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第四章 奪還編
小賢者④
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翌日から、私はレナだけではなく、エディさんにも魔法を教えることになった。
契約ではレナのみが指導の対象だが、アレスから、もし可能であればエディにも一緒に教えてくれないか、という相談を受けた私は、もちろん喜んでその話を受けた。
なんなら、こちらからお金を払ってでもお願いしたいくらいだ。
エディさんには、二人きりのマンツーマンで、手とり足とり教えたいところだが、さすがに本来の指導対象であるレナをおろそかにするわけにはいかない。
多少邪魔に思えるが、そこは仕方がない。
でも、レナ以上に邪魔な奴がいる。
「部外者がいると気が散ってしまうので、ご退席願えませんか?」
赤い瞳の美しい魔族、カレンに対して私はそう命じる。
「俺がいるくらいで乱れるような、やわな集中力しか持ち合わせてない奴は、どの道大して成長しない。そして、俺のエディは、俺が側にいるくらいで集中力が乱れたりはしない」
『俺の』という言葉にカチンときたが、カレンの言うことはもっともでもある。
「教えてもらう身で申し訳ありませんが、戦闘慣れしているカレンにも、気付いた点を指摘して欲しいので、可能であれば同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
エディさん本人からもお願いされてしまうと、私としては断ることなどできるはずがない。
私の方を、勝ち誇ったような眼で見るカレン。
腹わたが煮えくりかえるが、表には出さないよう笑顔で返す。
「それでしたら結構です。レナ様もよろしいですか?」
最後の頼みの綱として、レナに話を振る。
魔族嫌いで有名なレナなら、もしかすると断ってくれるかもしれない。
「……構わないわ」
意外とすんなり受け入れるレナ。
そう言えば、魔族であるカレンへの接し方について、アレスからきつく言われたという話だった。
さすがに今は遠慮しているのだろう。
魔族への嫌悪感は、『観察者』の能力を使わずとも伝わってくるから、今は無理でも、そのうち役立ってくれるかもしれない。
レナが拒まない以上、これ以上の議論は難しい。
この場は仕方なく受け入れることにする。
「それでは邪魔しないよう、静かに見ていてください」
「分かった」
私の指示に、笑顔で答えるカレンだったが、その笑顔の裏には、優越感が漂っていた。
私は怒りを抑えつつ、エディさんの方を向く。
「エディさんは魔法を使ったことがないということなので、基礎から教えます。レナ様も、これから上級魔法を習得していくに当たり、ちょうど基礎のおさらいをしようとしていたところですので、一緒にやりましょう」
エディさんへの指導は、驚くほど順調だった。
普通なら一年は必要な内容を、わずか数日でマスターしてしまう。
元の世界での、物理・化学・地学の知識がベースにあるのも、間違いなくその要因の一つだろう。
でも、それ以上に、本人の理解力の速さと、影での努力が大きいに違いない。
一度教えたことが、次の日には完璧にできるようになっている。
私の授業の後は、刀神ダインとの修行もあるから、日中は時間がない。
夜中に相当復習しているはずだ。
私は例えエディさん相手でも、自分の授業に手を抜かない。
魔力量を増やすための精神修行も行う。
魔力消費は大きいし、精神負担も相当なものなはずだ。
さらにその後の、刀神ダインの修行は、はっきり言って常軌を逸しているレベルだ。
私も治療役で参加しているが、手伝いに過ぎないそんな私ですら、修行中気が抜けず、かなりの消耗を強いられている。
そんな一日を過ごした後、夜中にさらに自分を磨くなんてこと、普通の人間にはできない。
己を追い詰めることに関しては、誰にも負けないつもりだったが、エディさんの前では、そんな自信が霞んでしまう。
