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第4章
35 食事会 1
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シャドウとキアが次にお互いに顔を合わせたのは、夜も更けてきた頃合いだった。
森の中から戻ってきたシャドウは、何やらナユタからお小言をもらっていた。聞こえないフリをして大きな体が斜めに傾いていた。
「キア。こちらシャドウさん。今日から宿のお客様です」
ナユタは斜めになったシャドウの体を元に戻すように腕を引きつける。あやしくないよとキアに耳打ちをする。
「取ってつけたように言うなよ…」
適当な紹介をされてシャドウはムッとした。
「あ、はい。…キアです」
きちんと顔を合わせるのは初めてだ。キアは軽く会釈をする。宿でのゴタゴタは一度水に流そうと進言された。
キアはシャドウの顔を見上げるも、ごにゃごにゃと口籠る。ワンピースのスカートの布地をぎゅっと掴んだ。自己紹介するにも、名前以外のことを口に出すには抵抗があった。番のことは外から来た人間には言わないようにとキハラにきつく言われていたからだ。
ナユタがシャドウに口を割っていたことは、キアには知らされてなかった。
「…シャドウだ。さっきは失礼をした」
シャドウも会釈をした後に、一言、二言しか口に出すことはなく、すぐにキアから離れた。
ムジの宿で食事会が開かれた。ナユタやナノハ、アンジェや村の住人や若者たちがぽつぽつと集まり出した。香油の入ったランプに火が灯り、夜でもお互いの顔はわかるようになった。
宿の前の広場に大テーブルを置き、さまざまな料理が並んだ。焼きたてのパンは数種類。プレーンとドライフルーツ入り。空炒りした木の実が入っているのもある。色とりどりの根菜を大きめにカットし長時間煮たスープ。魚は一口大にカットし、油でからりと揚げてある。塊り肉は軽く塩胡椒を纏わせ、蒸し上げて薄くスライスして盛り付けている。塩味と酸味のする香辛料が鼻を通り抜けていく。子どもたちには甘いジュースが配られ、キャッキャッとはしゃいでいた。
こういった大人数での食事会は、買い出しの前や、村で何かしらが起きた時に開かれる。
今回は言わずとも「あの件」だと皆はちらちらと若者たちに視線を送った。件の老婆は姿は見せずにいるが、当事者の若者たちは隅っこで固まっていた。
あからさまに落ち込んでいる者もいれば、あっけらかんと笑い声を上げている者もいる。二人の態度の対極さを見比べている者もいる。若者括りで一緒にされては困ると離れて座る者もいる。皆、三者三様の姿に村人たちはひそひそと噂話を始める。
彼らをかわいいだの、やんちゃだから仕方ないだのと可愛がっていた婦人たちには冷たい視線が送られていた。
「ここは大人数で暮らしている場所だ。気に食わねえ相手がいてもおかしくはない。だがな、人としての尊厳が何かをしっかりと理解しろ。やみくもに力で押さえつければ遺恨が残るだけだ。嫌いなら嫌いなままでいい。だが、相手を敬う気持ちも大事だってこと忘れるなよ」
ムジが席につくと散らばっていた住人たちもわらわらと席についた。キアはナユタたちにくっついて向かい合わせで座った。隣にはシャドウ。その隣にアンジェとアーシャがいた。ムジの言葉の後に、皆は果実酒が入った器を手に持ち上げた。
「次の買い出しにはうちの連中とナユタのところのキアを連れて行く。今回行けなかった者は、次回は行けるよう準備をしておけよ。またつまらないことで騒ぎを起こしたら、それ相当の罰を与えるからな。覚悟しておけよ!」
二度目はないぞとムジはじろっとアドルとハゼルを睨んだ。アドルはもうしません、もうしませんと両手を合わせて何度も何度も頭を下げた。対極のハゼルは足を組み、椅子ごと後ろにのけ反るように腰を掛け、「へへへ」と舌を出してはおちゃらけていた。反省の色が全くないハゼルを見て一同は言葉を失くした。
「ああ。コイツはまたやるな」と確信が持てた。村を出ていくのはシダルではなくて、こいつの方がいいんじゃないかとムジは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「若者の教育も俺らの仕事だな…」
吐き捨てるように呟いた。周りにいた大人たちはうんうんと頷く。
「ムジさんが出かけている間にとっちめてやりますよ!」
「ああいうヤツらはとことん教え込まなきゃいかんですよ!実践実践!!」
「ああそうだな!」
いつの間にかムジを囲んで村の男たちが集まっていた。食事をしながら眉間にシワを寄せて話し合っていた。
「食事の時くらい楽にすればいいのに」
二つ三つ席を空けて、ナユタたちは食事をとっていた。
「ほんとよねぇ」
「いつまでも甘やかしていた結果がこれだものね。ここから変わらなければダメね」
「自業自得だな」
ナユタをはじめ、皆それぞれが意見を口に出す。キアは言葉を挟まずに、うんうんと頷きながら食事をしていた。スライスした肉にかかっている柑橘系のソースが気に入り、そればかりを食べていた。
「この会はシャドウさんの活躍にお礼をするって席だったのに。ムジのやつ、すっかり忘れているだろうな」
ナユタはナノハの隣に座るシャドウに声をかけた。
「余計なことは言わないでくれ」
シャドウは、余計なことには関わりたくないとでも言いたそうに目を伏せたまま答えた。フォークに肉を突き立てて、黙々と食べ始める。
「今じゃあなた村の英雄だからね。胸張っていいんだよ!」
「だから。本当に何もしてないんだから大袈裟に言わないでくれ」
ナユタのいじりをシャドウは辟易顔で返す。居心地が悪そうだ。何その顔とナユタは悪戯っ子のように笑った。
「シダル婆さんを助けてくれたでしょ。あの行動は今の村の住人にはできなかったことだから、本当にありがとうね」
若者の悪ふざけが度が過ぎていたら、もっと酷い目に遭っていたかもしれない。もしかしたら最悪な事態にだってなっていたかもしれない。そう思うと、誰もがシャドウの行動に感謝せざるを得ないのだった。
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