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聖戦
英雄⑦
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私の全てを込めた攻撃は、単なる斬撃を想定していたシャラの右腕を両断した。
ただ、そのまま振り下ろした雷の剣は、捉えたかに思ったシャラの胴体に触れることはできずに空を切る。
腕が切られている隙に、後ろへ跳んで致命傷を回避したシャラ。
その危機回避能力は、敵ながらさすがは将軍クラスの魔族といったところだ。
それでも安全圏に逃れたかというとそうではない。
魔法剣の優れたところは、単発の魔法とは異なり、その威力を剣に留めたまま連撃が可能というところだ。
全力で剣を振り下ろしたことで、追撃に移るには難しい体勢の私。
でも私には、エディから授けられた秘技がある。
『雷光』
魔法で流した電気信号で無理やり筋肉を動かすその魔法。
体への負担は大きいが、その効果は絶大だ。
思ってもみなかった追撃に、シャラは反応し切れない。
魔力量も身体能力も圧倒的に優れているはずのシャラ。
単純な速度では間違いなく私より速いはずのシャラ。
そんなシャラが後手となり、辛うじて魔法障壁で防御するが、完全には防ぎ切れず、私の剣が浅く胸を抉る。
それでも私は止まらない。
最上級魔法を剣に留めておくには、膨大な魔力を必要とする。
魔力量が大幅に増えたとはいえ、長時間今の状態を維持するには、魔力量が足りない。
短期決戦での勝負が必要だ。
シャラはまだ私の攻撃に対処し切れていない。
今のうちに押し切る。
魔法障壁の隙間を縫い、私は斬撃を繰り出す。
再生する暇も、反撃する隙も与えない。
ーードンッーー
斬撃が魔法障壁を打つ。
ーーバキッーー
魔法障壁が間に合わず、体に大量の魔力を流すことで、シャラが生身で受けた時の骨を砕く鈍い音が響く。
こちらが圧倒的に優勢。
でも、焦り始めているのはこちらの方だった。
何度か魔法障壁の間を縫い、ダメージは与えている。
肌を切り裂き、骨も砕いている。
ただ、それだけだった。
いずれも致命傷には至っていない。
上位の魔族は、隙を与えてしまうと、たとえ砕けた骨でも回復できることを知っている。
今のうちに致命傷を与えなければないのに、軽傷しか負わせられていない。
そして、シャラは徐々にこちらの攻撃に対処できるようになってきている。
単純なスピードは相手が上。
『雷光』による人体の制限を無視した動きにより、惑わすことのできていた攻撃が、徐々に読まれ出している。
この魔力が尽きた時が、私の最後だ。
迸る雷光が消えないうちに決着をつけなければならない。
そんな私の思考を読んだかのように、シャラが笑みを浮かべる。
「もうおしまいか?」
思わずさらに焦ってしまいそうになる気持ちを、私は落ち着かせた。
焦ったところで何も変わらない。
私にできることは限られており、その限られたことを確実に行うのみだ。
私はすでにかなりの量の魔力を消費していた。
このまま戦い続けても、近いうちに破綻するのは目に見えている。
勝負をかけるのは今しかない。
私は変わらず連撃を続け、残された最後の切り札を切るタイミングを見極める。
でも、相手は私より遥かに長い年月を生き、数え切れないほどの戦闘を繰り返してきたであろう魔族。
目に見えた隙はいつまで経っても現れない。
そこで私は敢えて隙を作るべく、こちらの攻撃に継ぎ目を作る。
そしてそれはある意味功を奏す。
一つ目の継ぎ目を見逃さず、シャラがその鋭い爪に魔力を込めて、私の脇腹を切り裂かんと右腕を振る。
自ら作った隙にもかかわらず、あまりに鋭い攻撃に驚きながら、それでも私はその魔法の名を唱える。
『雷光』
エディ直伝の魔法で再現する動きは、本家には劣るものの自身としては最速の技。
『閃光』
剣に宿る魔力のほとんどを剣先へ集中し、魔力の爆発による推進力で、敵を貫くべく私はその技の名を口にした。
正真正銘、私の最後の切り札。
その剣は、シャラの魔法障壁を貫き、そしてシャラの体をも貫通した。
