異世界電気保安協会

片瀬祐一

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第二章:保安部のお仕事

第三話:部長のお手伝い

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 俺は早速服を脱ぎ下着姿になると、受け取った箱から中身を取り出す。
 黒の作業着に、工具一式、それから工具を腰に差す工具ホルダーが入っている。

「これが保安部四課の作業着か。ってなんじゃこりゃ!?」
 
 俺は作業服のステータスを見て驚愕した。
 身内を褒めるようだが、流石は大企業の支給品。
 材質は普通の布っぽいのに、付与された魔法効果が桁違いだ。
 そこらの冒険者の防具よりも遥かに性能が良い。
 
「聞いてはいたけどホントに桁違いだな。感心を通り越して呆れるわ」

 おっと、こんなことしてる場合じゃない。外では部長が待ってるんだった。
 そこでふと目に着いたのは、先日爺ちゃんたちに貰った『風雷棒』だ。

「一応『風雷棒』も持ってくか。さすがに置いて行くのもな」

 急いで着替えた俺は、工具を入れたホルダーに『風雷棒』も差し込むと外に出た。 
 外に出ると待ち構えていたのか、部長が俺を上から下まで舐める様に見る。

「なかなか似合うじゃないか、ライト君」

「ありがとうございます」

 社交辞令だろうが、美人に褒められて悪い気はしないよね。ジロジロ見られると寒気がするけど。 
「これで君も『保安官』の仲間入りという訳だ。しっかり頼むよ」

「はい! がんばります!」

 『保安官』とは、俺たち異世界電気保安協会の保安部職員の呼び名だ。
 愛称ニックネームみたいなもので、一般市民に広く知られている。
 初めは普通に『保安部職員』を略して『保安員』と呼ばれていたが、いつの頃からか『保安官』と呼ばれるようになったらしい。
 俺はてっきり、電気設備だけでなく時には街の安全を守るからかと思っていたのだが、部長曰く――

 「ああそれなら『保安員より保安官の方がカッコよくね?』ってことで保安官になったんだよ。深い意味? そんなの無い無い♪ ははは」

 ってことらしい。正直ちょっとがっかりしたよ……
 俺が幼少の頃に見た保安官は、それはカッコよくてさぁ。
 颯爽とトラブル解決に向かう保安官の姿。中でも黒服の保安官は、ダンジョンなどの危険区域担当で、俺を含めた子供たちの憧れだったのになぁ……

「あ~黄昏ているところ悪いが、あの看板を持ってこの地図の場所まで行ってくれ」

 部長に手渡された地図は、この街の外れにある異世界電力の施設だった。

「それからこれも支給する」

 そう言って部長が出したのは、通信用魔道具マギフォンだ。

「これは仕事用の通信用魔道具マギフォンだ。ここと、各保安官のナンバーが登録されている。何かあればこれで連絡をするように。保安官の身分証も兼ねているから失くすなよ」
 
「わかりました。では行ってきます」

 そう言って俺は通信用魔道具マギフォンを受け取りポケットに仕舞うと、看板を持って部長に見送られながら保安協会を後にする。

「でもコレ、本来の仕事じゃないよなぁ」

 ブツブツと文句を言いながらも、地図を頼りに目的地に向かう。
 俺は支給されたばかりの通信用魔道具マギフォンを取り出すと、登録された各保安官リストを見てみた。流石に自己紹介もしてないんだから知り合いは……あ、いた。

