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北の森のダンジョン編
第65話 闇の魔力
しおりを挟むどれ位の時間が経ったのか。
見つめ続けた自分の影が揺らぐ、そして笑う。
俺はゆっくりと頷く。
「これが、闇の魔力。」
自分の手のひらを見つめて呟く。
闇の魔力なんてヤバい響きだ。
もしかすると目覚めてはいけない力に目覚めてしまったのではないだろうか?
でも、使ってみたい。
どんな力なのか?どんな効力があるのか?
それを利用すればどんな事ができるのか?
自分の好奇心を抑えきれない。
そんな葛藤を繰り返す。
チュン チュン
少しずつ工房が明るくなる。
夜が明けた。
考える事に疲れてしまった。
「一旦、寝るか。」
鈍く、重く感じる体を引きずってベッドに入る。そこで思考は途切れて眠りについた。
『ふふふ、やっと気が付いたね。』
『これからが楽しみだね。』
2人の少女が話している声が聞こえる。
誰だろう?初めて聞く声だな。夢なのかな?
「師~匠~、起きてますかぁー?」
サラが起こしに来たのか。
「うーん。もう少し寝てるよ。」
「なら、私はスミスさんの所に行ってますねぇ!」
「ふぁ~い、いってらっしゃぁい~。」
そのまま俺は惰眠を貪る。
「ふぁ~あ、よく寝た。」
今は、お昼過ぎぐらいかな?
昨日の夕食に作っていたシチューを食べる。
「うん。やっぱり試してみよう。」
結局の所、自分の好奇心には勝てない。
迷っている時点で諦め切れる訳ないんだから。
そうと決めたら早速!
シチューを急いで平らげる。
工房へと移動して悩む。
闇の魔力ってそもそも何なのだろう?
闇魔法自体が珍しく、ほとんど情報なんて無いからなぁ。
とりあえず、手の平に闇の魔力を集中させてみる。
火の魔力なら小さな火が、風の魔力なら小さな風の渦が現れる。
闇の魔力は手の辺りがほんのり暗くなった。
「暗くなった・・・闇を纏ったのか?」
闇を発生させているのか?
いや、そもそも闇は光の反射が少ないか無いかの場所のはず。
「そう考えれば、逆に光を吸収しているのか?」
そこからはとにかく色々と試してみる。
自分なりの仮説と実験で分かった事を増やしていく。
光を吸収したとすれば、他の火や水の物質や魔力はどうなのか?
吸収した物はどうなるのか?
何度目か分からない実験をしていた時。
「師匠、こんなに散らかして。どうしたんですか!?」
「わっ!ビックリした!って、なんだサラか。もう帰ってきたのか?」
「えっ、もうって。今はもう夜ですよ?」
「まじで?」
「はい。また何か作ってたんですか?」
「いや、ちょっと実験をね。」
時間にしておよそ10時間ぐらいか?
気付かぬ内にそんなに経っていたとは。
まぁ、おかげで色々と分かったから良いけど。
「師匠、バンズさんから前に言ってたバターってやつを買ってきましたよ!」
「おっ!ついに仕入れられたのか!!」
「こんな塊みたいなの、食べられるんですか?」
「まぁ、バターは食材ってよりは調味料とかに近いかなぁ。早速、バターを使った料理を作ろうか。お腹も空いたし。」
「私もお腹が空きました!」
冷蔵庫に入れてあったバッファロー肉をステーキにしてバターを少し切り取って肉にのせた。
ステーキ肉の熱でトロッとバターが溶け出す。
見た目で既に旨そうだ!
「いただきます!」
ナイフとフォークで切り分けた肉に溶けたバターを絡めてからパクっと。
「んっ!う~~ん。旨い!!」
「本当ですね!とっても美味しいです!!」
さすがに前世の市販のバターのようにコクや香りが良い訳ではないが、今までのただのステーキよりも遥かに美味しく感じた。
やはり酪農は今後の必須課題だな。
満足な夕食を平らげて、のんびりとお茶を飲みながら考える。
食器など洗い物や片付けはサラがやってくれている。
「闇の魔力か・・・」
今日で分かった事をまとめていく。
闇の魔力の性質は、ずはり吸収と考えて間違いないだろう。
何が吸収できるのかを試していったが、光や火、風、雷、魔力そのものなどは吸収が可能だった。一方で水や石、木材、鉄、林檎、虫などは吸収が出来なかった。
恐らくだが、質量が無い物なら吸収が出来るのではないかと考えている。
吸収された光や魔力がどうなってしまったのかは、まだ全く分かっていない。
まだまだ手探り状態だが、今日の実験結果は非常に大きな物だと感じている。
闇の魔力の性質を応用すれば、今までにない、まさに革命的な発明になると確信しているからだ。
これが上手くいけば、今までの魔導具の仕組みを一新出来るはずなのだ。
でも、今日は美味しい物も食べられて満足したので寝ちゃおうかな。
そう言えば、ヘッドライトの魔導具を納品するのを忘れてたな。明日にでも届けに行こう。
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