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第4章
47 悩みは尽きない
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「またお前はそういうことを…」
さらっと言ってのけるのはどうかしてるぞとシャドウはディルを一瞥した。
「なんだよ。シャドウだって気になるくせに」
「それとこれとは」
関係ないとは、言い切れない。けれどキアに対しての情報が足りなさすぎる。だが、そう都合よく異世界転移人が現れるわけがない。同じ性別、似た背格好、歳もそう変わらず。ただ、見目は雪とは違う。髪の色も目の色も。
「髪は染められるな」
無関係のロイの呟きにも反応し、シャドウはじろりと睨んだ。
「都合がよすぎる」
浮足立つ心を払拭するように首を横に振った。出会って数日で見つけられるなんて話しがうますぎだ。
「転移者ってことは影付きだろ?でもキアには記憶がない。これってどういうこと?」
ある日突然、異世界に招き寄せられ、記憶を取り上げられ、国の礎として王城に吸収される。
影付きの末路は簡単に言うとこうだ。
「…記憶は奪われたが、なんらかの事情で城への吸収を免れた。と、いうところだろうか」
かつてシャドウとディルは城に仕えていた。事情があってのことだが、王の命令は絶対的に遂行していた。
「…王とはヴァリウスのことか?」
禁句ワードをいくつも聞いてしまい、ロイは顔を項垂れながらキューンと鼻を鳴らした。
「…そうだ」
「ごめんな。ヴァリウスの名前なんか出して。もう聞きたくないよな」
ディルもシャドウも、やや顔を沈めた。
「…いや。まあ、でも、込み入った話のようだからオレは席を外すよ」
ロイは表情を固めたまま淡々と答えた。何かを思い出しているのだろうか。深いため息が漏れた。
ロイが背中を向けて出て行った。閉まる扉を二人は黙って見送った。
「…マズった」
「致し方ない。この話はどこに行ってもついて回る。お前も気が乗らないだろうけど我慢してくれ」
「ぼくから話し始めたんだ。ぼくには気を回さなくていいよ」
獣人である以上乗り越えなければいけない壁は誰にでもあるし、どこにでもある。
「ぼくはもう大丈夫だけど、ロイにはまだ時間が必要なんだよ」
「そうか」
シャドウはディルの頭を二度三度と撫で回した。
「それに、ヴァリウスの代で来てたならオレたちに出会ってたはずだ」
迷い込んだ異世界人を城に案内する役目を二人は担っていた。
「そうだね。ぼくらはキアには会ってないね」
だいたい異世界転移だなんてそうしょっちゅう起きるものではない。雪でさえ千年ぶりの出現だった。
滅多に降らない雪が降り、天候が崩れた。普通はもっと天変地異に近い衝撃が起きるものだが、雪以外のそれがない。規模は小さくとも、ヴァリウスは歓喜した。影付きは国の繁栄をもたらす象徴だ。雪を捕らえようと神殿を巻き込み躍起になった。
「だとしたら、キアは本当にどこから来たんだろう」
キアについては、誰も何も知らない情報がまたひとつ更新された。
「さあ、どうする?」
「キアのことを知る誰かを探すのは、到底な難しさであることが判明した…」
「それを解明するためにシャドウも手伝ってあげなよ!」
シャドウは雪を。キアは誰かを。探し、探される。
「…骨が折れるな」
「目的は違くても、やることは同じなんだから何とかなるんじゃん」
「他人事だな」
「んな訳ないじゃん!キアにとっては初めての門出だよ!暗い顔して送り出すわけにはいかないだろ」
気をきかせず顰めっ面で無口でいたら許さないぞとディルは前足を上げてシャドウの腹に叩きつける。
シャドウは顔を顰めたまま、鳩尾にめり込んだ足を片手で払いのけた。
「ゲホッ!お前わざとだろう!!」
「えっ?ぐーぜんぐーぜん!!」
重めな話から一転、笑い声が聞こえて来た。ドタバタと部屋中を駆け回る足音に、扉の前にいたナユタとナノハはお互いに首を傾げた。
「…この人たちにお任せしても大丈夫かしら?」
「うーん。どうだろうねぇ…」
ナユタとナノハは急に振って湧いた話についていけずに困り果てていた。部屋の中の会話を聞き、互いに不安と安堵が入り混じっていた。
「…離れるのは寂しいけれど、キアの気持ちは尊重したいわ」
ナノハはナユタの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「それは、僕も」
同じだよと手を重ねた。
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