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第5章
32 願い
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「もう一度名前を呼んでほしい」
目が覚めた私はこう呟いたそうだ。だが、肝心な名前が思い出せなかった。誰に何と呼んでほしいの?と問われても答えられなかった。
私は、名前も素性も行き先もわからずに森の中で倒れていたそうだ。頭の隅の方でおぼろげに覚えているのは騒めく喧騒の中だ。
いつか誰かに告げられた余命宣告。
私を生かす為だと切羽詰まった気迫で小さな体で頑張っていた。
でもどうしても、素直に受け入れられなかった。非常事態でも、首を縦に振れなかった私をあなたはどう思っていたかな。答えを告げずに別れてしまったね。かわいいあなた。また会いたいな。
「あなたの記憶を三分割しましょう。ひとつは過去。ひとつは現在。ひとつは未来。あなたを生かす為には過去と現在を消しましょう。過去の記憶はあなたの体と共に元の世界に置きましょう。現在の記憶はここに置いていきましょう。あなたは色々と知りすぎてしまったから、忘れてしまった方がいい。この世界で出会った人のこと、今日までに聞いて、見て、触れてきた物を全て、消してしまいましょう。あなたの喜びも怒りも哀しみも楽しさも。私のことも忘れてしまうのは悲しいけれど、生きていてほしいんです!
私はまたあなたに会いたい。いつかまた出会える日を楽しみにしてます。あなたの匂いを頼りに必ず探し出してみせます!
会ってまた色々と話がしたい。私の毛並みが綺麗だと褒めてくれましたよね。再会する日までに念入りに手入れをしておきます。だからまた、優しい手つきで撫でてください。待ってますよ。ずっと、ずっと…」
小さな体の中にぱんぱんに押し込めた想いだ。いつか破裂しないか心配になる。
この人なら私を呼んでくれるかな?
それとも別の誰かかな?
名前を呼んで。
「私」を呼び起こして。
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