冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

文字の大きさ
上 下
23 / 92

呪いの少女 4

しおりを挟む
「えー、魔力というのは空気中に無数に、それこそ使い切れないほど含まれています」

 リーザ先生は椅子に座った俺の前を左右にゆったり歩いている。先生が向きを変える度、ふわりと浮くスカートからパンツが見えそうになる。

 ちなみに普段の闇魔法の授業ではほとんど実技。実技に次ぐ実技のため、このような説明形式の授業は稀である。

 俺としては尻を叩かれなくて済むので座学の時間は好きだ。別にパンツが見えそうだから好きなわけではない。



「魔力が無数にあるからこそ、変換効率の悪い闇魔法でも我々闇魔道士は使うことが出来るわけですが……世の中には【魔法使い殺し】と呼ばれるスキルや呪いがあります。その場の魔力をほとんど吸い取ってしまうのです」



「へー」

「もう、呑気な声を出してる場合じゃないよ」



 歩いていたリーザ先生は俺の前で止まり、腰に手を当て、俺の方に屈んできた。胸が襟の隙間から見えそうになる。ちょっとその姿勢のまま四十八時間くらい止まっていてもらえないだろうか。



「吸い取られてしまったら魔法使いは無力。普通の人族と変わらない存在になってしまいます。そんな時の対処法として、魔力の代替エネルギーについて学んでいきましょう」

「先生、代替って何ですか?」

「クソが」

 !?



 前触れもなく暴言吐くのやめて。



「えー、ではアホのクラウス君にも分かるように教えます」



 あれ、嫌な予感がするぞ。だってこの流れは……。

 リーザ先生がパチン、と指を鳴らすと勢い良く例のクローゼットが開いた。そこから先ず、白い矩形くけいの物体が出てくる。

 箱の底には車輪が付いているようで、ガラガラと音を立てて近づいてくる。



 俺は思わず「あ」と声を上げしまった。白い箱を押していたのが、蛇の顔に人間の手足がくっついた化け物だったからだ。てっきりレモンのおっさんが出てくると思っていたので意表を突かれた。会いたいわけでは断じてない。



 リーザ先生はその爬虫類を指差した。

「知っての通り、彼は先日親知らずを取ったのよ」



 知らんがな。何で俺が爬虫類の口腔事情に詳しいの前提なんだよ。



「そしてこちらをご覧ください」

 リーザ先生は風呂桶の中を指差した。恐る恐る中を覗く。

 そこには股間にレモンを付けたおっさんが水に浮いていた。

 何この悪夢。

 彼は両手を盛り上がった腹の上で組み、そこに二枚貝を握り締めている。

 ゆらゆらと揺れるダルダルの身体は、その表情と共に微動だにしない。



「これは見ての通りラッコだよ」

「いや見ての通りなら裸のおっさんだろ!」



 どう見ても変質者のおっさん、百歩譲っておっさんの変死体じゃねえか! 本気であのクローゼットの中どうなってんだよ!



「じゃあこれから、このラッコを使って、どうやって魔力の代替エネルギーで呪いの対処をするのか説明をしていくね!」



 いやもうこの状況が呪いだろ。本当におっさんをラッコで通す気なのか。



「ラッコっていうのは海に集団で生息している動物なんだけど」



 海に行ったらこのおっさんのうじゃうじゃいるのかよ! 絶対行きたくねえ!



「ラッコは貝を取って食べる時、石を使うの」



 おっさんはたるんだ腹の間から手のひら大の石を取り出した。何そのDIY。



「あの石で貝を割って、中身を取り出して食べるってわけね!」



 おっさんは腹に置かれた貝に向かって、両手で小刻みに石を打ち付け始めた。かなりの力が籠もっていたらしく、たちどころ貝が割れて中身が飛び出した。俺は今何を見せられているんだろう。



「ほらほら! おっさn、いやラッコが貝を割ったよ!」



 今自分でおっさんて言いかけたろ。



「ところで、あの石を魔力だと思って欲しい」



 それであのおっさんは何とすれば良いのか。



「はーい。呪いによって魔力失いまーす」



 リーザ先生は貝を食べていたおっさんの手から石を取り上げた。するとおっさんの顔が歪み、手足をバタつかせて激しく動き始めた。

「何で取るんですか! 話が違うじゃないですか! んぱあ!」



 おっさんは溺れそうになりながら必死に抗議する。

 ……んぱあ?



「はい、ここからが本題! ラッコさんは石を取られたけど、また貝を割りたい。そんな時、代わりの道具を探さないといけないよね」



 リーザ先生がもう一度パチン、と指を鳴らすとおっさんはピタリと静かになった。さっきは変死体とか言ってごめん。どっちかと言うと水葬だね。



「致し方あるまい」



 渋い声で言いながら、おっさんは股間からレモンをもぎ取った。この瞬間が夢であって欲しいと切に願った。

 おっさんはもぎ取ったレモンを先ほどの石のように、貝に向かって打ちつけ始める。程なくして貝が砕け、中身が飛び出した。

 あのレモン硬くない? 



「ほらな、折れねェ」

 手足の生えた蛇が言った。

「何それ合言葉なの?」



「つまりあのレモンが代替エネルギーね」

「なるほど」

 いやなるほどじゃないが。



「これと同じように、水魔法は水素と酸素……いや、クラウス君には難しすぎるなー。まあその場に水があれば、それを魔力の代替エネルギーにして水魔法が撃てるし、火種があれば炎魔法が撃てるって事ね」

「へー」



 待て。最初からマッチの火とか花びんの水で説明してくれれば良かったのでは? あの義務のように飛び出してくるおっさん達は何なの?



「で、本題なんだけど、闇魔法の代替エネルギーについて」



 リーザ先生が髪をかき上げる横で、おっさんが割った貝を食べている。と、こちらの視線に気づいたらしく、カッと目を見開いた。



「これは死んでも渡さんぞおおおおおおおおおんぱあ!!!!!!!」

「うん」
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...