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第2部
杉浦崇宏の大人げない内部視察
しおりを挟む――ちょっぴり時間は遡る。
「おっ前ねー、なぁーんであんなこと言うわけー? 大人げないよ? あんな言い方されたら、さすがのアオイちゃんだってポキッと折れちゃうでしょー?」
店裏に後輩を引っ張り出した杉浦は、開口一番、侑司を責めた。
――大体あれって “嫉妬” でしょーが! アオイちゃんがヤザワっちを庇うから思わずイラっとしたんでしょっ? 大の男がみっともないよ!
……くらいは言ってやりたかったのだが、言う前に身体中を細切れにされそうな視線を寄越された。……な、なな、なんだよっ! ぼ、ぼかぁ、せ、先輩なんだぞ!
「と、とにかく、起きてしまった事実は消せないのー。これ以上こじらせないことが、俺らの仕事なのー。プラスにならないダメ出しは無意味だよ」
「……すみません」
――おおっ? あ、謝った?
杉浦の目はパチクリと瞬いた。めっずらしー、こいつが非を認めるなんて(かなり不本意っぽいけど)。
ということは、嫉妬しちゃったって認めるんだな! お馬鹿さんめ!
……とは口に出せないので、代わりに大きく溜息を出した。
「……まったくさ、最近ちょっとおかしいんじゃなーい? アオイちゃんに対する風当たりがキツイってゆーかさー。……ワザと遠ざけるやり方は、あんましカシコくないんじゃないのー?」
カマかけ半分でじとーっと見つめてやると、侑司の眉がほんのわずかピクリと反応する。
「……戻りますよ」
「まあまあ、ちょっと待てってー。もうちょっと杉さんと仲良くお話しようよー」
背を向けて事務室に戻りかける侑司の腕を掴めば、あからさまに眉根を寄せられた。
……だからっ、先輩に向かってその “めんどくせー” って目はナンなのさっ!
杉浦が忙しい身を削って(……俺だって忙しいんだぞこれでも)慧徳に来たのは、本部クレームにおける事後対応フォローのためもあるけれど(……ぶっちゃけ「俺、担当じゃないしー」と思っている)、Tボーグと小鹿ちゃんの近況が気になっていたからでもある。
しかし意気揚々とお邪魔してみれば、やっぱり朴念仁サイボーグはことさら彼女に冷たく当たり、ダメ出しっぷりは以前にも増して辛辣だ。
確かに侑司の言うことは正論だが、店舗運営で正論ばかりが通るはずもない。そんなこと侑司だってよくわかっているはずだ。
可哀想に、水奈瀬葵のショックを受けた顔といったら、思わず駆け寄って抱きしめてあげたいくらいだった。……死にたくないのでやらないけどさー。
鋼鉄マシンらしくなく憮然とした後輩は、何も言わずそっぽを向いている。
ここ最近の彼は、目に見えて機嫌が悪い。元々顔に出ないタイプではあるが、自称黒河兄弟フリークの杉浦にはビンビンわかってしまう。
何が原因かは推して知るべし、けれどそんなの身から出た錆である。なのに、先輩である杉浦にまで殺人ビームを照射するのはいかがなものか。
……こっちはあの手この手を伸ばして、日々献身的な “火の用心” に努めているというのに! もっとこの杉さんに対して謝意を示してもいいんじゃないっ?
