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第4章
7 先行き不安
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道すがら、短い会話を挟みながらも、ほぼ無言で黙々と歩き続けた。
「何かヤバいこと言ったかな…」とハゼルは心配になってきた。
反対にシャドウは、ラボに着いてからどうするのかを考えていた。
転移者(影付き)についてどれだけ調べられているのか。
元の世界に戻る方法があるのか。
雪を捜す手がかりが掴めるのかどうか。
実際に自分の目で見ないと判断はしにくいが、今後の身の振り方を決めなければならない。
このまま雪捜しを続ける気ではいるが、今のところこれといった有力な情報がない。城や神殿についての情報もない。ディルやレアシスも見つからない。
手がかりがないまま旅を続けるのはあまりにも不利だ。ここは一度、ザザか、もしくは神殿まで戻るのもいいかもしれない。マリーの様子も気になるところだ。
「あの~」
先を歩くハゼルが振り向き、シャドウの顔を覗き込んだ。気まずそうに話しかけてきた。
「なんだ?」
考え事をしていたため、ハゼルの存在を忘れていた。
シャドウはパッと顔を上げ、ハゼルの顔を見る。
大事な案内人を疎かにしてしまってはいかん。
「シャドウさん。腹、減りませんか?」
「は、腹?」
思っていたのとは違う発言にシャドウはどもる。
「朝メシ抜いてきたから、腹減っちゃって」
きゅるるるとハゼルの腹からかわいい泣き声がした。
「ふ、そうか。携帯食ならいくつかあるぞ」
シャドウは笑いを堪え、背負った荷物から小袋をいくつか差し出す。
干し肉や小魚。芋や炒った豆など、門所の前の屋台商から買ったばかりのものだった。
「いやいや!これはシャドウさんの旅の大事なものなんでしまってください!」
旅人の携帯食に手を出すほどバカじゃないですよと笑うも腹の虫は泣き止まない。大合唱だ。
「無理するな」
シャドウは叩いて薄く伸ばした干し肉を半分に裂き、ハゼルに渡した。
「細く裂いて何回かに分けて食べるといい」
時間が経てば腹にたまるとシャドウは実践して見せるも、ハゼルの口元は大きく動いていた。何度か咀嚼した後にゴクンと飲み込む音がした。
「あー、これうまいっすね!」
手には何もない。丸ごと口の中に放り込んだようだ。
「……そういうところだぞ!(話聞け)」
シャドウはハゼルの態度に目眩を覚えた。彼の上司が小言を言いたくなるのがよくわかった瞬間だった。
「え?なんすかぁ?」
ハゼルはあっけらかんとし、先を進んだ。腹の虫はまだ泣いていた。
シャドウは、ハゼルは何にも考えていないヤツなんだと思い直した。
大事な案内人には変わりないのだが…。
少々頭痛も出てきたようだ。こめかみがズキズキする。
「不安になる」
思いのまま口にした言葉にシャドウはハッとする。今後の行き先を暗示しているかのような言葉を自らが発してしまったことに頭を抱えた。
「こんなことではいかん!」
シャドウは迷いを振り切るように頭を左右に揺らし、先に進んだ。
「あー、ラッキー!水の宿の近くじゃーん!!」
シャドウの思いとは裏腹にハゼルの間伸びした暢気な声がまとわりついた。
「今度はなんだ!」
シャドウは声を荒げる。三歩進んだらすぐ忘れる。まるで幼児だ。
神殿にいた頃、マリーや年下の子どもたちといっしょくたになって遊んでいたのを思い出した。
あっちこっちから話しかけられ腕を引っ張られるわで、まるで収拾がつかない。それを大人がやるものだから、幼児よりずっとタチが悪い。
「この先にめっちゃうまい料理を出す宿があるんですよ!行きましょう!!」
ハゼルはシャドウの腕を掴み、スキップしながら進んだ。
「おい、道が外れてるぞ」
「まあまあまあ!腹が減っては先には進めないですよ!ラボはここからまだまだ先なんだから、いっぱい食べて体力つけましょう!!」
ハゼルはシャドウの表情の変化に気づきもせずに、さあさあと背中を押した。スキップもしていた。
有無を言わせずな態度にシャドウは早くも嫌気がさしてきた。ハゼルに依頼したのは間違いだったか。完全に見誤ったか。
「ナユタさーん、ナノハさーん」
「おう。ハゼル。お前朝会サボったろ!ムジさんが怒っていたぞー」
夫婦でやっている宿には、客の代わりに近所の住人達が来ていた。その中の一人、アドルが口をつぐ。
「ええっ!あっ、やべえ!忘れてた!!町に行くメンバー決まっちゃった?」
ハゼルは頭を抱えて顔面蒼白だ。
「いや。まだ決まってないよ。今日はそれどころじゃなかったから」
「マジ?なんで?」
「ガマジさんが怒りだしてさ」
「また?あのおっさん、ほんとタチ悪いな」
「な」
アドルとハゼル。同い年で気が合うのか、言葉遣いや物腰はさらにゆるくなる、二人揃うとろくなことがないと村の中でもっぱらの評判だ。
ハゼルはシャドウに背を向けて談笑に興じる。完全に忘れられているようだ。
シャドウは、ただ棒立ちをしていた。声をかけるのも馬鹿馬鹿しくなっていた。ラボの位置がわかる地図でもあれば一人で行ったほうが早いだろう。
「お客様をほったらかしでごめんなさいね」
手持ち無沙汰のシャドウに声をかけたのはナノハだ。柔らかな微笑みを浮かべて、こちらへどうぞと案内してくれた。席につくと水色のテーブルクロスが敷かれていた。焼きたてのパンと彩り野菜のサラダと芋のポタージュ。
「どうぞ」
「…ああ。ありがとう」
シャドウはハゼルを横目にしながらパンを割る。
ハゼルは先ほど声をかけてくれた女性から叱責を受けていた。やや、困り果てた顔をするも、ほんの数秒後には舌を出しておどけていた。やはり人選を間違えたようだとシャドウは諦めがついた。さて、この先はどうするか。
「お水をどうぞ」
シャドウの向かいの席に座ったのはナユタだ。汲みたての湧水をコップに注ぐ。
「どうも」
「ハゼルがすみませんね。お客様をほったらかしにしてしまって」
「いや…」
もう期待をする気が失せたので、何も言い返すことはしなかった。
「今日はこちらにお泊まりですか?」
「あ、いや。食事をさせてもらっておいてなんだが、泊まりに来たわけではない」
「くぅー、残念!!」
ナユタは大袈裟に頭をがくりと下げる。
「ラボというところに行きたいんだ。地図はないか?」
シャドウはもう一人で行く気満々だ。人に頼るから時間がかかるのだ。
「一人で行くのは大変ですから案内しますよ」
ナユタはハゼルを横目で見た。ハゼルの客かと小さく呟く。次いで、ラボに行きたい客なんて初めてだ。何の目的だろうとシャドウを訝しんだ。
「…なら頼めるだろうか。出来るだけ早く行きたいんだが…」
「いいですよ。ただ、理由は教えてもらえますか?あそこはちょっと特殊な場所で、理由もなく行く場所ではないんですよ」
ナユタはシャドウの全身を隈なく眺めた。荷物や服装の綻びまで至るところまで。荷物は少なめだが、旅人には違いなさそうだ。
「お名前を伺ってもいいですか?私はナユタといいます。あっちにいる妻はナノハ」
「シャドウ・ルオーゴだ。ラボには転移者について知りたいことがあるんだ」
「…転移者」
シャドウの言葉にナユタの頭の中には二人の人物が浮かんできた。
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