その努力には、頭が上がらない。
ますますエディさんのことが好きになってしまう。
「ここは、こう考えるんですよ」
風の中級魔法の式に対する考え方を教える際、あまりにもエディさんが愛し過ぎて、つい我慢しきれなくなった私。
エディさんの手を握り、私が自分の魔力でエディさんの式に干渉することで、魔力の流し方を変える。
心臓はバクバク動いていたが、年上の余裕があるそぶりを貫いた。
エディさんも顔を赤らめているのが分かる。
この程度のことで顔を赤らめるということは、カレンとの間の関係もさほど進んではいないに違いない。
そして、私に対しても、全く興味がないというわけではないだろう。
そんな私を、カレンは赤い瞳を紅蓮に染めて睨みつけている。
ただ、エディさんと再会してからしばらく時間が経ったが、エディさんを賭けたカレンとの勝負は、私の方が圧倒的に劣勢だ。
私とエディさんとの距離は、相当詰まったとは思う。
間違いなく、エディさんにとって、ただの他人以上の存在にはなれているはずだ。
でも、それ以上にエディさんとカレンの絆の深さを痛感する。
お互いがお互いを信頼しきっているのが分かる。
お互いを大事に思っているのが分かる。
エディさんとカレンが出会ったのは、私とエディさんが再会するわずか数日前だ。
その数日の差で、カレンはエディさんの心を掴んでしまった。
どうしようもないことではあるが、その数日が悔やまれる。
カレンは、悪い奴ではない。
恋愛のライバルだという点を除けば寧ろ、非常にいい奴だと言える。
こちらの世界の教科書や物語に出てくる魔族像とは正反対だ。
カレンの魅力は、外見の美しさだけではない。
他者への思いやりに溢れ、気配りもでき、自尊心の塊かと思いきや、相手を立てたり、可愛いところを見せたりもする。
正直言って、女性として非の打ち所がない。
容姿だけがいい女なら、どうとでもなるが、中身までいいとなると、手の打ちようがない。
今は亡き(?)ミホちゃんといい、カレンといい、エディさんに惹かれる女性はスペックが高すぎる。
異世界に来たことによる補正のおかげで、私も容姿はかなり良くなったと思うが、容姿以外も含めて、今の私では彼女たちには敵わない。
自分の劣っている点を突きつけられ、心が折れそうになる。
それでも、今の私は諦めない。
どれだけ劣勢で不利な状況でも。
例え、相手が別の女性と両想いだとしても。
その女性が非の打ち所がない完璧な女性だとしても。
絶対に諦めない。
私にとってエディさんは最高の男性だ。
私の全てだ。
前の世界では、後悔しかなかった。
この世界では、例え負けたとしても、最後まで戦い抜く。
スペックで負けていても、関係性で負けていても、それでも自分にできることをする。
努力の大切さを。
どんな状況でも頑張る強さを。
私に示してくれたのは、他ならぬエディさんだ。
十年積み重ねた想いの強さは、そう簡単に負けはしない。
私が諦めずに頑張る限り、結果は最後まで分からない。
ライバルといえば、ここのところ、レナもエディさんに気があるようだった。
レナの気持ちは『観察者』の能力でいつでも分かる。
今はまだ本人も気付いていないような段階だが、エディさんに対して特別な感情を抱いているのは間違いない。
ただ、レナには悪いが、世間知らずの箱入り娘のお嬢様に負けるつもりはさらさらない。
容姿の美しさは否定のしようがないが、それ以外で、負けている要素はないつもりだ。
そもそもエディさんからは、相当嫌悪されているようだし、勝負の相手にすらならないだろうが。
魔法の授業で、時折スキンシップを交えながら、エディさんと触れ合う日々。
剣の修行で、緊張感を持ちながら、傷つくエディさんを見守り、救護する日々。
エディさんには気付かれぬよう、水面下でカレンと争う日々。
一ヶ月半ほど、そんな日々が続いた。
愛する人と。
その愛する人を狙って競いあうライバルと。