反抗期の我が子に手を焼く親のような心境で、それでも杉浦は、目下気になることをこの後輩にも忠言しておかなければならないのだ。
「まあ、そっちの話は後回しでいいや。とりあえずはクレームの件ね。言っておくけど、今回のコレは、明らかにおかしいよ」
ゆっくりとこちらを向いた彼に、杉浦は先輩の威厳を見せつけるべく、腕を組んで胸を張ってみせる。
「……ユージとカッシーは、そのカップル客を見ていないって言ってたよねー?」
「自分たちが異変に気づいてフロアに出た時にはすでに、店から出てしまっていました」
フムと頷き、杉浦はちらりと目だけ侑司に向ける。
「――どう思う?」
侑司はいったん目を伏せ、そして確信に満ちた視線を上げた。
「……そぐわない、と」
だよねー、と杉浦は大きく頷く。事のすべてを後から聞くだけであった杉浦でさえ、そう思った。今回のクレーム騒動は、色んな箇所がちぐはぐしている。違和感だらけだ。
「十中八九、そいつらの虚言であることは間違いないだろうさ。その客が世にいう “悪質クレーマー” である可能性は高いね。 “誠意を見せろ” とか言って、慰謝料を自発的に支払わせようと巧みに追い詰めていくあたり、常習犯のニオイがプンプンする。……なのにだ、本社へ宛てた苦情には、慰謝料請求も謝罪要求もない。連絡先も名前もない。あれだけ作りこんだネタを本社にまで入れといて、求めてくるものが何もない。つまり――奴らにとって、利得がない」
ちょっとばかし偉ぶって己の推論をひけらかすと、侑司も低く呟く。
「慰謝料が取れなかった腹いせ……にしては、微に入り細を穿ちすぎている……」
……なんだ、わかってるじゃん。杉浦の口端が上がる。
「そもそも、うちみたいなジャンルの店は悪質クレーマーから見れば、つけこむ “隙” に乏しいんだ。ましてやディナータイムだろ? 給仕人の目が赤外線センサーのごとく縦横無尽に交差している時間帯だ。いくら店長が若い女で、雇っているスタッフのほとんどがアルバイトだからって、やらせが露見する危険を冒してまで狙いたい店じゃない。実際、隣のテーブルの客に不審な行為を見咎められている。そういうことをやるには不向きな店なんだよねー」
常習性悪質クレーマーという輩は、当然、やりやすい店を選ぶ。飲食店などにおいて自ら異物を仕込むというやらせの場合、なおさらその傾向は強いだろう。
従業員の質、目の数と行き届く範囲、店の広さと死角の有無、客層と混み具合、客と客の距離、世間での認知度と評判……それらを総合して、なるべく容易く慰謝料をせしめることが可能そうな店を選ぶのだ。
杉浦の目から見て、慧徳の店は狙いにくい要素の方が大きい。だからこそ、おかしいと思う。
「――どうして、慧徳の店だったのか」
重々しく発したのは侑司だ。侑司と自分の思考がリンクしたようで、ちょっと楽しくなる。
「そうそう、あの本社宛てのクレームを見る限り、逆に奴らの目的が不鮮明になっちゃうんだよねー。しかも決定的に不可解なのは――、」
意味ありげに言葉を切った杉浦の視線を受け、侑司は再びぐっと眉をひそめた。
……ほぅ、そこも気づいていたか。まぁ、ずっと担当だったわけだしね。どうにも奇妙なあの記述に、気づいていないわけないよなー。
ならば、そこから辿る推論の道筋はほぼ一本に絞られてしまう、ということにも、侑司は気づいているだろうか。
杉浦は、彫像のように佇む後輩を、そっと窺う。
ここのところ頻度を上げて、杉浦の脳裏にスパンッと差し込んでくる “あの目” ――ほんの刹那、剥きだしになった “憎悪” の目。
妙な胸騒ぎを感じ、あの結婚披露パーティーの非公式二次会で、牧野夫婦や諸岡にそれとなく“火の用心” のご協力を願ったのは、ほんの数か月前だ。
用心するに越したことはない、程度の予防線であったが、なんとつい最近、諸岡良晃からまさかの入電――水奈瀬葵、嫌がらせ電話被害の疑い濃厚、の報告を受けた。
その事実の真偽を確かめる間もなく、慧徳店で勃発した今回の騒動。
――嫌な感じだ。非常に、心底、嫌な感じだ……
侑司には、あの “憎悪” を教えておくべきだろうか。