「クレア先輩も登録されてるな」

 俺がそうつぶやいた時、すぐ後ろから声がした。

「呼んだ?」

「え?」

 思いもよらない方向からの声に振り返ると、そこにはクレア先輩が立っていた。
  
「クレア先輩? なんで?」

「あはは、何でって事は無いでしょ? 仕事よ、仕事」

 クレア先輩は、赤い作業着に身を包み、笑顔で言う。

「私の担当は平民地区の、この辺が担当なんだ~。ライト君は? 黒ってことは四課だよね?」

「ええ、そうなんですけど、今は部長にコレを届けるように言われてまして」

 そう言って俺はクレア先輩に、部長作の『禍々しい感じのする立ち入り禁止の看板』を見せた。
 するとクレア先輩は露骨に嫌そうな顔をする。

「うわぁ、さっき部長が書いてたやつよね? 相変わらずの出来ねぇ」

「これ、凄いですよね? 見てるとホントに近づきたくなくなりますもん」

 俺の言葉にクレア先輩から思わぬ情報が寄せられた。

「噂じゃ部長の戦技アーツで書いてるらしいわよ?」

「え? 戦技アーツで?」

 俺は素直に感心した。戦技アーツのせいなのか。この禍々しさは。

「魔物除けの結界を張る戦技アーツらしいけど、それを看板に応用しているらしいわ」

 戦技アーツの情報は基本的に他人には漏らさない。
 他者に知られると戦闘になったとき不利になるからだ。
 
「旅する時には便利そうな戦技アーツですね」

「ふふ、そうね。あ、ごめんなさい、引き留めちゃって。私、もう行くね」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「そう? ありがと。じゃあまたね~ってそうだ。ライト君!」

「はい?」

 振り返ると、クレア先輩はちょっと怒ったような表情でこちらを見ていた。
 あれ? 何か怒らせるような事あったっけ?

「歩き通信用魔道具マギフォンは、危ないからやめなさいよ!」

「あ、はい。すいません」

 俺が謝ると、先輩は「素直でよろしい」と笑顔で頷いた。

 ――先輩と別れた後、ちょっと自己嫌悪に陥る。
 前にアルナに同じこと言ったのに、自分でやってしまうとは……気を付けねば。
 反省した俺は通信用魔道具マギフォンをポケットにしまうと、少し早足で現地に向かった。

 先輩と別れてからおよそ10分。ようやく目的地へと着いた。
 そこは異世界電力の施設で、街の外壁と一体になった頑丈な壁で覆われており、中は見えない。
 さらにその施設を囲む様に背の高い金網で覆われており、その敷地内を警備員が巡回している。

 この施設は通称『変電所』と言い、街の外壁に沿って何か所か作られている。
 ここで発電所からの超高電圧の電圧を降圧し、街中でも流せる程度の電圧まで下げるのだ。
 と言っても、感電すれば当然ヤバいけど。
 
「すいません。保安協会から来た者ですが」

 俺はそう言って、身分証を兼ねている通信用魔道具マギフォンを見せながら、金網の向こうにいた巡回中の警備員に声をかけた。
 警備員は最初は訝しんでいたが、俺の持っている通信用魔道具マギフォンと『立ち入り禁止』の看板に視線をやると、納得したような顔をした。
 
 その表情で俺も察する。
 どうやら話は通っているらしいな。正直面倒な事になるんじゃないかと心配したよ。

「ああ、聞いています。向こうに詰所がありますから、あっちへお願いできますか?」

 俺は警備員が指さす方を見た。
 金網の外に、小さな小屋が建っている。

「わかりました。失礼します」

 早速向かった小屋には、二人の警備員がいたが、ここからあっという間だった。
 てっきり看板を立てるところまでやらされるのかと思ったら、後はやっておくと追い出されてしまったのだ。結局なんだったのか良く分からないまま、初仕事――と言うかタダのパシリ――が終わった。

「なんかホントにただのお使い任務だったな」
 
 俺は次の指示を仰ぐため、部長に通信用魔道具マギフォンで連絡を入れる。

「あ、部長ですか? ライトです。看板の配達、完了しました」

「おお、ごくろうさん。じゃあ早速次の仕事だ。いったん戻ってきてくれ」

「わかりました」

 部長との会話を終えた俺は、そのまま保安協会へと戻る。
 この時、俺がまたこの施設に来ることになるとは、微塵も考えて居なかった。
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