そんな人たちと過ごす日々。
これまでの人生で、もっとも生きがいを感じる日々。
そんな日々がずっと続くと思っていた。
……あの日、あいつらが現れるまでは。
契約ではレナのみが指導の対象だが、アレスから、もし可能であればエディにも一緒に教えてくれないか、という相談を受けた私は、もちろん喜んでその話を受けた。
なんなら、こちらからお金を払ってでもお願いしたいくらいだ。
エディさんには、二人きりのマンツーマンで、手とり足とり教えたいところだが、さすがに本来の指導対象であるレナをおろそかにするわけにはいかない。
多少邪魔に思えるが、そこは仕方がない。
でも、レナ以上に邪魔な奴がいる。
「部外者がいると気が散ってしまうので、ご退席願えませんか?」
赤い瞳の美しい魔族、カレンに対して私はそう命じる。
「俺がいるくらいで乱れるような、やわな集中力しか持ち合わせてない奴は、どの道大して成長しない。そして、俺のエディは、俺が側にいるくらいで集中力が乱れたりはしない」
『俺の』という言葉にカチンときたが、カレンの言うことはもっともでもある。
「教えてもらう身で申し訳ありませんが、戦闘慣れしているカレンにも、気付いた点を指摘して欲しいので、可能であれば同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
エディさん本人からもお願いされてしまうと、私としては断ることなどできるはずがない。
私の方を、勝ち誇ったような眼で見るカレン。
腹わたが煮えくりかえるが、表には出さないよう笑顔で返す。
「それでしたら結構です。レナ様もよろしいですか?」
最後の頼みの綱として、レナに話を振る。
魔族嫌いで有名なレナなら、もしかすると断ってくれるかもしれない。
「……構わないわ」
意外とすんなり受け入れるレナ。
そう言えば、魔族であるカレンへの接し方について、アレスからきつく言われたという話だった。
さすがに今は遠慮しているのだろう。
魔族への嫌悪感は、『観察者』の能力を使わずとも伝わってくるから、今は無理でも、そのうち役立ってくれるかもしれない。
レナが拒まない以上、これ以上の議論は難しい。
この場は仕方なく受け入れることにする。
「それでは邪魔しないよう、静かに見ていてください」
「分かった」
私の指示に、笑顔で答えるカレンだったが、その笑顔の裏には、優越感が漂っていた。
私は怒りを抑えつつ、エディさんの方を向く。
「エディさんは魔法を使ったことがないということなので、基礎から教えます。レナ様も、これから上級魔法を習得していくに当たり、ちょうど基礎のおさらいをしようとしていたところですので、一緒にやりましょう」
エディさんへの指導は、驚くほど順調だった。
普通なら一年は必要な内容を、わずか数日でマスターしてしまう。
元の世界での、物理・化学・地学の知識がベースにあるのも、間違いなくその要因の一つだろう。
でも、それ以上に、本人の理解力の速さと、影での努力が大きいに違いない。
一度教えたことが、次の日には完璧にできるようになっている。
私の授業の後は、刀神ダインとの修行もあるから、日中は時間がない。
夜中に相当復習しているはずだ。
私は例えエディさん相手でも、自分の授業に手を抜かない。
魔力量を増やすための精神修行も行う。
魔力消費は大きいし、精神負担も相当なものなはずだ。
さらにその後の、刀神ダインの修行は、はっきり言って常軌を逸しているレベルだ。
私も治療役で参加しているが、手伝いに過ぎないそんな私ですら、修行中気が抜けず、かなりの消耗を強いられている。
そんな一日を過ごした後、夜中にさらに自分を磨くなんてこと、普通の人間にはできない。
己を追い詰めることに関しては、誰にも負けないつもりだったが、エディさんの前では、そんな自信が霞んでしまう。
その努力には、頭が上がらない。
ますますエディさんのことが好きになってしまう。
「ここは、こう考えるんですよ」
