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北の森のダンジョン編
第86話 サイモンショック
しおりを挟む目を開けると森の中だった。
「ここは、北の森だよな?戻ってきたんだよな?」
さっきまでの体験が嘘のように感じられるが、戻って来れた事に安堵する。
その瞬間に背後の草むらが騒がしく揺れた。
驚いて後ろを振り向くと。
「じ~~じょ~~~!!」
草むらから飛び出して来た何かに飛びつかれた。
受け止められなくて、一緒に地面へと倒れ込んでしまった。
「痛たた。なんだよ。」
目の前には涙と鼻水でグシャグシャなサラの顔があった。
「師~匠~~!どこ行ってたんですか!?心配したんですよ。」
「いやぁ、それがさ。」
精霊女王様との出来事をサラとリポポさんに説明した。
「精霊の女王様だなんて、凄すぎて訳がわかりませんね。」
「だからトラちゃんがいなかったんですね!」
「俺も今でも信じられないよ。」
サラもリポポさんも、俺が突然消えたものだから、かなり心配してくれたそうだ。
しばらく辺りの森を探し回っていた所に、近くで神秘的な光が現れたので駆けつけてくれたそうなのだ。
「師匠!トラちゃんはどこにいるんですか?」
「そう言えば、姿が見えないな。出ておいで。」
すると、ポンっと俺の頭の上にライコが姿を現した。
「きゃーー!可愛いーー!!」
光の如き速さで俺の頭の上からライコはサラに攫われてしまった。
抱きしめたり、撫でたり、モフモフを楽しまれている。
リポポさんも興味津々なようで、ライコのほっぺをつついている。
彼女たちの興奮状態が落ち着いてから、ライコについても説明しておいた。
「へぇー、ライコちゃんになったんだね!改めてよろしくね!」
「ガウ~♪」
「雷の中級精霊ですか。ガルドさんは色々と常識の範囲外ですね。」
「まぁ、無事に帰ってこれたんで良かったよ。」
精霊女王様の事や巨大スライムとの戦闘、精霊魔導師の事など、詳しく話しながら町へと戻った。
町へと戻り、冒険者ギルドへ向かうと、ギルドは盛大な宴の真っ最中だった。
「英雄のご帰還だーー!」
「おぉーー!」
ギルドの扉を開けて入った瞬間だった。
近くにいた冒険者の男が俺たちを見るなり叫んだ。
それに呼応するようにギルド中の人々が興奮の声を上げる。
「どうなってんだ?これは??」
「ダンジョンが崩壊したので、ボスが討伐されたのは伝わってますし、これを見て叫んだのでしょう。」
ドヤ顔のリポポさんが自分の頭を指さしている。
「あー、なるほど。その角ですか。」
俺が納得していると、人込みが分かれて奥からサイモンの爺さんとクラナが現れた。
「他の冒険者からの報告で予想しておったが、まさか本当にガルドたちが討伐するとはのう。」
「みなさん、お待ちしてました。無事に戻られて何よりです。」
「疲れておると思うが、報告だけは先に聞かせてもらえるかのう。」
俺はリポポさんが頷くのを見てから頷いた。
報告する為にギルドマスターの部屋へと通される。
部屋に着くと同時にギルド職員がお茶を出してくれた。
リポポさん、俺、サラの順で並び、対面にサイモンの爺さんとクラナが座った。
「さてと、その角を見れば大王角を討伐したのは間違いないようじゃのう。」
「はい。大王角はダンジョンボスとなっておりましたが、どうにか討伐する事が出来ました。」
報告についてはリポポさんと既に打ち合わせ済みだ。
討伐したのはリポポさんで、俺とサラは支援したに過ぎないと言う事にしてもらっている。
町へと戻る間に口裏はバッチリと合せてある。
「なるほどのう。ガルドとサラ嬢も先程の報告の内容で相違ないのか?」
「はい。リポポさんの報告の通りです。」
「はい。私もその通りです!」
サラよ、棒読みが過ぎるぞ。
「本当にそうなのか?」
爺さんが疑いの目で見つめてくる。
サラは目を背けてしまっている。
「爺さん、疑り深い老人は嫌われちゃうよ?」
「なっ!ふんっ!!ええわい。どうせ報告を変えるつもりはないんじゃろう。」
「分かってるなら聞かないでよ。」
「まぁまぁ、ガルドさん。マスターも一応は仕事をしないといけませんので。」
「クラナまで儂への扱いが雑過ぎじゃ!」
「それよりもマスター、大事なお話があるのでは?」
「おぉ、そうじゃった。報酬についてじゃ。」
「たしか、討伐報酬が20金塊だっけ?」
「そうじゃ。お主らの配分はどうする?自分たちで決められるか?」
「リポポさん、どうします?」
「確かに報酬の配分で揉める場合は多いようですが、私は後で相談して決めても良いですよ?」
「なら1度、相談して決めましょうか。」
「そうか。金額が大きいので用意するのも時間がかかりそうじゃ。決まったら教えてくれ。」
俺が頷くと爺さんが急にモジモジし始めた。
いい歳した老人がモジモジしているのは見ていて気持ちの良いものではない。
「クラナ、爺さんがトイレに行きたいみたいだよ?」
「違うわい!!あれじゃ、そのぉ~、宝珠はどうするつもりなのかと思ってのう。」
爺さんが揉み手をしてソワソワしている。
そう言えば爺さんは宝珠の転売をしたがっていたな。
「あっ、宝珠なら私が使っちゃいました!!」
サラの言葉に爺さんは驚愕の表情のまま固まってしまった。
結局、爺さんが復活しなかったので報告はそのまま終了となった。
ギルドマスターが再起動したのはその日の深夜だったそうだ。
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