魔具師になったら何をつくろう?

アマクニノタスク

文字の大きさ
上 下
94 / 106
北の森のダンジョン編

第88話 獣人の少年

しおりを挟む
ダンジョン攻略から5日後、俺は王都へと向かった。
我が社の荷馬車を襲わせた黒幕がサン・ジューク男爵だと吐かせたまでは良かったが、相手が貴族となると我々の手には負えないので、ロック商会の大旦那に相談させてもらうのだ。
馬車は以前に購入したゴムタイヤ装着のマイ馬車を走らせている。
ちなみに馬は馬車屋からのレンタルだ。
御者はリポポさんが名乗りをあげてくれたし、その横には兎耳の少年も一緒にいる。
座席には俺とレナさんの2人だけ。
なぜにこんな珍しいメンバーなのかと言うと、その訳は3日前に遡る。


「それじゃあ、猛獣使いの当てが見つかったんですね。」

「おうよ、食品問屋の紹介でな。独立するんで移住を考えてるらしい。」

「この町に来てもらえるといいですね。」

ゴードンさんとの打ち合わせの帰りにバンズさんの食材屋へと寄り道していた。
食材を買って、世間話をしていると熱望していた猛獣使いの話になったのだ。
この話が上手くいけば、酪農によって食文化がもっと豊かになる。
つまりは、もっと美味しい物が食べられるようになるのだ。
そんな垂涎寸前の妄想をしながら店を出て、道を歩いていたので、うっかり女性とぶつかりそうになってしまった。


「きゃ!」

「おっと、すみません。」

ギリギリの所で衝突は避けられた。ヒラリと躱し、ジュルッと涎を隠した。


「すみません。すみません。」

ペコペコと頭を下げる青髪の女性。


「あれ、レナさんじゃないですか。」

「えっ、あっ、ガルドさん。」

「考え事をしていて、すみませんでした。大丈夫でした?」

「はい、大丈夫です。私の方こそ不注意で、すみません。」

レナさんはあの後からずっと獣人の少年の看護をしている。
サラから聞いたのだが、少年の名前はピートだそうだ。
ジャックさんの治療所にいるので看護の必要はないのだが、レナさん本人が望んでそうしている。
罪の意識を抱え込んでしまっているようにも見える。


「ピートも順調に回復しているそうですね。」

「はい。失った右足は戻りませんが。」

かなり気にしている様子だな。
少し痩せてしまっているみたいだし。


「俺も明日、お見舞いに行きますね。協力できる事があるかもしれませんので。」

「ありがとうございます。あっ、私ももう行かないと。」

深く頭を下げると彼女は町の雑踏へと消えていった。
2人を救う手助けを俺にも何か出来ないだろうか。
家に帰り、夕飯を食べながら、この事をサラに話すと、一緒にお見舞いに行きたいと言っている。
リポポさんもピートの事を気にしていたそうなので誘ってみる事に決めた。

翌日、スミスさんの工房にいたリポポさんに声をかけると、一緒に行きたいと言ってくれたので、ジャックさんの治療所へと同行する。


「リポポさん、新しい剣はどんなのにするんですか?」

「慣れている細身の剣でオーダーしたわ。スミスさんは良い鍛冶師ね。」

「スミスさんは腕も良いし、優しくて良い人ですよ!」

「そうよね。紹介してもらえて良かったわ。ありがとう。」

雑談している間に到着した。
助手のメアリーに事情を説明してピートの部屋へと案内してもらった。
ジャックさんが診察中らしいのだが、経過観察だけなので問題ないそうだ。


「ジャックさん、こんにちは。」

「よー、ガルド。活躍しているらしいな。」

「ぼちぼちやらせてもらってます。」

世間話を交えながら、ピートの具合について教えてもらった。
怪我や疲労からはすっかりと回復したそうだ。
レナさんが毎日、回復魔法でサポートしていたらしい。
しかし、右足は元に戻らない。
欠損部を再生させる回復魔法なんて無いらしい。
右足の膝から下を失ったピートだが、今日からは杖をついての歩行訓練も出来るそうだ。


「ジャックさん、相談があるんですけど。」

「どうした?」

「俺にピートの義足を作らせてくれませんか?」

「なるほど。義足か。」

「これを見てもらえますか?」

俺は背負っていたリュックから1枚の羊皮紙を取り出して広げた。


「ほお、設計図ってやつか。俺も義足を見た事はあるが作るのは初めてだな。」

「とりあえず簡易的ですけど、こんな感じにしようかと。」

ゴム製のソケットに木製の足が付いている簡単な構造だ。
拘れば関節も作れるのだが、まずは簡易な物で義足に慣れてもらおう。
ゆくゆくはピートの要望に応じてカスタムしていく方が良いだろうと考えた。

ジャックさんの許可も出たので、ピートに義足を作る事の説明をした。
不安そうな顔をしていたが、レナさんやリポポさんが励ましてくれたお蔭で、ピートの不安も拭えたようだ。

作業自体はピートのサイズを計測すれば、後は俺の固有スキルで各パーツを成形するだけだ。
設計図を描いてイメージも出来ているし、俺の魔力量も増えているので問題はない。
固有スキルだと気付かれないとは思うが、念の為に加工スキルで作っていると装っておこう。
さくっと義足を作り上げると、早速ピートの足へと装着してみた。
ゴム製のソケットに足を入れて、革のベルトで締めるだけだけど。


「痛い所はある?」

「んー。大丈夫です。」

ジャックさんの補助を受けて、ピートがベッドからゆっくりと立ち上がった。
支えられながらも懸命に慣れない義足を使って歩こうとしている。
最初はフラフラだった歩みも少し練習をすれば1人で歩けるようになってしまった。
ピートのセンスが良いのか、獣人はバランス感覚まで凄いのか。
ゆっくりとだが自分の力で歩いているピートには自然と笑みが生まれていた。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...