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第五章 周辺国家編
太陽の国の魔族④
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声と共に馬車の中から現れたのは、シャクネちゃんと同じく、すらっとした体型の、若い女性。
少しきつめな印象は受けますが、顔はとても整っていて、魔族の中でも美人の部類に入りそうでした。
この女性が、スサの食事の材料となる人間でしょうか。
だとすると、私が聞いていた人間の姿とは全く異なります。
人間とは、下卑た存在。
顔は崩れていて、スタイルも悪い。
魔力は低いが、小狡賢くて卑怯な存在。
私たち魔族は、人間とはそのような存在だと小さな頃から教わって来ました。
ただ、目の前の女性は違います。
魔力も並の魔族よりは高いですし、何より綺麗です。
下卑た存在どころか、気品すら感じます。
そんな女性の後ろから、もう一人、人間と思しき男性が出て来ました。
こちらは、ゴツゴツとしていて、顔もそんなに整ってはおらず、無精ヒゲが汚らしく見えます。
小狡賢さは感じませんが、こちらの方は、話に聞いていた人間のイメージに近いです。
実は人間はこちらの男性だけで、女性の方は魔族だったりするのでしょうか。
「おいおいローザさん。この二人の嬢ちゃんだって味方と決まったわけじゃないだろ? こいつらから逃げ出したところで、この嬢ちゃんたちに食われるだけじゃないのか?」
無精ヒゲの男性の言葉に、ローザと呼ばれた綺麗な女性は首を横に振ります。
「確かにこの二人の目的も私たちを食べることかもしれないが、そうでないかもしれない。それに、この鍛えられた四人相手より、この二人からの方が逃げ出しやすいではないか」
本人である私たちに対して聞こえるように言うローザさん。
確かにそうかもしれませんが、私たちにそれを聞かれちゃいけないのではないのかな、と私は思ってしまいます。
そんな私に説明するようにシャクネちゃんが囁きます。
「私たちの目的次第では、後で逃げるかもしれないけど、少なくとも今は利害が一致してるはずだから一緒に戦おうというメッセージね。とりあえずは信じてもいいんじゃないかしら」
シャクネちゃんの言葉に、私はなるほど、と納得しました。
「うん。それじゃあ一緒に戦ってもらおう」
私の言葉に頷くシャクネちゃん。
「おい、ニンゲン。私たちはお前たちに危害を加えるつもりはない。あるお方がお前たちに会いたいと仰っているから迎えに来ただけだ。お前たちの実力は知らないが、足手纏いにならないというのなら、共に戦うことを許そう」
いつもより低いトーンの声でそう告げるシャクネちゃん。
確かに嘘は言っていません。
……その後、テラ様に食べられる可能性はゼロではありませんが。
「とりあえずは君たちのことを信じよう。武器さえあれば足手纏いにはならないつもりだが、生憎今は丸腰だ。君たちの腰の物を借りられないだろうか。君たちの所作を見るに、剣士ではなさそうだが」
動きだけで私たちが剣士じゃないのが分かるなんて、人間はすごい能力を持っているのかもしれません。
シャクネちゃんと顔を見合わせた私は、二人で頷くと、使う予定のなかった剣を、人間の方へ放り投げました。
そんな私たちを見た、四人の護衛の男性たちは怒りを露わにします。
「食材と素人が調子に乗りやがって。お前たち。食材は殺さなければ、手足の一、二本は落としても構わない。素人二人は殺しても、生け捕りにして嬲ってもどちらでもいい。スサ軍の恐ろしさを見に染みて分からせてやれ」
「はっ!」
一番大柄な男性の言葉を聞いた残り三人が声を揃えて返事します。
次の瞬間、魔力を爆発させる四人の男性たち。
魔族の魔力量は、軍における職位で表すことが多いです。
四魔貴族は別格として、その下に位置するのが将軍レベル。