しかし、迂闊なことを吹き込んだが故に、殺人マシンが暴走しても困る。 “あの目” は、今の段階ではまだ、いくつか並べられた不安要素の一つでしかない。今回のことに関係あるのかどうか、何の確証もなく判断もできない。
どうしたものか……杉浦はハフ、と悩ましげな溜息を吐き、空を仰いだ。
まもなく侑司は『アーコレード』を離れてホテル店舗に戻る。極秘任務を遂行しなければならない彼は、これから相当の負荷を背負うことになるのだ。必要以上の警戒心を抱かせるのは、果たして良計か否か……
「――おぅ、んなとこで何やってんだ」
ふと割り込んだ声は、胡麻塩頭の佐々木料理長。コック着に着替えてはいるが、手には煙草の箱。口には既に一本加えており、仕込み前の一服、といったところか。相変わらずである。
「お久しぶりじゃないですかチーフー。ご機嫌うるわしゅー」
両手を広げて喜びの再会を演じる杉浦を、佐々木は遠慮なく拒絶した……足蹴りで。
「杉まで来るなんざ、大事になったもんだな。世話かけてすまんな」
絶対にすまんとは思ってない顔で、佐々木は煙草に火を点ける。
「チーフ? カッシーは上手に『ごめんなさい』ができましたかねー?」
杉浦がにんまり笑って尋ねると、紫煙を吐き出しながら鼻の頭にしわを寄せるチーフ佐々木。
「……あいつ、喋り出すと止まんねーんだな」
ぼそりと漏らした言葉に、杉浦はぶっは、と噴き出した。
「かの有名な宇宙戦争映画の金ぴかロボットみたいでしょー。すみませんねー、悪い奴じゃないんですけどー」
クククと笑いを噛み殺しながら、杉浦は慧徳店のみならず『アーコレード』のスタッフ全員に同情する。
ずば抜けた殺傷力と耐久力のサイボーグが、一転して、戦闘能力ゼロのお喋りドロイドへ。その変化に抱く戸惑いは決して小さくないだろう。
――まぁ、俺っちという優秀な人間が担当を外れても大丈夫だったんだから、サイボーグだろうが金ぴかロボットだろうが、問題ないでしょ。
杉浦が内心独りゴチていると、佐々木が侑司を向いて口を開いた。
「……なぁ、遼平のことなんだが」
手の中の空き缶に灰を落としながら、頑強な親父はいつになく思案気だ。
「今回のクレームを、思った以上に気にしてるようでな……、まぁこんなことでへこたれる奴じゃあねーが、あの話をした直後だったしな……もしかすっと……断るかもしれん」
「……話をした時、矢沢の感触はどうだったんですか?」
と侑司が聞く。いまいち話の掴めない杉浦は、聞きっぱぐれないよう黙って耳を空飛ぶ小僧のように広げた。
「迷ってたな。即答はしなかった。……そりゃそうだろ。うちの店のことはともかく、あいつんちは母親と二人っきりだ。下宿だなんだって簡単には決めらんねーさ。……それに、俺も散々脅しを入れたしな」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる佐々木を見て、何となく話の筋が見えてきた。
「ま、じっくり考えろ、とは言ってある。こっちも、年末年始はあいつがいねーと回らねーからなぁ。キリがいいのは来年の春ってぇとこか。国武は早けりゃ早いほどいいってせっつくんだが、本店の言いなりになるのも癪だしな」
なるほど、国武チーフ、か……ということは。
――本店への “引き抜き” だ。
本店が矢沢遼平を欲しがっている。驚くべき話でもあるし、さもありなんと納得する話でもある。
矢沢遼平の腕は、今やアルバイトコックにしておくには勿体ないレベルにまで上がっている。佐々木チーフの指導も良かったのだろうが、本人の努力あってのことだ。
おそらく料理長同士の会話で、遼平の話が出たのだろう。彼は慧徳店へアルバイト雇用された時から、いずれクロカワフーズに就職したいという希望を持っていた。しかも稀にみる筋の良さ。それを聞けば本店の料理長様は黙っていないはず。昔で言う “青田買い” というやつだ。
しかしながら、本店が学生アルバイトを取るのは異例中の異例、滅多にない話だ。杉浦が知る限り、黒河和史に次いで二人目。実現すれば、その道は厳しく険しいものになるだろう。