ただ、あり得ないほどの反応で体を動かしたシャラは、心臓を狙った私の動きをずらし、私の剣が貫いたのは、右の胸だった。
そんな私の剣を掴むシャラ。
最上級魔法を纏ったままの剣であれば、そのままシャラを滅することもできたかもしれない。
でも、切り札である今の攻撃に全力を費やした私には、魔法剣を維持する膨大な魔力は残されていなかった。
そんな私を見てニヤニヤしながら、口を開くシャラ。
「クククッ。ようやく捕まえた」
私は剣を引き抜こうとするが、シャラに掴まれた剣はびくともしない。
「お前が何か狙っているのは分かった。というか、そうなるよう俺が誘導した」
私はシャラの言葉が終わるのを待たず、剣をそのままに後ろへ跳んだ。
剣を失った私の戦闘力は半減以下だ。
でも、それ以上にシャラの側にあのまま居続ける方が危険だと私は判断した。
隙を作ったように見せて、敵を操っていたのは相手の方だった。
悔しい思いが湧き上がるが、今はそれを口に出す時ではない。
シャラは右胸から剣を生やしたまま言葉を続ける。
「逃げるなよ。俺にこんな傷を負わせたニンゲンは初めてだ。そんなニンゲンを犯しながら食べる。これほど楽しみなことはない」
シャラはそう言うと、その長い舌で舌なめずりする。
次の瞬間、シャラは私の目の前にいた。
「ち、近寄るな!」
魔法の名前すら唱えずに私が放った『窮奇』を、防御すらせずに受けるシャラ。
シャラは右胸の剣を引き抜くと、すぐにその傷を魔力で塞ぎ、スッと視界から消えて、突然私の背後に現れた。
全く反応できない私の首にお父様の剣を当て、シャラは私の頬を舐める。
「いいな、いいな、いいなっ!」
シャラは私の耳元で歓喜の声を上げる。
「自信を持とうとして。覚悟を決めたつもりになって。俺に挑んでくるニンゲンの。その勘違いを踏み躙り、絶望させ、怯えたやつを生きたまま食うのほど美味いものはない!」
シャラは涎を垂らしながら私の服に指をかける。
「安心しろ。これからお前は、親の仇に陵辱され、憎む相手に快楽を叩き込まれる屈辱を味わった後、お前の母親同様、俺の血肉となるんだ。よかったな、母親と再会できて。陵辱された悔しさは俺の腹の中で母親に癒してもらうといい」
そう言ってクハハハッと笑うシャラ。
私はいつもそうだ。
どれだけ誓っても。
どれだけ頑張っても。
結局、何もできない。
何も成すことができない。
そして、絶望のまま死ぬ。
愚かで役立たずの私には、お似合いの末路かもしれない。
そう思って全てを諦めかけようとした時だった。
私の後ろから笑い声が聞こえてきた。
「あはははっ」
心の底からおかしいものを見たかのような大きな笑い声。
その声の主の方を、シャラは不愉快そうな目で見る。
「おい。俺は今から楽しい時間を過ごすんだ。水を差すっていうなら、お前から先に味わってやってもいいんだぜ?」
そんなシャラを見て、私の後ろにいた声の主、リン先生が再度笑う。
「ふふふっ。ごめんなさい。勝つつもりでいる貴方があまりにおかしかったので」
私はリン先生の言葉が理解できなかった。
勝つつもりも何も、相手の勝ちはほぼ見えていた。
私は全力を出しても届かず、リン先生は生き返ったばかりで戦えない。
敵であるシャラも私と同じ認識だ。
「死ぬのが怖くて狂っちまったのか? お前たちには、俺に食われる以外の未来はねえんだよ」
シャラの言葉に笑いを抑えながらリン先生が言葉を返す。
「残念ながらそんな未来は訪れません。貴方が剣を突きつけている相手を誰だと思ってるんですか? 最強の人間アレス様の娘で、私の初めての教え子です。女子供しか襲えない卑怯な魔族に負けるわけがないです」
リン先生の言葉に、私は己を恥じた。
リン先生は、こんな私でも信じてくれている。
弱くて、愚かで、今にも挫けそうな私を信じてくれている。
リン先生の言葉に反応しているのは私だけではない。
シャラもまた、リン先生の言葉に注意を奪われ、私から視線を外していた。
明確な隙。
魔力が底を尽きかけ、心が折れ、私のことなど、もはや敵ではないと判断したからこその行為。
それは隙ですらないのかもしれない。
ただ、今この時だけは違う。