その下から順に、師団長、旅団長、連隊長、大隊長、中隊長、小隊長、分隊長、班長、組長となっていきます。
シャクネちゃんと私は、軍の人たちにバレないように普段は抑えてますが、魔力量としては大隊長レベル。
リッカ様たち幹部が将軍から師団長レベルで、今目の前にいる四人の男性は、一番大柄な方が連隊長レベル、他の皆さんは大隊長から中隊長レベルといったところでしょうか。
人間の二人も、綺麗な女性……いえ、メスの方が中隊長レベルで、オスの方も小隊長レベルはありそうです。
魔力量だけ見れば、こちらが圧倒的に不利。
でも、私たちにはシャクネちゃんがいます。
シャクネちゃんがいれば、きっと大丈夫。
そんな私の視線を感じたのか、シャクネちゃんが私に向かって笑いかけます。
「フワちゃんも私も、魔王様に認められてるんだよ。こんな敵さっさとやっつけちゃおう」
私は、笑い返して返事するほどの余裕はありませんでしたが、一応頷きます。
「まずは小手調べ」
シャクネちゃんはそう言うと、右手を前に出します。
その綺麗な真紅の瞳が、一際輝いたかと思うと、シャクネちゃんは呟きます。
『灼熱』
シャクネちゃんの言葉に反応するように、ごうっと、燃え盛る炎が広がりました。
私たち魔族は、人間のように魔法を使うために呪文を唱える必要はありません。
ただ、魔法の現象に名前を付けることで、より効果が増すことが、最近の研究で分かっています。
東の言葉で、焼けつくように熱いことを意味するらしい灼熱。
その名の通り、鉄をも溶かす炎が、四人の男性を襲います。
でも、格上の一番大柄な男性はもちろん、他の三人も、魔法障壁を張ることでその魔法を防ぎました。
シャクネちゃんも私も、流石にその一撃で相手を倒せるとは思っていません。
最初の一撃は挨拶がわり。
この一撃で怯んでくれれば嬉しいのですが、流石にそれほど楽な相手ではないようです。
表情一つ変えずに、四人全員は余裕で耐えています。
シャクネちゃんも私も、実戦経験は乏しいですが、戦うこと自体が初めてと言うわけではありません。
魔族として生きていれば、どうしても戦わざるを得ないことがありますし、言葉や歴史を教わるのと同様に、戦い方も学びます。
遊びも戦いに関連することが多いです。
シャクネちゃんも私も、戦いうことは好きじゃありません。
……でも、私はともかくシャクネちゃんは戦うことが苦手でもありません。
シャクネちゃんと一緒に戦う時、相手が同レベルか格上の時の戦い方は決めてあります。
シャクネちゃんの先制攻撃の後は、灼熱の炎が消えない内に私の攻撃です。
私は全身に魔力を纏い、相手に気付かれない範囲で、魔法を使います。
私の攻撃は単純。
正面から行って殴るのみ。
私はぴょんっと跳んで、四人の男性の正面に向かいます。
狙いは、シャクネちゃんの炎で弱った魔法障壁。
四人の魔法障壁は全て健在でしたが、そのうちの一人で一番小柄な魔族の魔法障壁には、小さなひび割れが見えました。
私はそこへ、魔力を込めた拳を撃ち込みました。
ーーパリンッーー
小さな音を残して砕ける魔法障壁。
慌てて再度魔法障壁を張ろうとする一番小柄な魔族へ、シャクネちゃんが追撃を加えるというのが、いつもの攻撃パターンでした。
でも……
『閃光』
後ろの方から小さく呟く声が聞こえたかと思うと、眩い光を残して、ローザさんが姿を消しました。
いえ、正確には、私たち魔族が目に魔力を凝らしてようやく捉えられるくらいの高速で、跳躍しました。
音さえ残さず私の横を通り抜けたローザさんは、突き出した剣先に魔力を込め、一番小柄な魔族の喉元へその剣を突き立てます。
ーーブシュッーー
魔法障壁を張るのが間に合わなかった一番小柄な魔族は、首から血を撒き散らしました。
目の前で消えていく命。
頬に降りかかる生暖かい血が、さらにそのことを実感させます。
初めて間近で見る人の死に、私は動きが止まりました。
相手は鍛えられた兵士です。
