冤罪で魔法学園を追放された少年はいかにして世界最強の闇魔道士になったか

忍者の佐藤

文字の大きさ
上 下
5 / 92

でかい。

しおりを挟む

 魔法の「始まり」については諸説あるが、現在、魔法の興った地として一番有力とされているのがここ、「マナ」国である。

 この国は古くから魔法によって成り立ってきた。四方を強国に囲まれ、何度も侵略の憂き目に遭いながらも、その度に魔法の技術を発展させてきた国だ。



 俺を乗せた馬車は今、マナの地方都市「オルガン」の市街地を走っている。

 馬車から外を見ると近代的な建物が立ち並び、多くの人々が行き交っている。人々のほとんどが学生風であるのは、このオルガンが学園の密集した「学生街」だからだろう。

 多数の学校組織が集まり、その学生相手に商売をする人々や店が集って一つの街になっている。



 地面を横切る影。空を見上げると、ホウキにまたがった魔法使い達が青空を縦横に飛び交っている。



「でっかいなあ」



 田舎からギラの王都に出てきた時も「これが都会だっぺか」と腰を抜かしたものだが、このオルガンの街は人、建物、活気、全てが桁違いだ。驚きすぎて腰どころか膝の皿も割れそうだ。



 視線を大通りの建物群から遠くへ移していくと、小高い丘の上の一際大きな建物群に気付く。その建物群こそ、今日から俺の学び舎となる予定のビナー魔法学園である。



 ビナー魔法学園は、このマナの国を初めて統治した人物が千年以上前に創設したとされる、非常に歴史ある学園だ。

 この学園からは世界的にも有名な魔法使いが沢山輩出されており、この国、ひいては世界の魔法技術の成熟に大きな貢献をしているとされる。

 近年では学部、学科、学び舎が増設されており、それに伴い生徒数が増えている。



 また「世界における魔法の普及と人材の育成」という理念に基づいて外国からの生徒も積極的に受け入れており、現在の生徒総数は2万人を超える……。

 と、スカウトのおじさんに教えてもらった。ここで俺の学園生活(2回目)が始まるのか……。



 俺を乗せた馬車が魔法学園の門を越えた。



 敷地の中央には馬車がすれ違える大きな道が通っており、そこを数えきれないほどの生徒達が歩いている。

 四方には乳白色の、幾何学的なシンメトリーの建物が数え切れないほど建っており、そのどれもが天辺を見上げれば首の後ろが痛くなりそうなほどの高さだ。まさに壮観である。

 最早学園というよりも一つの「街」と言って良いのかもしれない。



 外から見ても大きかったが、中に入って改めてその広大さに圧倒させられる。ここ全部畑にしたらいっぱい野菜が取れるだろうな。



 俺の気分は否応にも高揚してきた。ここなら今までの自分を変えられるかもしれない。きっと多くの事を得られるに違いないという期待が胸に込み上げてくる。



 前の学園では色々あって辞めることになってしまったが、それは俺の覚悟が足りてなかったからだ。でも今は違う。俺は復讐の炎に燃えているのだ。

 絶対にエンゲルベルトより強い魔法使いになって恨みを晴らすまでは、絶対に諦めない! 弱音を吐かない! 最後までやり切る!



 待ってろエンゲ。絶対お前よりビッグになってギラに帰ってくるぜ!







 ◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆ ◇







 故郷に帰りたいっぺ。

 俺は廊下に一人立ち尽くし、泣き出したい気持ちに駆られていた。

 新生活に胸を躍らせていたあの日の僕はどこ? いや、あの日どころか三十分前なわけだが。





 今から少し前、俺は担当の教師からざっと説明を受けた。本当にざっと、まるで「さっと湯通し」の如き雑な説明だった。

 どうやら寮の場所や、今日から行くクラスの場所、それから生徒としての心構えなどを話されていたのだが、口頭で言われても敷地が広すぎてどこがどこだか分からない。



 それを聞こうとすると、非常に面倒くさそうに

「近くの先生に聞きなさい」

 と言わたのだが、じゃあお前は何なんだよ。通りがかりのおっさんか?