シャラがリン先生の言葉を聞き、視線を私に戻した瞬間、私は笑みを浮かべた。
自信たっぷりに。
余裕を感じさせるように。
そして私は、残り少ない魔力を振り絞り、私が出せる最大限の魔力をもって、シャラを威嚇する。
リン先生の余裕と言葉。
そして、私の余裕と魔力。
その二つをもって、シャラは私を危険だと判断した。
剣を首から離し、後ろへ跳んで退避する。
それを見たリン先生は私へ指示を出す。
「レナさん、あれを!」
『あれ』と言われても、もちろん私に心当たりはない。
それでも私は、右手をシャラへ向け、枯渇寸前の魔力を練る。
シャラは私へ警戒を向け、いつでも回避や防御行動ができるよう、全神経を私へ集中させた。
……そして、それが彼の命取りだった。
私へ集中していた彼は気付くのが一瞬だけ遅れる。
私の後方にいるリン先生の魔力が急激に膨らんだのに。
膨れ上がったリン先生の魔力は元通り……いや。
死ぬ前の万全な状態より遥かに多くの魔力の量を秘めていた。
「ばかな! これ程の魔力を秘めたニンゲンが、あの男以外にいるなど……」
その言葉を聞くよりも早く、リン先生は右手をシャラへ向けて魔法を放とうとする。
私がこれまでに見た人間の、どんな魔法よりも強力な魔法の気配がした。
四魔貴族スサを前にした時の威圧感。
それに準ずる圧力を秘めた魔力。
そんな魔力がリン先生の周囲に渦巻く。
そんなリン先生へ注意を移そうとするシャラへ、私は残りの魔力を全て込めて魔法を放つ。
『劫火(ごうか)!』
エディほどのセンスも知識もない私には、この魔法は全く使いこなせていない。
本来の威力とは程遠い、程度の低い魔法だ。
でも、言葉の魔法にかかったシャラはそれに気付けない。
リン先生に警戒を向けつつ、私の魔法に対しても対処する。
対処してしまう。
その結果、リン先生への対処が中途半端になった。
リン先生の後ろに伸びるのは光のレール。
そしてそこに注ぎ込まれるのは、私のお父様にも匹敵しそうなほど膨大な魔力。
「終わりです」
リン先生はそう言って静かに魔法の名を告げる。
『雷公』
先ほど私を救ってくれた魔法と同じ名前の。
先ほどとは桁違いの魔力が込められた光弾がシャラを襲った。
ただ、そのまま振り下ろした雷の剣は、捉えたかに思ったシャラの胴体に触れることはできずに空を切る。
腕が切られている隙に、後ろへ跳んで致命傷を回避したシャラ。
その危機回避能力は、敵ながらさすがは将軍クラスの魔族といったところだ。
それでも安全圏に逃れたかというとそうではない。
魔法剣の優れたところは、単発の魔法とは異なり、その威力を剣に留めたまま連撃が可能というところだ。
全力で剣を振り下ろしたことで、追撃に移るには難しい体勢の私。
でも私には、エディから授けられた秘技がある。
『雷光』
魔法で流した電気信号で無理やり筋肉を動かすその魔法。
体への負担は大きいが、その効果は絶大だ。
思ってもみなかった追撃に、シャラは反応し切れない。
魔力量も身体能力も圧倒的に優れているはずのシャラ。
単純な速度では間違いなく私より速いはずのシャラ。
そんなシャラが後手となり、辛うじて魔法障壁で防御するが、完全には防ぎ切れず、私の剣が浅く胸を抉る。
それでも私は止まらない。
最上級魔法を剣に留めておくには、膨大な魔力を必要とする。
魔力量が大幅に増えたとはいえ、長時間今の状態を維持するには、魔力量が足りない。
短期決戦での勝負が必要だ。
シャラはまだ私の攻撃に対処し切れていない。
今のうちに押し切る。
魔法障壁の隙間を縫い、私は斬撃を繰り出す。
再生する暇も、反撃する隙も与えない。
ーードンッーー
斬撃が魔法障壁を打つ。
ーーバキッーー
魔法障壁が間に合わず、体に大量の魔力を流すことで、シャラが生身で受けた時の骨を砕く鈍い音が響く。
こちらが圧倒的に優勢。
でも、焦り始めているのはこちらの方だった。
何度か魔法障壁の間を縫い、ダメージは与えている。
肌を切り裂き、骨も砕いている。
ただ、それだけだった。
いずれも致命傷には至っていない。
上位の魔族は、隙を与えてしまうと、たとえ砕けた骨でも回復できることを知っている。
