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第4章
25 まだ諦めたわけじゃない
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あなたの丸い背中が好きだった。
政務中のピンッと張り詰めた背中が、ひだまりの中で丸く溶けていく。きっちりと束ねた髪の毛を解くと、張り詰めた肩の力も抜けていくようだった。王女からただの女性に戻っていく姿は、私の緊張をもほぐしてくれた。
「おばさんなんてひどいわね」
私の顔を両手で包み込んでは、ガオッと大きな口を開けた。私はすかさず前足を口の前に出す。前足で口を封じる。そんなこと言ってないと。
「んふふ。かわいいわね」
ひと撫でも、ふた撫でも、私の頭をこねくり回す。
午後のひととき。執務の合間のほんのひとやすみ。
ひだまりにクッションとラグを敷いて紅茶をひとくち。お茶うけのクッキーも忘れずに。
「おいで。私の子どもたち」
王女の呼びかけに猫たちがわらわらと集まってきた。皆、思い思いにひだまりの中に入ってくる。戯れたり、伸びたり。まるくなる。
私はそんな彼らを見守りつつ、まぶたを閉じて眠りにつく王女をじっと見つめる。
「おまえもこっちへおいで」
名前を呼ばれるまで席を離れてはならない。
「レアシス」
王女のそばで眠りたがる仲間たちを尻目に、優越感に浸るのも楽しい。
王女は私の頭を撫で、体のラインをなぞる。
「いいこいいこ」と仲間たちも撫でていく。
「さあ。午後の仕事までひと休みよ。一緒に眠ろう」
王女の寝息が聞こえてくると、仲間たちもスヤスヤと眠りにつく。だが、私だけは眠ることはしない。そっと離れて、眠る王女を見守るのだ。
動乱の多い時代に生きて、さぞかし苦悩が多かっただろう。そんな中でもあなたの政治は統制があり、支持者も多かった。王族でも気取らない姿には好意的で人気が高かった。
政権が交代した後もあなたの人気は高く、仲間たちは離れることはしなかった。あなたの魂が地上から離れても同じだった。私もそのひとりだ。そばにいても、離れていても、私はあなたのもの。
猫から人間に転身しても、ヴァリウスの元についても、心はずっとあなたのものだった。
でも今、心も体も打ち砕かれて、息をするのもやっとな状況下で、探し当てたいのは、あなたではない。あなたの魂は、穏やかに、安らかに、誰からの妨害もされずに眠っていてほしい。
だが、あの人には生きていてもらいたい。たとえ魂が地上から離れていってしまったとしても、探し当てたい。いや、探してみせる。私の能力を使って!
どうか見守っていてください。
レアシスは心の中で繰り返し唱えた。かつて人生を捧げた女王に。
レアシスは深く息を吐く。まだ体が万全ではないのだ。でもいつまでも眠っているわけにはいかなかった。
保護された医者の家で、充分に養生をした。完全に怪我が癒えたわけではないが、歩くことはできるようになった。そして、ついに旅に出たのだ。目下の目的は雪の捜索だ。そのためには情報が必要だ。
どんな小さなことでもかき集めたい。レアシスは眉間に皺を寄せて歯を食いしばった。
「…あんたの意志はアタシだって同じさ。雪を見つけるまでは絶対に諦めない!!」
先を行くククルは、レアシスの感情を読み取り、ニャアと高い声を上げた。
「まったく、お前らときたらまだ体が治りきってないのに急かしおって!傷が開いたらどうしてくれるんだ!!」
ナイトメアはあからさまに嫌そうな表情で、やる気漲る二人を睨みつけた。ナイトメアもまだ体が本調子ではない。杖をつく手は血管が浮き出ていた。
「嫌なら戻っていいんですよ。ご主人」
「無理強いはしないよ」
続けざまに同じ解答を出す二人に対し、また顔を顰めた。
「なんだよ。いい身分だな!影付きめ!」
ナイトメアは悪態をつきながらも二人の後に続いた。
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