味方の死にも怯まず、そんな隙を見逃すわけもなく、二人が同時に、私へ斬りかかってきました。
視界でその動きは捉えていましたが、体が固まった私は、身動きを取ることができません。
あ。
私、死んじゃう。
死ぬ間際に見るという走馬灯。
今、まさに死を迎えようとしている私も、様々な記憶が、物凄い勢いで蘇ってきます。
蘇ってくる記憶のうち、その殆どが家族とシャクネちゃんに関するものでした。
家族との思い出は幸せなものばかり。
できの悪い娘である私を心の底から愛し、大事にしてくれる家族。
改めて思い返すと、涙が出て来そうになります。
シャクネちゃんとの記憶も楽しいものばかり。
物心ついた頃からずっと一緒にいてくれているシャクネちゃん。
そう言えば、シャクネちゃんと私が仲良くなったきっかけって何だったっけ。
イノシシの魔物に襲われた時、シャクネちゃんが炎の魔法で丸焼きにしてくれて、二人で少し硬めのチャーシューを満腹まで食べたのは、出会ってからそれなりの時間が経ってからだった気がします。
近所のいじめっ子たちに私がいじめられていた時、怒ったシャクネちゃんが、いじめっ子たちの髪の毛をチリチリに焼いて、全員パンチパーマにしたのも、確か出会ってしばらく経ってから。
シャクネちゃんとの思い出にキリはありませんが、改めて思い出そうとすると、出会いのきっかけがなかなか思い出せません。
出会いのきっかけなんてそんなものでしょうか。
そんな時、ふわっと香って来た鉄のような血の匂い。
どこかで嗅いだことのある懐かしい匂い。
どこで嗅いだんでしょう?
その匂いで何か思い出せそうでしたが、思い出す時間はなさそうです。
相手の剣がスローモーションのようにどんどん近づいて来ます。
きっかけが何にしろ、今側にいて、何より大事な存在だというのが、大切です。
シャクネちゃんが、私にとって何よりも大事なのは、どんな出会いがきっかけだろうと間違いありません。
ーー最後まで役に立てなくてごめんね
心の中でシャクネちゃんにお詫びを言いながら、死を覚悟した私は目を閉じました。
少しきつめな印象は受けますが、顔はとても整っていて、魔族の中でも美人の部類に入りそうでした。
この女性が、スサの食事の材料となる人間でしょうか。
だとすると、私が聞いていた人間の姿とは全く異なります。
人間とは、下卑た存在。
顔は崩れていて、スタイルも悪い。
魔力は低いが、小狡賢くて卑怯な存在。
私たち魔族は、人間とはそのような存在だと小さな頃から教わって来ました。
ただ、目の前の女性は違います。
魔力も並の魔族よりは高いですし、何より綺麗です。
下卑た存在どころか、気品すら感じます。
そんな女性の後ろから、もう一人、人間と思しき男性が出て来ました。
こちらは、ゴツゴツとしていて、顔もそんなに整ってはおらず、無精ヒゲが汚らしく見えます。
小狡賢さは感じませんが、こちらの方は、話に聞いていた人間のイメージに近いです。
実は人間はこちらの男性だけで、女性の方は魔族だったりするのでしょうか。
「おいおいローザさん。この二人の嬢ちゃんだって味方と決まったわけじゃないだろ? こいつらから逃げ出したところで、この嬢ちゃんたちに食われるだけじゃないのか?」
無精ヒゲの男性の言葉に、ローザと呼ばれた綺麗な女性は首を横に振ります。
「確かにこの二人の目的も私たちを食べることかもしれないが、そうでないかもしれない。それに、この鍛えられた四人相手より、この二人からの方が逃げ出しやすいではないか」
本人である私たちに対して聞こえるように言うローザさん。
確かにそうかもしれませんが、私たちにそれを聞かれちゃいけないのではないのかな、と私は思ってしまいます。
そんな私に説明するようにシャクネちゃんが囁きます。
「私たちの目的次第では、後で逃げるかもしれないけど、少なくとも今は利害が一致してるはずだから一緒に戦おうというメッセージね。とりあえずは信じてもいいんじゃないかしら」