風の中級魔法の式に対する考え方を教える際、あまりにもエディさんが愛し過ぎて、つい我慢しきれなくなった私。
エディさんの手を握り、私が自分の魔力でエディさんの式に干渉することで、魔力の流し方を変える。
心臓はバクバク動いていたが、年上の余裕があるそぶりを貫いた。
エディさんも顔を赤らめているのが分かる。
この程度のことで顔を赤らめるということは、カレンとの間の関係もさほど進んではいないに違いない。
そして、私に対しても、全く興味がないというわけではないだろう。
そんな私を、カレンは赤い瞳を紅蓮に染めて睨みつけている。
ただ、エディさんと再会してからしばらく時間が経ったが、エディさんを賭けたカレンとの勝負は、私の方が圧倒的に劣勢だ。
私とエディさんとの距離は、相当詰まったとは思う。
間違いなく、エディさんにとって、ただの他人以上の存在にはなれているはずだ。
でも、それ以上にエディさんとカレンの絆の深さを痛感する。
お互いがお互いを信頼しきっているのが分かる。
お互いを大事に思っているのが分かる。
エディさんとカレンが出会ったのは、私とエディさんが再会するわずか数日前だ。
その数日の差で、カレンはエディさんの心を掴んでしまった。
どうしようもないことではあるが、その数日が悔やまれる。
カレンは、悪い奴ではない。
恋愛のライバルだという点を除けば寧ろ、非常にいい奴だと言える。
こちらの世界の教科書や物語に出てくる魔族像とは正反対だ。
カレンの魅力は、外見の美しさだけではない。
他者への思いやりに溢れ、気配りもでき、自尊心の塊かと思いきや、相手を立てたり、可愛いところを見せたりもする。
正直言って、女性として非の打ち所がない。
容姿だけがいい女なら、どうとでもなるが、中身までいいとなると、手の打ちようがない。
今は亡き(?)ミホちゃんといい、カレンといい、エディさんに惹かれる女性はスペックが高すぎる。
異世界に来たことによる補正のおかげで、私も容姿はかなり良くなったと思うが、容姿以外も含めて、今の私では彼女たちには敵わない。
自分の劣っている点を突きつけられ、心が折れそうになる。
それでも、今の私は諦めない。
どれだけ劣勢で不利な状況でも。
例え、相手が別の女性と両想いだとしても。
その女性が非の打ち所がない完璧な女性だとしても。
絶対に諦めない。
私にとってエディさんは最高の男性だ。
私の全てだ。
前の世界では、後悔しかなかった。
この世界では、例え負けたとしても、最後まで戦い抜く。
スペックで負けていても、関係性で負けていても、それでも自分にできることをする。
努力の大切さを。
どんな状況でも頑張る強さを。
私に示してくれたのは、他ならぬエディさんだ。
十年積み重ねた想いの強さは、そう簡単に負けはしない。
私が諦めずに頑張る限り、結果は最後まで分からない。
ライバルといえば、ここのところ、レナもエディさんに気があるようだった。
レナの気持ちは『観察者』の能力でいつでも分かる。
今はまだ本人も気付いていないような段階だが、エディさんに対して特別な感情を抱いているのは間違いない。
ただ、レナには悪いが、世間知らずの箱入り娘のお嬢様に負けるつもりはさらさらない。
容姿の美しさは否定のしようがないが、それ以外で、負けている要素はないつもりだ。
そもそもエディさんからは、相当嫌悪されているようだし、勝負の相手にすらならないだろうが。
魔法の授業で、時折スキンシップを交えながら、エディさんと触れ合う日々。
剣の修行で、緊張感を持ちながら、傷つくエディさんを見守り、救護する日々。
エディさんには気付かれぬよう、水面下でカレンと争う日々。
一ヶ月半ほど、そんな日々が続いた。
愛する人と。
その愛する人を狙って競いあうライバルと。
そんな人たちと過ごす日々。
これまでの人生で、もっとも生きがいを感じる日々。
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