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第4章
36 食事会 2
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「仰々しい」
シャドウは、ため息と共にぽつりと吐き出して席を立った。
そう何度も同じことを繰り返されると、賛辞とはいえ、ありがたみもだんだんと薄れていく。感謝はやがて重圧となり、良かれとしたことも余計なことだったと思うようになる。
「ありがたみもわからんのか」
村人のヤジを背中で受ける。こちらが頼んだわけじゃないと喉元まで出かかったが、下手に揉めることは避けたかったので、無言のままま立ち去ることにした。どうせ酒も入っている。まともにやり合うのは体力を奪われるだけだと諦めも入っていた。
「シャドウさん!さっきも言ったけど森に入ったらダメだからねー!」
大人とはいえ、夜の森は視界をとられる。無闇に行くものではない。ましてキハラのいる森だ。何かが起きたら後々面倒だ。
ナユタは子どもに教えるように声掛けをする。無言を貫いていたシャドウもそれには反応した。
「わかっている!」
子ども扱いされたと、やや怒気を含む声音を上げてしまった。口に出した途端に、強すぎたと、しまったと表情を曇らせる。
「なんだその態度は!!」
「こっちに来い!!」
けしからんとシャドウ以上に怒声を上げたのは先程ヤジを飛ばして来た村人だった。酒に酔っているようで顔が赤らんでいる。足元も覚束ない。弱いくせに大酒飲みで喧嘩っ早く、何度もトラブルを起こしていた。周りの席の人たちがやめなさいよと宥めていた。
その中にはナユタ、ナノハの夫婦の姿もあった。シャドウは謝るタイミングも奪われ立ちすくむ。
「なんなんだ…」
この村に来てから碌なことがない。小さなことが積み重なり、じわじわとシャドウを圧迫していく。
「どうしろと言うんだ…」
辟易する。シャドウは頭を抱えたまま立ち去った。
ヒュウッと夜風が通り過ぎた。シャドウの背中を押すように。酔っ払いの頭を冷やすように。もやっとした空気を取り払うように。
「ふうっ」
ゆるく編んでいたキアの髪をほどくように。
キアは髪を横に来るように結び直した。
シャドウと同じ卓についていたが、既所で子ども達が現れて、いざこざには巻き込まれなかった。
「きー、あっ!」
「こっちこっち!きてきて!あそんでー!!」
双子のマーヤとティーニ。夜なのにテンションが高い。普段は見かけない大人たちが集まっているせいか。普段より豪華な食事が並んでいるせいか。
「夜もあそべるのたのしいね!」
「ね!」
そっちか。食事より遊びだ。このくらいの歳の子には優先順位は遊びが一番だ。
キャハハ、キャハハと笑い声がこだまする。明かりがないと姿が見えない場所で、子どもの笑い声がするのは中々のホラーだ。
「でも楽しそうだからいいか」
見えないと断言するのは早いか。目が慣れてくると人の輪郭がわかる。特に儀式で夜中外に出ているキアは造作もないことだった。
「みつけた」
かくれんぼをしていてもキアはすぐに見つけられた。木の影にいた双子の肩に難なく手を置いた。
「え~もう見つかったの?キア早いよ~」
「ごめんね」
マーヤとティーニは不服そうに口を尖らせる仕草を見せる。そんな姿も可愛らしく見えてしまう。
キアを真ん中にして左にマーヤと右にティーニ。手を繋いで席に戻るとアーシャが泣いていた。置いてけぼりを食らったのだと抗議して来た。
「うぇぇぇん!うエエェーーン!!」
瞳に涙をたっぷりと溜め、口には食べ物が残ったままで手もベタベタだった。
「泣くか食べるかどっちかにしてくれ」
隣にいたアンジェが必死に宥めていた。
「アーシャごめんね。アンジェと一緒だったから声をかけなかったの」
イヤイヤと首を振り、ずるいずるいと泣き叫ぶ。べそをかく仕草は眠気のサインだ。苛立ちも隠せずにいた。
「こりゃ眠いんだよな。昼間たくさん遊んでたし、しかも食事の時間も場所も違うし…」
「人も多いしね。緊張もあったのかも」
よしよしと背中をさすり、口の中に残ってある物を出させた。涙目でえずく姿は居た堪れなくなる。
「キアごめん。アーシャを家に連れてってくれるか?私は婆さんを診なくてはいけなくて」
「うん。いいよ。アンジェが戻るまでアーシャと一緒にいるね」
「いや。ロイがいるから預けてくれればいいよ」
「ロイさん来てなかったの?来るって言ってたのに」
そういえば姿がない。ディルもいない。目立つ姿が見当たらなかった。
「ディル君が飛びついてきたんだって?妙なテンションだから置いてきたよ。ロイは見張りさ」
「あー…。ええと…」
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「気にしないで!心配いらないよ。体が回復期に入ると自ずと気分が上がるものだ」
「傷が開いたりとかしてない?」
「全然。あんなに大きな傷だったのに大したものだよ。傷口もきれいになってきた。ただね、」
「…調子に乗ると…」
皆まで言うなと。
「そういうこと」
キアとアンジェは笑い合った。
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