今のうちに致命傷を与えなければないのに、軽傷しか負わせられていない。
そして、シャラは徐々にこちらの攻撃に対処できるようになってきている。
単純なスピードは相手が上。
『雷光』による人体の制限を無視した動きにより、惑わすことのできていた攻撃が、徐々に読まれ出している。
この魔力が尽きた時が、私の最後だ。
迸る雷光が消えないうちに決着をつけなければならない。
そんな私の思考を読んだかのように、シャラが笑みを浮かべる。
「もうおしまいか?」
思わずさらに焦ってしまいそうになる気持ちを、私は落ち着かせた。
焦ったところで何も変わらない。
私にできることは限られており、その限られたことを確実に行うのみだ。
私はすでにかなりの量の魔力を消費していた。
このまま戦い続けても、近いうちに破綻するのは目に見えている。
勝負をかけるのは今しかない。
私は変わらず連撃を続け、残された最後の切り札を切るタイミングを見極める。
でも、相手は私より遥かに長い年月を生き、数え切れないほどの戦闘を繰り返してきたであろう魔族。
目に見えた隙はいつまで経っても現れない。
そこで私は敢えて隙を作るべく、こちらの攻撃に継ぎ目を作る。
そしてそれはある意味功を奏す。
一つ目の継ぎ目を見逃さず、シャラがその鋭い爪に魔力を込めて、私の脇腹を切り裂かんと右腕を振る。
自ら作った隙にもかかわらず、あまりに鋭い攻撃に驚きながら、それでも私はその魔法の名を唱える。
『雷光』
エディ直伝の魔法で再現する動きは、本家には劣るものの自身としては最速の技。
『閃光』
剣に宿る魔力のほとんどを剣先へ集中し、魔力の爆発による推進力で、敵を貫くべく私はその技の名を口にした。
正真正銘、私の最後の切り札。
その剣は、シャラの魔法障壁を貫き、そしてシャラの体をも貫通した。
ただ、あり得ないほどの反応で体を動かしたシャラは、心臓を狙った私の動きをずらし、私の剣が貫いたのは、右の胸だった。
そんな私の剣を掴むシャラ。
最上級魔法を纏ったままの剣であれば、そのままシャラを滅することもできたかもしれない。
でも、切り札である今の攻撃に全力を費やした私には、魔法剣を維持する膨大な魔力は残されていなかった。
そんな私を見てニヤニヤしながら、口を開くシャラ。
「クククッ。ようやく捕まえた」
私は剣を引き抜こうとするが、シャラに掴まれた剣はびくともしない。
「お前が何か狙っているのは分かった。というか、そうなるよう俺が誘導した」
私はシャラの言葉が終わるのを待たず、剣をそのままに後ろへ跳んだ。
剣を失った私の戦闘力は半減以下だ。
でも、それ以上にシャラの側にあのまま居続ける方が危険だと私は判断した。
隙を作ったように見せて、敵を操っていたのは相手の方だった。
悔しい思いが湧き上がるが、今はそれを口に出す時ではない。
シャラは右胸から剣を生やしたまま言葉を続ける。
「逃げるなよ。俺にこんな傷を負わせたニンゲンは初めてだ。そんなニンゲンを犯しながら食べる。これほど楽しみなことはない」
シャラはそう言うと、その長い舌で舌なめずりする。
次の瞬間、シャラは私の目の前にいた。
「ち、近寄るな!」
魔法の名前すら唱えずに私が放った『窮奇』を、防御すらせずに受けるシャラ。
シャラは右胸の剣を引き抜くと、すぐにその傷を魔力で塞ぎ、スッと視界から消えて、突然私の背後に現れた。
全く反応できない私の首にお父様の剣を当て、シャラは私の頬を舐める。
「いいな、いいな、いいなっ!」
シャラは私の耳元で歓喜の声を上げる。
「自信を持とうとして。覚悟を決めたつもりになって。俺に挑んでくるニンゲンの。その勘違いを踏み躙り、絶望させ、怯えたやつを生きたまま食うのほど美味いものはない!」
シャラは涎を垂らしながら私の服に指をかける。
「安心しろ。これからお前は、親の仇に陵辱され、憎む相手に快楽を叩き込まれる屈辱を味わった後、お前の母親同様、俺の血肉となるんだ。よかったな、母親と再会できて。陵辱された悔しさは俺の腹の中で母親に癒してもらうといい」
そう言ってクハハハッと笑うシャラ。
私はいつもそうだ。
どれだけ誓っても。
どれだけ頑張っても。