シャクネちゃんの言葉に、私はなるほど、と納得しました。
「うん。それじゃあ一緒に戦ってもらおう」
私の言葉に頷くシャクネちゃん。
「おい、ニンゲン。私たちはお前たちに危害を加えるつもりはない。あるお方がお前たちに会いたいと仰っているから迎えに来ただけだ。お前たちの実力は知らないが、足手纏いにならないというのなら、共に戦うことを許そう」
いつもより低いトーンの声でそう告げるシャクネちゃん。
確かに嘘は言っていません。
……その後、テラ様に食べられる可能性はゼロではありませんが。
「とりあえずは君たちのことを信じよう。武器さえあれば足手纏いにはならないつもりだが、生憎今は丸腰だ。君たちの腰の物を借りられないだろうか。君たちの所作を見るに、剣士ではなさそうだが」
動きだけで私たちが剣士じゃないのが分かるなんて、人間はすごい能力を持っているのかもしれません。
シャクネちゃんと顔を見合わせた私は、二人で頷くと、使う予定のなかった剣を、人間の方へ放り投げました。
そんな私たちを見た、四人の護衛の男性たちは怒りを露わにします。
「食材と素人が調子に乗りやがって。お前たち。食材は殺さなければ、手足の一、二本は落としても構わない。素人二人は殺しても、生け捕りにして嬲ってもどちらでもいい。スサ軍の恐ろしさを見に染みて分からせてやれ」
「はっ!」
一番大柄な男性の言葉を聞いた残り三人が声を揃えて返事します。
次の瞬間、魔力を爆発させる四人の男性たち。
魔族の魔力量は、軍における職位で表すことが多いです。
四魔貴族は別格として、その下に位置するのが将軍レベル。
その下から順に、師団長、旅団長、連隊長、大隊長、中隊長、小隊長、分隊長、班長、組長となっていきます。
シャクネちゃんと私は、軍の人たちにバレないように普段は抑えてますが、魔力量としては大隊長レベル。
リッカ様たち幹部が将軍から師団長レベルで、今目の前にいる四人の男性は、一番大柄な方が連隊長レベル、他の皆さんは大隊長から中隊長レベルといったところでしょうか。
人間の二人も、綺麗な女性……いえ、メスの方が中隊長レベルで、オスの方も小隊長レベルはありそうです。
魔力量だけ見れば、こちらが圧倒的に不利。
でも、私たちにはシャクネちゃんがいます。
シャクネちゃんがいれば、きっと大丈夫。
そんな私の視線を感じたのか、シャクネちゃんが私に向かって笑いかけます。
「フワちゃんも私も、魔王様に認められてるんだよ。こんな敵さっさとやっつけちゃおう」
私は、笑い返して返事するほどの余裕はありませんでしたが、一応頷きます。
「まずは小手調べ」
シャクネちゃんはそう言うと、右手を前に出します。
その綺麗な真紅の瞳が、一際輝いたかと思うと、シャクネちゃんは呟きます。
『灼熱』
シャクネちゃんの言葉に反応するように、ごうっと、燃え盛る炎が広がりました。
私たち魔族は、人間のように魔法を使うために呪文を唱える必要はありません。
ただ、魔法の現象に名前を付けることで、より効果が増すことが、最近の研究で分かっています。
東の言葉で、焼けつくように熱いことを意味するらしい灼熱。
その名の通り、鉄をも溶かす炎が、四人の男性を襲います。
でも、格上の一番大柄な男性はもちろん、他の三人も、魔法障壁を張ることでその魔法を防ぎました。
シャクネちゃんも私も、流石にその一撃で相手を倒せるとは思っていません。
最初の一撃は挨拶がわり。
この一撃で怯んでくれれば嬉しいのですが、流石にそれほど楽な相手ではないようです。
表情一つ変えずに、四人全員は余裕で耐えています。
シャクネちゃんも私も、実戦経験は乏しいですが、戦うこと自体が初めてと言うわけではありません。
魔族として生きていれば、どうしても戦わざるを得ないことがありますし、言葉や歴史を教わるのと同様に、戦い方も学びます。