 また、雑なのに加えてマナの話し言葉はギラのそれとはかなりイントネーションが異なる発音で、非常に聴き取りづらい。

(何故大陸を隔てたギラとマナの言語が同じなのかは後述する)



 結局、

「では寮に荷物を置いたらすぐさっき言った教室に向かうように」

 と言って教師は去って行った。



 俺は焦った。もう寮に行って荷物を置いてくる時間も無さそうなので、重い荷物を抱えたまま手当たり次第に歩き回ってみたが、いかんせん広すぎる。ご存知の通り俺は文字が読めない†選ばれし存在†なので地図を当てに出来ないし、まともに歩いて探そうものならダンジョン探索くらい時間が掛かりそうだ。



 誰かに聞けば良かったのだが、どうやら既に授業が始まっているらしく、無限回廊の如く伸びる廊下に存在するのは静寂と俺だけだった。私と踊って静寂さん。

 で、「故郷に帰りたいっぺ」となったわけだ。

 再び途方に暮れる俺。



「あんた、何してんの?」



 やや低い少女の声。人がいた! ここは聞くしかない。もう恥ずかしがっている場合じゃない。この気を逃せば、俺は今日ずっとこの廊下を亡霊のように彷徨うことになるだろう。



「あ、あの……」



 振り向いて道を聞こうとした瞬間、俺の目は少女のある一点に吸い付けられた。

 胸である。

 男子諸君であれば、見ようと思っていなくても女子の胸に目をやってしまった経験が何千回かはあると思う。しかし今回のそれは「胸」としてではなく、身体の「部位」としてもかなり巨大なものだった。



「巨乳」と言う言葉ではおこがましい。「爆乳」と言う言葉でギリギリ収まらないくらいの暴力的な大きさだった



「何? どうしたの?」



 少女は胸を揺らして寄ってくる。いや、どっちかと言うと胸自体が圧迫しきているかのようだ。

 俺はそこでようやく自分の状況を思い出した。



「あ、あの……魔法戦闘学部魔道士学科一年P組の教室に行きたいんですが……」



 グヘヘ、この胸はPカップより大きいのかなあ、と言う非常にゲスい思考が頭をかすめる。



「ああ」



 少女は何かを納得したように頷いた。改めて顔を見ると、桃色の髪を背中にかからない長さで切りそろえており、キリッと大きい瞳や、一文字に結ばれた口は彼女の意思の強さを表しているかのようだ。



「ひょっとしてあんた転校生?」

「あ、はい」



 少女はふっ、と鼻で笑った。

「タメ語で良いわよ。私も一年生。何ならあんたと同じクラスだし、教室まで案内してあげるわ」

 言いながら少女は背を向け歩き出した。速度はかなり速い。行動の速さに頭の良さが感じられる。



「あ、ありがとうございます」



 俺は少女の後を慌てて小走りで追いかけた。



「タメ語で良いってば」



 少女は振り返らない。めっちゃツンツンしてるな。君の乳首をツンツンしたい。

 後ろから見ていても彼女の胸がたゆんたゆん揺れているのが見える。



「私はジャンヌ。ジャンヌ・オリオールよ。あなたは?」

「あ、クラウスです。クラウス・K・レイヴンフィールド」

「タメ語」

「あ、すみま、ごめん」



 なお、これらの会話は全て歩きながら行われている。あまりにジャンヌの歩く速度が速いので、こっちはちょっと息切れしてきそうだ。



「どこから来たの?」

 再びジャンヌが聞いた。出身地を聞いているらしい。

「ギラだよ」



 すると一瞬、ジャンヌの歩む速度がゆっくりになった。しかしすぐ元の速度で歩き出す。どうかしたんだろうか。

 ギラに観光に来たいと思っているんならあまりオススメしない。マナと比べたら超が付くほど田舎だし、観光地もそんなに多くないし、何より中二病が感染る。



「気を付けなさい」

「え?」



 俺はジャンヌが何のことを言っているのか分からず、一度聞き返した。するとジャンヌは歩いたまま顔を半分こちらに向け、



「ギラの子は狙われやすいから気を付けなさい」



 と言った。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...