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北の森のダンジョン編
第82話 精霊裁判
しおりを挟む「人間の男よ、そろそろ目を開けるが良い。」
「えっ?」
俺は女性の声に呼びかけられて、驚いて目を開けた。
「えっと。ここは?」
目の前には幻想的な森の空間が広がっていた。
俺の正面には大きな木の幹があり、その根元には微かに光を纏った美形の女性が立っている。
「ここは、精霊の森じゃ。妾が其方をここへ召喚したのじゃ。」
「えっ。召喚?あなたは?」
「妾はティターニア。この辺りの森を司る精霊にして、女王であるぞ。」
「はっ!それは失礼しました。」
「ふむ。宜しい。」
女王様が音も無く近付いて来る。
よく見ると、少しだけ浮遊している。
女王様が纏っていた淡い光が小さな光の玉となって少しだけ、こちらへと飛んで来る。
「あの。これは?」
「下級の精霊じゃ。人間が珍しいのじゃろう。」
へぇー。そうすると、トラちゃんも元はこんな感じだったのかな?
「って、トラちゃんはどこ行った!?」
慌てた俺は首を振って左右を確認する。
俺の右後ろに立っていた。
「あぁ、良かった。別の場所に行ったのかと思ったよ。」
「ふむ。其方らを呼んだのは他でもない。その精霊についての事じゃ。」
「トラちゃんですか?」
「そうじゃ。其方はその精霊を長期に渡り拘束した罪の容疑にかけられておる。」
「えぇー!俺が罪にですか?」
「うむ。これより事情聴取ならびに裁判を始める。」
「さ、裁判!?」
突如、俺の足下から植物の蔓が伸びてきた。
あっという間に、俺の胴と足に絡みつき、正座の状態で拘束されてしまった。
「では、これより妾の質問へ正直に答えるように。」
「うう。はい、畏まりました。」
近付いて来ていた光の玉も驚いたのか、飛んで行ってしまった。
「それでは、まず。其方はなぜ、その精霊を召喚し、使役したのじゃ?」
「えーっと。ゴーレムの召喚に興味がありまして。俺の身を守ってくれると助かるなって思ったからです。」
「そうか。己の身代わりにと利己的な理由で使役したのだな?」
「そ、それは。」
そう言われてしまうと。反論できないな。
「通常のゴーレム召喚であれば、ごく僅かな時間でその契約は全うされるはず。にもかかわらず、其方は今までその精霊を意図的に拘束していたな?」
「うっ。それは、そうです。」
「ふむ。ならば、罪を認めるのだな?」
今までトラちゃんに悪い事をしていたなんて。
トラちゃんは嫌だったのだろうか?
俺が無理矢理に連れ回していたのだろうか?
「トラちゃん、ごめんな。知らなかったとは言え、非道い事をしていたんだな。」
トラちゃんが動き出そうとした。
しかし、蔓が巻き付いて動けなくする。
「そちはそこで大人しくしてるが良い。」
女王様が嗜虐的な視線を送る。
このお方は本当に女王様なのではないだろうか?
それもまた良いかもしれないな。
「お待ち下さい。お姉様。」
突然、割って入った女性の声。
どこからか緑髪の美しい少女が現れた。
「何の用じゃ?ドライアド。」
ドライアドと呼ばれた少女が足音も無く歩く。
女王の側まで進み跪いた。
「私に、この方を弁護する機会を与えて頂けませんでしょうか?」
「ほおう。そちが弁護とな?面白い。やってみるが良い。」
女王様が腕を組まれた。
大きく開いた胸元に深い谷間が出来上がる。
うぅー、解析スキルを使いたい。
しかし下手をすると命に関わるよな。
小心者の俺はビビってスキルを使えなかった。
「有難う御座います。お姉様。」
少女は立ち上がると、俺の側へと移動した。
「この方は、恩人なのです。嫌な木と呼ばれていた不遇の樹木に名を授け、汚名返上の機会を与えて下さいました。これには私達、木の精霊は感謝に堪えられません。」
「ほおう。その樹木とは?」
「ゴムの木と新たな名を頂きました。」
「そうか。」
女王様が腕を組んだまま熟考に入った。
下級精霊からも情報を得ているようだ。
「其の者の功績を鑑みたが、罪は罪である。無罪放免とはいかぬな。」
「そうですか。」
項垂れてしまう少女。
おいおい、そこで諦めちゃうの?
もう少し頑張ろうよ。
「あの~、俺の罪にはどんな罰があるのでしょうか?」
「そうじゃのう。」
妖しい笑みを浮かべて考える女王様。
楽しそうですね、女王様。
「それでは、其方には試練を与えるとしようかの。」
「試練ですか?」
「うむ。妾のペットと死合いをするのじゃ。」
「試合ですか。」
「うむ。死合いじゃ。」
何処と無く語感に違和感を覚えるのだが。
「ほれ、出て参れ。」
女王様が指でチョイチョイと呼び寄せると、地面に大きな魔法陣が展開された。
そこから現れたのは。
「うわー。でっけぇーなぁー。」
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