオールという女生徒から……」

「ああ、あのクソ女か」



 周りの男たちは顔を見合わせ、ニヤニヤしている。



「あのアマ、十人がかりでボコろうとしたのに生意気にも抵抗しやがってな。だから言ってやったのさ。『これ以上楯突くなら、お前と仲良しの闇魔道士をボコって退学に追い込むぞ』ってな」



 笑い声が起こった。



「それからは大人しくなったぜ! いくら殴っても踏みつけても抵抗しねえ! あれだけ意地張ってた馬鹿女だったのにな! まあお前がのこのこ自分から来ちまうんだから、あいつも殴られ損だけどなあ!」



 笑い声の中、俺は突き上げてくる衝動を必死に堪え、拳を握り締めていた。怒りで視界が歪んでいるかのようにさえ見えた。



「で、あいつが生意気にも指輪をしていやがったから貰ってやろうと思ってな。そしたら『それだけはやめてくれ』だとよ! 腹が立ったから指をへし折ってから取ってやったんだよ!」

「貴様ぁっ!!!!!」



 メスナーが嘲る。俺の中で何かが弾けた。こいつらには「痛み」を与える必要がある。

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