佐々木が遼平に対し “アマくねーぞ” と脅しを入れたくなる気持ちもよくわかる。
「――佐々木チーフ、この話、水奈瀬は」
侑司の問いかけに、杉浦の耳がピクピクッと反応する。
「ああ、あいつにはまだ言ってねぇ。水奈瀬はちっとばかし遼平に過保護なとこがあるからなぁ。遼平が自分で決めた時に自分で言わせるさ。受けるにしても、断るにしてもだ」
かかか、と笑って、佐々木は旨そうにもうひと吸い楽しんだ。
そして、短くなったそれを空き缶に押し込むと、よっしゃやるか、と腰を伸ばす。
「――そーだ、侑坊」
行きかけた佐々木が、ふと気づいたように振り返った。
「お前の血縁か親戚筋に…… “立花” ってぇ姓は、いるか?」
――立花? あ、それなら……と口を開きかけた杉浦より前に、侑司が「すみません」と頭を下げた。
「気づかれましたか」
「はは、やっぱりそーか。いや、最近までまったく気づかなかった。こないだ有名女優さんとやらと一緒に来てな、もしかすっと……って思ったわけだ。ずいぶん前から通ってくれる常連さんってのは知ってたんだが、まさかそうだとは思わねぇさ。……第一、名字が違う。 “立花” は旧姓か?」
楽しそうに笑う佐々木に、侑司は少しだけ気まずそうな色で頷いた。
「騙すつもりはなかったと、言っています。本当にこの店が気に入ったそうです。いつも我がままを聞いてもらって、かえって申し訳ないくらいだと。……そう言えば先日も色々サービスしてもらったようで」
「ああ、んなの何でもねーよ。足の手術が上手くいったって聞いたからな、ちょっとばかしのお祝いだ。おかげで連れのお嬢さんもお得意様になりそうだしなぁ……まぁ、あれは店ってぇより水奈瀬を気に入ったんだろうけどよ。おかげであわや “でーぶぃでー出演” だ」
「……話は聞いています。統括やGMとしては、断る方向のようです」
「ま、そっだろ。俺ぁ上の方針に文句はねぇよ。……ああ侑坊、俺は特に、変わらねーからな」
「……そうしてもらえると、彼女も喜びます」
侑司の答えに満足したような笑みを浮かべ、佐々木は裏口から事務室に戻っていった。
その背をポカンと見送り、杉浦はギギギ、と首を回転させる。
「……なぁんか、聞き捨てならないようなお話だったねぇ? どーゆーことだい? ユウジくん」
向き直れば、侑司は柄にもなく目を逸らした。
杉浦の脳内はフル回転だ。――立花? ……女優? ……旧姓? ……でーぶぃでー……?
「……なぁユージ。 “立花” っていうのはうちの奥さんの旧姓だ。そしてさっきの話の、足の手術云々からして、前からここに通っている常連の客ってのは――」
「祖母です」
「げっ、やっぱり!」
侑司の祖母とはつまり、黒河節子――『櫻華亭』本店の先代であり、クロカワフーズ設立者でもある故黒河正治の奥方である。彼女は、杉浦の妻圭乃の祖父の妹(いわゆる大叔母)でもあるのだが……彼女がここの常連客?
「――ってちょっと待った! 何で俺が知らないのさ! 俺、四月までここの担当だったわけよ? 慧徳には結構な頻度で顔出してたしさ、フロアに立つことだって多かったぜ? 節子さんに会ったことなんて一度も――」
と、言いかけて杉浦はハッと気づいた。……ウソだろおいおい。
つまり、俺のいない時を狙って――、か!
見れば逸らした侑司の鉄面皮に “自分は悪くない” って書いてある!
「……圭乃さんに、協力してもらったみたいですよ」
「あいつ、俺には理解ある妻を装いながら……!」
妻の圭乃は、ほとんど杉浦の仕事に口を出さない。帰りが遅くなっても、休みの日にグダッとしていても文句は言わない。時々構ってほしい猫のようにすり寄ってくる(それが可愛い)けれど、基本はこちらが切なくなるほど、干渉してこない。
ただ、稀に『今日は慧徳の方にも行くのー?』と聞いてきたことが何回かある。圭乃は幼稚部から高等部までを慧徳学園一貫で過ごしたから、何となく慧徳の地に愛着もあり、何となく興味が向いているだけだと思っていた。
まさかあの婆さん(無礼をお許しいただきたい)のスパイだったとは!!
