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町おこし編
第45話 王都の闇
しおりを挟むしかし、この若旦那。
さっきから1人でよく喋り続けられるな。
本題と思われる、ブーツの専売契約の話はさっき聞いたのだが、そこから大旦那への不満やフィルの悪口など、出るわ出るわで、かなり前から既に相槌さえ俺はしていない。
「まったく、親父も早く隠居して、俺に経営を任せれば良いのに。なんでフィルなんて田舎者を可愛がるんだぁ?」
なるほど、若旦那はフィルに嫉妬しているのか。跡目争いとかもあるんだろうな。
「はっ、フィルも大人しく俺の下に就いていれば良いものを、何が自分の力を試してみたいだ!きっとアイツは俺を出し抜くつもりなんだ。俺には分かる!俺は優秀だからな。」
この人は酔ってるのか?まだそんなに飲んで無いと思うのだが。
「ガルドくんもそう思うだろ?」
「えっ、はぁ。」
「ならフィルなんかよりも俺と商売をした方が良い。アイツがやろうとしている事なんてお見通しだからな!」
「それなんですが、なぜ知っているんですか?」
「はっはっはっ、それは商会の奴にアイツの動向を探らせているからだよ。アイツの動きは俺に逐一報告されるのさ!」
あらま、それ言っても大丈夫なの?
この人は口が軽いのか、酒に弱いのか。
商売の相手としては信頼できないと思うのだが。大旦那もその辺りを心配してたりするんじゃなかろうか?
「ガルドくん、そろそろ場所を変えようか。面白いものを見せてあげるよ。」
俺の返事を待たずに若旦那はウエイターへ合図を送る。
するとウエイターが部屋を出たと思ったら、すぐにまた入ってきた。
「準備は出来ております。こちらへどうぞ。」
「うむ。行くとしようか。」
ウエイターと若旦那に先導され、後ろには黒服マッチョが付いてくる。
逃げられそうにはないな。
廊下の突き当たりの壁をウエイターが押し込むと、隠し扉になっていた。
中は少し薄暗く、螺旋階段が下へと続いており、蝋燭だけが階段を照らしている。
階段を降りて行く。結構長い。
多分、地下まで降りたと思う。
階段を降りきると大きな鉄の扉があるだけ。
ウエイターが扉につけられた細い隙間に紙の様な物を差し込むと、ガチャリと大きな音を立てて扉が開いた。
中には革の鎧を装備したマッチョが2人、扉はこの2人が開けた様だ。
小さな部屋になっており、先には豪華な装飾のされた大きな扉がある。
「会員証とこちらへ記入をお願いします。」
ウエイターが声をかけると黒服マッチョが懐からカードの様な物を提示した。
そして何やら紙に記入している。
「今晩は137番の札となります。どうぞ。」
番号の書かれた札を受け取り、若旦那の胸に取り付けている。
「それではお席までご案内します。」
豪華な扉が開かれると、そこはとても大きな劇場の様な空間になっていた。
前方は大きな舞台になっており、そこを中心として扇状形に客席がたくさん設置されている。
客席はボックス席の様な造りになっており、前世のキャバクラを思い起こさせる。
客席はそこそこ埋まっている。
豪華の服に身を包んだ小太りの男や、3人の女をはべらす冒険者風の男。中には、仮面舞踏会のように仮面とドレスを着た貴婦人と紳士みたいな人もいた。
それぞれが酒や軽食を楽しんでおり。
何人かのウエイトレスさんが給仕している。しかしこれがまた露出の多いドレスを着た女性ばかりで、怪しい雰囲気を増していた。
席へと案内されると若旦那はワインを注文する。程なくしてウエイトレスさんがワインを運んでくる。
ワインをテーブルに置く際に前屈みになるので谷間が見えてしまう。
うん。Cカップだな。これだけ露出されていればスキルを使うまでもない。
おっと。この場の怪しい雰囲気に飲まれてしまう所だった。
理性を保っておかなければ、面倒な事に巻き込まれてしまうかもしれない。
「ここは、何なのですか?」
俺が若旦那に尋ねると、若旦那がニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「ここはね、オークション会場だよ。限られた者しか参加ができない、闇市場だよ。」
「闇市場のオークションですか。」
「察しの通り、ここでしか扱えない物がオークション形式で売買されている。例えば、盗品や奴隷なんかをね。」
「奴隷って。たしかこの国では奴隷は禁止されてましたよね?」
「あぁ、確かに奴隷制度は廃止され、奴隷の売買は禁止されている。しかし、ここではそれが可能なのだよ。」
「しかし、奴隷を連れていては取り締まわれるのでは?」
「はっはっはっ!君は下働きと奴隷の区別ができるかい?妾と性奴隷の区別は?」
「うっ。」
確かに、奴隷制度が廃止されても虐げられる者がいなくなった訳ではない。貧しい者は下働きとして奴隷と変わらぬ扱いを受ける。
重婚が認められている世界だ。性奴隷として扱っていようとも妾だと言い張れば、当人しかその事実は分かり得ないだろう。
「それに奴隷が逃走しないようにする為の薬もここで手に入れる事もできるそうだからね。制度は死ねど風習は残るものなのだよ。」
俺は華やかな王都が抱える闇の部分を見てしまった様だ。
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