結局、何もできない。
何も成すことができない。
そして、絶望のまま死ぬ。
愚かで役立たずの私には、お似合いの末路かもしれない。
そう思って全てを諦めかけようとした時だった。
私の後ろから笑い声が聞こえてきた。
「あはははっ」
心の底からおかしいものを見たかのような大きな笑い声。
その声の主の方を、シャラは不愉快そうな目で見る。
「おい。俺は今から楽しい時間を過ごすんだ。水を差すっていうなら、お前から先に味わってやってもいいんだぜ?」
そんなシャラを見て、私の後ろにいた声の主、リン先生が再度笑う。
「ふふふっ。ごめんなさい。勝つつもりでいる貴方があまりにおかしかったので」
私はリン先生の言葉が理解できなかった。
勝つつもりも何も、相手の勝ちはほぼ見えていた。
私は全力を出しても届かず、リン先生は生き返ったばかりで戦えない。
敵であるシャラも私と同じ認識だ。
「死ぬのが怖くて狂っちまったのか? お前たちには、俺に食われる以外の未来はねえんだよ」
シャラの言葉に笑いを抑えながらリン先生が言葉を返す。
「残念ながらそんな未来は訪れません。貴方が剣を突きつけている相手を誰だと思ってるんですか? 最強の人間アレス様の娘で、私の初めての教え子です。女子供しか襲えない卑怯な魔族に負けるわけがないです」
リン先生の言葉に、私は己を恥じた。
リン先生は、こんな私でも信じてくれている。
弱くて、愚かで、今にも挫けそうな私を信じてくれている。
リン先生の言葉に反応しているのは私だけではない。
シャラもまた、リン先生の言葉に注意を奪われ、私から視線を外していた。
明確な隙。
魔力が底を尽きかけ、心が折れ、私のことなど、もはや敵ではないと判断したからこその行為。
それは隙ですらないのかもしれない。
ただ、今この時だけは違う。
シャラがリン先生の言葉を聞き、視線を私に戻した瞬間、私は笑みを浮かべた。
自信たっぷりに。
余裕を感じさせるように。
そして私は、残り少ない魔力を振り絞り、私が出せる最大限の魔力をもって、シャラを威嚇する。
リン先生の余裕と言葉。
そして、私の余裕と魔力。
その二つをもって、シャラは私を危険だと判断した。
剣を首から離し、後ろへ跳んで退避する。
それを見たリン先生は私へ指示を出す。
「レナさん、あれを!」
『あれ』と言われても、もちろん私に心当たりはない。
それでも私は、右手をシャラへ向け、枯渇寸前の魔力を練る。
シャラは私へ警戒を向け、いつでも回避や防御行動ができるよう、全神経を私へ集中させた。
……そして、それが彼の命取りだった。
私へ集中していた彼は気付くのが一瞬だけ遅れる。
私の後方にいるリン先生の魔力が急激に膨らんだのに。
膨れ上がったリン先生の魔力は元通り……いや。
死ぬ前の万全な状態より遥かに多くの魔力の量を秘めていた。
「ばかな! これ程の魔力を秘めたニンゲンが、あの男以外にいるなど……」
その言葉を聞くよりも早く、リン先生は右手をシャラへ向けて魔法を放とうとする。
私がこれまでに見た人間の、どんな魔法よりも強力な魔法の気配がした。
四魔貴族スサを前にした時の威圧感。
それに準ずる圧力を秘めた魔力。
そんな魔力がリン先生の周囲に渦巻く。
そんなリン先生へ注意を移そうとするシャラへ、私は残りの魔力を全て込めて魔法を放つ。
『劫火(ごうか)!』
エディほどのセンスも知識もない私には、この魔法は全く使いこなせていない。
本来の威力とは程遠い、程度の低い魔法だ。
でも、言葉の魔法にかかったシャラはそれに気付けない。
リン先生に警戒を向けつつ、私の魔法に対しても対処する。
対処してしまう。
その結果、リン先生への対処が中途半端になった。
リン先生の後ろに伸びるのは光のレール。
そしてそこに注ぎ込まれるのは、私のお父様にも匹敵しそうなほど膨大な魔力。
「終わりです」
リン先生はそう言って静かに魔法の名を告げる。
『雷公』
先ほど私を救ってくれた魔法と同じ名前の。
先ほどとは桁違いの魔力が込められた光弾がシャラを襲った。
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