「……杉浦さんには顔が知れているから、できるだけ会いたくなかったんでしょう。祖母は普通の客として扱ってほしかったようです。先代の奥方だと店の人間に知れたら特別扱いされてしまうと、思ったんですよ」
侑司の、駄々こねる子供に言い聞かせるような口振りが癪に障る。さっきとは完全に立場が逆転となったこととも知らず、杉浦はふーんだっ、とそっぽを向いた。
黒河節子に悪気はなかった、というのはわかっている。
黒河家、立花家双方、その頭数はとても少ない。その分、数少ない親戚は割と近場に固まって住んでおり行き来も頻繁だ。圭乃も娘の愛花を連れて、時折一人暮らしの大叔母を訪ねているようだし、あの圭乃の妹でさえ、ご多忙の身ながらよく見舞っていることも聞いている。
けれど、やはり足が悪くなかなか出歩けないせいもあって、寂しさや不便さは老婦人の身に応えるだろう。
一方で、この『アーコレード』慧徳学園前店が、昔の『櫻華亭』にどこか雰囲気が似ていると、黒河紀生社長から直々に聞いたことがある。
そういった背景から、懐かしい気分に浸りつつ、気兼ねなく煩わされることもなく、店のスタッフとささやかな交流を深め、食事をゆっくり楽しみたいという、老婦人の気持ちも察することはできる。
……だがしかーし!
杉浦は、己のその性格ゆえに、他人から故意に隠し事をされるのが大っ嫌い!なのである。(自分が隠す分には全く問題ない。むしろ習性)
――俺のいない時を狙って来るなんて水臭いじゃないか! 言ってくれればこの杉浦、いかようにも話を合わせることくらいできるというのに! じゃあアレか! こないだ一緒に来たとかいう “有名女優さん” っていうのもアレなのか! でーぶぃでー? DVD出演! そんな取材要請が本社に来ているのは知っているけど、まさか “チーちゃん” 絡みだったとは……!
……ちっきしょー! 俺としたことが、ぬかったわ!
――というわけで、先ほど後輩を偉そうに叱咤したことなどスッポリ忘れ去った杉浦は、大人げなくスネてフクれて腹立ちまぎれに八つ当たりをする。
「そうやって俺のことを除け者にしやがってー! ハブった奴は必ずハブられるんだからな! 後で後悔したって知らねーぞ! だいたいっ、お前にはヒトを思いやるあったか~い気持ちってのがないんだよっ! アオイちゃんの危機だってのに人妻とフラフラしやがってっ! お前みたいな冷徹マシーンはな、ドロドロ不倫沼にズブズブ沈んでデロンデロンに溶けてしまえばいいのさ!」
――サムズアップのままでなっ!……までは言えなかった。
侑司が「……不倫?」と反応した。
うっかり口を滑らせた杉浦は、この後、己の浅はかさと大人げなさを大いに後悔することとなる。
「……どういう意味ですか?」
鉄面皮の眼から放たれた最強殺人ビームは、杉浦を細切れ……否、みじん切りにするレベル、不覚にもその恐怖に耐えきれずチビッてしまう(小さじ一杯くらい)。
結果、小野寺双子兄弟がネタ元の “黒河侑司を巡る不倫ドロ沼劇場” を最初から最後までゲロゲロ吐く羽目になり、さらに何故かどういうわけか、先日諸岡から入電の “水奈瀬葵公衆電話不審着信被害疑惑” 及び “木戸穂菜美テレフォンカード所持使用疑惑” まで、ズルズル芋づる式に喋ってしまった。
杉浦の情報開示が進むにつれ、Tボーグ侑司の形相がどう変化したのかは……皆まで語るまい。
杉浦の名誉のために述べておくとすれば、彼は元来ここまで口は軽くない。むしろ収集した様々な秘密事項を、一人ひっそり楽しむことに生き甲斐を感じる男である。
しかし自業自得とはいえ、T‐1000を遥かに凌駕するT-Xレベルに上がったTボーグの逆鱗に触れれば、杉浦ごときの秘密主義など、元素単位にまで木端微塵なのである。
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