上 下
12 / 92

ニックと紅花 1

しおりを挟む
 今日は登校中と1時間目の授業以外は相変わらず虚無の時間を過ごし、また昼から専攻授業の時間がやってきた。



 ひたすら憂鬱である。きっと今日もいっぱいケツしばかれるんだろうな。ちなみにその予想は寸分違わず当たった。



 リーザ先生の部屋では甲高い鞭の音がピシャリ、ピシャリと鳴り響いている。

「痛ぁあっ!!」

「ほらホラァ! 早く魔力を集められるようにならないと鞭打ちの刑だよ!」



 いやもう処されているでござるの巻ぃ!!!









「俺、読み書きが出来ないんですけど、どうしたら良いですかね?」



 短い休憩時間中、尻をさすりながら聞いてみた。今の俺は授業について行ける行けない以前に、圧倒的「手遅れ」なのである。



「え? まだ鞭が足りないって?」

「いやもう十分です。勘弁してください」

 これ以上やったら尻が四つに分裂して切り分けられた桃みたいになるわ。



「本当に担当者から何も教えてもらってないんだねえ。放課後に外国人向けの授業があるから、そこで会話とか読み書きは教えてもらえるよ」

「そう、なんですか?」

「うん。クラウス君も別大陸出身だから絶対クラスを割り振られてるはずだよ。寮に帰って資料を確認してみ」

「分かりました」



 とは言ったが俺は資料が読めない。そこでわざわざ寮まで戻って全ての資料を取って(どれが外国人向け授業の資料か分からなかったため)リーザ先生の部屋まで戻り、そこで外国人向け言語教室の場所を教えてもらったのだった。



 農民だった頃は読み書きが出来なくて不便だと思った事は一度も無かったが、もっと勉強しておけば良かった。と今になって少し後悔する。





 ※







 放課後、日は西に傾いていて、学舎の落とす影は校庭に長い長い影を落としている。

 俺がやってきたのは西の離れにある建物で、ここまで登ったり降ったりを繰り返して、軽いハイキング気分だった。



 目の前にあるのは木造のかなり古そうな建物だ。

 中に入ると薄暗く、すえた木の匂いが鼻をつく。ビナー魔法学園は全体的に古くて荘厳な歴史を感じさせるが、ここはどちらかと言うとただ古臭い感じだ。



 ギシギシ鳴る廊下を進んでいくと、ちらほら明かりの付いている教室が目に入る。確か、ここを右に曲がって、左の一番最初の教室だったはずだ。

 俺は教室の扉に手をかけ、一度息を吐いた。



 この授業を受ける他の生徒たちと仲良くなれるかは分からないが、安心している事が一つだけある。ザビオス族の生徒と会わなくて済むということだ。

 何故ならこれから俺が学ぶのはザビオス語の読み書きであり、そこにネイティヴのザビオス族が出入りしていたらそれはかなり変な話になる。



 期待しているわけではないが、一人くらいは友達が出来たら良いな。と思って扉を押し開けようとした時だった。

 不意に中から扉が引かれ、その勢いが強かったので俺はドアノブを離してしまった。中から人が出て来ようとしたらしい。



 顔を上げると、そこには俺を見下す影があった。こちらからだと逆光になっているので少し気付くのに時間がかかったが、その男は金髪で、金色の瞳をしている。



 脇から汗がだくだくと噴き出してきた。

 で、ででででっででっででっででっで出たあああああああああああ!!!! 本日二度目の出血大サービスでございますううう!!!

 ちなみに出血する事になるのは俺である。男は細い眉の間にシワをよせ、半ば睨む形で俺を凝視している。

 あ、殺されりゅ。



「ま、ままままま間違えまちた」



 俺は自分のキャラも忘れ、素早く出て行こうとした。きっと何かの間違いだ。そもそも部屋を間違えたんだ。

「待てよ」



 と、腕を掴まれる。まるで鉄で鋳固められたかのよう手が動かない。凄い力だ。



 こんな時に何だが一つ補足しておくと、世界には大きく分けて四つの人種がいる。一つは特徴のない普通の人族。二つ目は身体能力の高い「戦士型」種族。三つ目は魔力の高い「魔道士型」種族。ちなみにギラ族は魔道士型の種族にあたる。そして四つ目は、戦士型と魔道士型の特性を併せ持ったハイブリッド型種族。ザビオス族はこれに当たる。



 つまり、俺がどれだけ力で抵抗したところで、このザビオス族の拘束を振り解ける可能性は無いと言うわけだ。ただ、



 いやあああああああ! 離ちてええええええええええ!! 俺は心の中で目一杯抵抗していた。ザビオス族に捕まってしまえば最後。あとの願いは「私、死ぬの初めてだから優しくしてね❤︎」のみである。



「おう、オメエ新入りだよな! 昨日来るっつってたのに来なかったからよお! みんな心配してたんだよ!」



 場違いなほど大きな声が廊下に響き渡った。叫んだ、と言う表現の方が近いかもしれない。



「し、新入りって外国人向け授業の……?」

「そうだぜ? まあ入れよ! まだ誰も来てねえから退屈しててよお!」



 男は俺をひょいと掴み上げて部屋に入れた。一瞬、胃と金玉が宙に浮いたような気がした。



「オメエ名前何つうの?」

「わ……我は」

「俺ぁニックって言うんだけどよお!」

 おい、何で自分から聞いといて最後まで聞かないんだよ! 

「でオメエ名前何つうの?」

 何この二度手間。

「わ、我が名はクラウス・K・レイヴンフィールド」



 第十三式~とか名乗ったら俺がギラ族だとバレるかもしれないので、そこで止めておいた。



「へえ、良い名前じゃねえか。ところでそれ、どっからどこまでが名前なんだ?」



 全部名前だよ!





「で、オメエ出身どこなんだべ?」

「わ、我は」

「俺ぁザビオス帝国のイエローヒルっつー片田舎で百姓してたんだけどよお」



 だから何でさっきから自問自答してるんだよ! 俺の話聞けよ! ……と思ったが、俺がギラ出身だと気付かれたらこいつの態度も一変する可能性もある。まあこの容姿で最初からバレている可能性もあるが。



「で、オメエ出身どこなんだべ?」



 いや、その質問には答えられない。きっと出身国を偽っても、突っ込んだ質問をされたらバレて死亡だし、素直にギラだと答えたらそれはそれで死亡である。



 ここは得意の中二病語で有耶無耶にするしかない!



「ククク……我が一族は闇に愛されし漆黒の一族……」

「ギラか?」

「あ、待って! 違うの!」

 違わないけど。



「ククク……我の出身がどこかだと……? それは何故この世に光と闇が存在するのか? という問いに似てはいないか?」

「やっぱギラか」

「違うのぉぉおおお!」

 違わないけど。



 どうすれば良い? まさかこんなバカっぽい喋り方をしているのに的確に俺の出身地を当ててくるとは思わなかった。いやバカなのは俺の方か。

 俺は焦って来た。悪い予感ばかりが先行し、身体の震えが止まらなくなって来た。



 するとニックと名乗ったザビオス族が急に、着ている制服を剥ぎ取った。ボタンが辺りに飛び散る。

 俺は突然の奇行に固まるしかなかった。何それ!? 俺襲われるの!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...