遊びも戦いに関連することが多いです。
シャクネちゃんも私も、戦いうことは好きじゃありません。
……でも、私はともかくシャクネちゃんは戦うことが苦手でもありません。
シャクネちゃんと一緒に戦う時、相手が同レベルか格上の時の戦い方は決めてあります。
シャクネちゃんの先制攻撃の後は、灼熱の炎が消えない内に私の攻撃です。
私は全身に魔力を纏い、相手に気付かれない範囲で、魔法を使います。
私の攻撃は単純。
正面から行って殴るのみ。
私はぴょんっと跳んで、四人の男性の正面に向かいます。
狙いは、シャクネちゃんの炎で弱った魔法障壁。
四人の魔法障壁は全て健在でしたが、そのうちの一人で一番小柄な魔族の魔法障壁には、小さなひび割れが見えました。
私はそこへ、魔力を込めた拳を撃ち込みました。
ーーパリンッーー
小さな音を残して砕ける魔法障壁。
慌てて再度魔法障壁を張ろうとする一番小柄な魔族へ、シャクネちゃんが追撃を加えるというのが、いつもの攻撃パターンでした。
でも……
『閃光』
後ろの方から小さく呟く声が聞こえたかと思うと、眩い光を残して、ローザさんが姿を消しました。
いえ、正確には、私たち魔族が目に魔力を凝らしてようやく捉えられるくらいの高速で、跳躍しました。
音さえ残さず私の横を通り抜けたローザさんは、突き出した剣先に魔力を込め、一番小柄な魔族の喉元へその剣を突き立てます。
ーーブシュッーー
魔法障壁を張るのが間に合わなかった一番小柄な魔族は、首から血を撒き散らしました。
目の前で消えていく命。
頬に降りかかる生暖かい血が、さらにそのことを実感させます。
初めて間近で見る人の死に、私は動きが止まりました。
相手は鍛えられた兵士です。
味方の死にも怯まず、そんな隙を見逃すわけもなく、二人が同時に、私へ斬りかかってきました。
視界でその動きは捉えていましたが、体が固まった私は、身動きを取ることができません。
あ。
私、死んじゃう。
死ぬ間際に見るという走馬灯。
今、まさに死を迎えようとしている私も、様々な記憶が、物凄い勢いで蘇ってきます。
蘇ってくる記憶のうち、その殆どが家族とシャクネちゃんに関するものでした。
家族との思い出は幸せなものばかり。
できの悪い娘である私を心の底から愛し、大事にしてくれる家族。
改めて思い返すと、涙が出て来そうになります。
シャクネちゃんとの記憶も楽しいものばかり。
物心ついた頃からずっと一緒にいてくれているシャクネちゃん。
そう言えば、シャクネちゃんと私が仲良くなったきっかけって何だったっけ。
イノシシの魔物に襲われた時、シャクネちゃんが炎の魔法で丸焼きにしてくれて、二人で少し硬めのチャーシューを満腹まで食べたのは、出会ってからそれなりの時間が経ってからだった気がします。
近所のいじめっ子たちに私がいじめられていた時、怒ったシャクネちゃんが、いじめっ子たちの髪の毛をチリチリに焼いて、全員パンチパーマにしたのも、確か出会ってしばらく経ってから。
シャクネちゃんとの思い出にキリはありませんが、改めて思い出そうとすると、出会いのきっかけがなかなか思い出せません。
出会いのきっかけなんてそんなものでしょうか。
そんな時、ふわっと香って来た鉄のような血の匂い。
どこかで嗅いだことのある懐かしい匂い。
どこで嗅いだんでしょう?
その匂いで何か思い出せそうでしたが、思い出す時間はなさそうです。
相手の剣がスローモーションのようにどんどん近づいて来ます。
きっかけが何にしろ、今側にいて、何より大事な存在だというのが、大切です。
シャクネちゃんが、私にとって何よりも大事なのは、どんな出会いがきっかけだろうと間違いありません。
ーー最後まで役に立てなくてごめんね
心の中でシャクネちゃんにお詫びを言いながら、死を覚悟した私は目を閉じました。
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