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北の森のダンジョン編
第80話 北の森のダンジョンその7
しおりを挟むリポポさんが敵を引き付けてくれている間に、俺は雷鳴の亡骸へと走る。
俺の目的は、彼の右手に握られたままの剣。
「悪いが、これはもらって行くぞ。」
剣の柄を握り、刃を見つめる。
思った通り、魔力の通りが良さそうな良質な鉄で作られている。
この業物の剣を魔改造する!
刃の根元に孔を空ける。
そして刃部分そのものを魔導回路に設定する。
そしてポケットから魔玉を取り出し、孔にはめ込む。
「よし、トラちゃんはリポポさんと交代して、敵を引き付けてくれ。」
トラちゃんが雷槍で牽制して敵の注意を引く。
「リポポさん、この剣を使って下さい。」
「これは、彼の?」
「はい、俺が改造してしまいましたけど。俺が合図したら、この剣を突き刺して下さい。」
「でも。刺さるかどうか。」
「やってみなきゃ、分かりませんよ。」
俺はトラちゃんの様子を見る。
やや押され気味だが、上手く敵の気を引いてくれている。
「よし!サラは俺の合図でアイツの脚を狙え。見逃すなよ!」
「分かりました!」
「いくぞ。」
俺はグレートホーンの背後から全力で駆け出した。
手に持っていたケルベロスはホルダーにしまった。
相手はまだ気付いていない。
全力で踏み込んで、ジャンプをする。
勢いをそのままに突っ込んでいく。
「よし。」
グレートホーンの逞しい背中に両手を突いて、さらに飛距離を稼ぐ。跳び箱の要領だ。
ブオォーーン
慌てた声を上げ、身をよじるグレートホーン。
だがもう遅い。
俺は首元に後ろからガッシリと抱きついた。
馬乗り、いや、鹿乗り状態だ。
そして角の根元を両手で握る。
バチンッバチバチ
暴れ回るグレートホーンの角に電撃が走る。
「ぐぬぬぬぬー。」
「ガ、ガルドさん!何を!!」
「リポポさん、大丈夫です!師匠は雷属性に強いんです。信じて待ちましょう!」
「わ、分かりました。」
振り解けない俺に苛つくグレートホーンが本気を出す。
跳ね回り、上下に揺さ振られる。
まるでロデオのように振り回される。
電撃もさらに強さを増す。
「うぎぎぎぎぎぎ。」
くそぉー。痛ってぇー。
でも手を離したら負けだ。
その時、グレートホーンが纏う魔力の光が薄れた。
「リボボざん、今だーー!」
リポポさんが剣を構える。
「ふぅー、はっ!」
一瞬にして消えたかの如く。
凄まじい加速で剣を突き立てる。
右の後脚の付け根に剣が半分まで突き刺さった。
剣の刃が黒く染まっていく。
「刺さった!」
「ザラッ、撃でぇ!」
「はい!」
サラの連射攻撃がグレートホーンの左前脚の膝に集中する。
弾かれる事もなくダメージを蓄積していく。
「やっだ!」
安心して油断してしまった。
振り回しに耐えられず放り投げられた。
高く宙を舞い、地面と激突する。
「グヘッ」
「師匠!大丈夫ですか!?」
「攻撃を緩めるな!」
「はい!」
リポポさんも、この好機に斬撃を浴びせる。
俺は肋骨をやられたのか、動く度に痛みが走る。
なんとか荷物まで戻り、回復薬を口にする。
ブオオォー
ついにグレートホーンの膝が崩れた。
前脚をたたんで前屈みになり、頭の位置が下がる。
「トラちゃん、決めてくれ!」
トラちゃんが高くジャンプをした。
そして雷槍を下向きに構えて落下する。
グレートホーンの延髄へと雷槍が入っていく。
完全に倒れ込むグレートホーン。
それきり動き出す事はなかった。
「やった!やりました!!」
「まさか、本当に倒せるだなんて。」
「やったぞ。俺たちの勝ちだ!」
勝利の喜びと生きている実感が身体の奥から湧いてくる。
「師匠!大丈夫ですか?」
サラとリポポさんが駆け寄ってくる。
「ああ、回復薬を飲んだから大丈夫そうだ。」
「もう!無理しないでくださいよ!」
「本当ですよ。どうなるかと思いました。」
「まぁまぁ。勝算はあったから。」
「でも、どうして攻撃が当たるようになったんですか!?」
「剣だよ。あの剣に魔力を吸収する魔導回路を設定したんだよ。」
グレートホーンに突き刺さった剣を見る。
しかし剣は刃が砕け、柄は地面に落ちてしまっていた。
おそらく吸収した魔力に耐えられず壊れてしまったのだろう。
柄の部分だけになってしまった剣を拾い上げる。
「師匠!見てください!」
サラの声に反応して顔を上げる。
グレートホーンの死体の上に紫の球体が浮いている。
拳ぐらいの大きさで整った球体をしている。
そして深い紫色は淡く光っている。
「これが・・・宝珠なのか?」
「私も初めて見ますが、たぶんそうだと。」
「綺麗ですね!」
手をかざすと、俺の手の中に収まった。
それと同時に、ダンジョンが大きく揺れだした。
慌てて宝珠をポケットにしまう。
「むっ、ダンジョンが崩壊を始めましたね。」
「わ、わ、わ、どうしましょう!」
「落ち着いて。脱出しましょう。外への境界があるはずです。」
「トラちゃんは、その子を背負ってくれ。レナさんは自分で走れますか?」
「あっ、はい。大丈夫です。」
「よし、行こう。」
荷物を持って脱出口を探しに行く。
レナは立ち止まり、後ろを振り返った。
グロートの亡骸を見つめた彼女は沈黙する。
そして再び振り返り、走りだした。
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