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第4章

24 あの子は誰?

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 「…人?なぜあんな場所に…」
 月のない夜にも関わらず、その姿は鮮明に映し出された。
 荒々しくもあり、神々しさもあるうねる光。大きな円を描くように森を囲み、あちこちで稲妻が走っていた。そんな光景をもろともせずに、吹き上がる風の中にいる人物。白い服とヒスイカズラ色の髪。服と髪の毛が大きく揺れていた。
 遠目で、顔は見えないが女性に見えた。祈りを捧げていたような手をほどき、両腕を空に向けて差し出す。何かを受け止めようとする仕草だ。シャドウは視線を空に向けると、白く光る物体がその腕の中に落ちていった。
 「くっ!!」
 まばゆい白光が視界を遮る。うねる白光体は先ほど見た龍のようなものだった。
 「あれだ!」とシャドウは指をさしてナユタに詰め寄るも、ナユタは素知らぬ風に笑みを浮かべるのみ。
 シャドウは痺れを切らしてもう一度窓の外を見るも、件の龍も、人の姿もなかった。
 「…あーあー。見られちゃった。あれはみずち。この村の主神だよ」
 「…みずち?大蛇か?」
 ナユタは興奮の冷めないシャドウを前に、仕方なしにキハラのことを話した。
 「新月の夜は儀式の日なんだ。森の浄化。本当は見てはいけないものだけど、見れてよかったね。シャドウさん」
 レアだよ。でも忘れてねとナユタは念を押す。
 「もう一度寝なよ」
 余計なこと言わないでねと更に念を押す。
 「あんなものを見たんだぞ。目が覚めて寝れるか!」
 シャドウは納得がいくはずもなく、むぅっと口を曲げる。
 「仕方ないなあ。一杯飲みます?妻が漬けた果実酒があるよ」
 春に採れたエルヒナの花の実が柔らかく熟してきた。赤い実で酸味が強いので、砂糖と実を交互に入れることにより、角がとれてまろやかな味わいになる。赤い色が酒に移り、見た目も華やかだ。夜な夜なナノハの楽しみとして重宝されている。家事が終わった後に少しずつ飲むのを楽しみにいた。時には近所の友人を集めて酒の席を作っていた。
 「悪いが酒は飲めない」
 「ええ~!とっておきの酒なのに!」
 ナユタは酔わせて忘れさせようと思っていたが、作戦虚しく失敗に終わってしまった。
 「じ、じゃあ。何か食べますか?シャドウさんずっと寝っぱなしだったからお腹空いてるんじゃないですか」
 どうにかしてシャドウの口を塞ぎたいナユタは、あれこれと提案していく。
 「…秘密にしていることなら無理には聞く気はないぞ」
 今となって思い返せば、サディカもここには主神がいると話していた。ナユタも軽口ではいたが、神様と口にしていた。
 「お?珍しいなあ。ここでひくの?さっきまであんなに興味津々だったのに」
 キハラを目にして、黙って見過ごしてきた人はそうはいない。大体があれは何だと詰め寄ってくる。
 「祀る神に配慮が必要なのは当たり前だからな。むしろ無礼なことをしてしまった」
 知らなかったとはいえ、こちらが悪いことをしたとシャドウは頭を下げた。
 「いやいや。いや!そんな謝られても!」
 ナユタも意外な反応を示すシャドウに対応が追いつかない。
 「オレは神殿の出だから」
 追い出された身とはいえ、崇拝する神仏に対する配慮は身に染みている。
 「なるほど。シャドウさんは神官様でしたか」
 「元、だ」
 「元」の言い方にだいぶ含みを持たせていた。一度神職に就いたなら、相当な理由がなければやめられないと聞く。それをやめたとなる理由は何事だろうかと気にはなったが、ナユタは何も聞かずにいた。
 「それより、」
 シャドウが気になったのはキハラではなく、人影の方だった。あのような場にいた人は何者なのか。そちらの方が気になっていた。
 儀式とはいえ、あのような大きい蛟を一人で扱っていたのか。
 「…人が、女性が見えたんだが、巫女のようなものか?」
 「あの子はつがい
 よく見てるなとナユタは眉をぴくりと動かした。 
 主神と番は二人でワンセット。秘密事項のことをつい口に出してしまうのは、シャドウが話しやすいからか。しまったと顔を曇らせても一足遅い。
 「つがい?」
 聞き慣れない言葉にシャドウは首を傾げる。ナユタは口を噤もうとするも、シャドウの質問の方が早かった。
 「…儀式に必要な存在だよ」 
 (仕方ない。触りだけ。一般常識的なことだけ教えてあげようとしよう。幸い、シャドウさんはキハラのこともキアのことも、何にも知らないようだ)
 ナユタは胸を撫で下ろし、簡単に説明をすることにした。
 「神殿の巫女のようなものか?」
 「そうだね」
 「若い娘だったな」
 シャドウがぽつりとつぶやいた言葉にナユタは反応した。
 「ちょっとちょっと!シャドウさんナンパしないでよ?主神のお気に入りだから勝手に声かけるとかナシだからね?食いつかれるよ~」
 「そういう意味で聞いたわけではない!」
 何言ってんだこいつはと、やや怪訝な顔つきでナユタを見上げる。
 「ホントに?顔赤くない?」
 「ない」
 「若い娘ってワードが気になるなあ。もしかしてお嫁さん探しとか?」
 「違う!」
 「勝手に連れてかないでよ?うちの奥さんのお気に入りだし、あ、もちろん僕もお気に入りだよ。泣いちゃうよ~」
 「探し人が女性だから、ちょっと気になっただけだ!」
 シャドウはしつこく絡むナユタを蹴散らすように、やや強く声を上げた。耳と頬を少し紅潮させて踵を返し、部屋の扉を荒々しく閉めた。
 「…おっとっと。おこりんぼだなぁ…」
 ナユタは「へぇ」とか「ふぅん」とか含みのある相槌をシャドウの部屋の前で繰り返した。

 「探し人は女性ねぇ…」
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