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第七話 身につけるべきもの

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「安く買い叩くだって? おいおい、冗談だろ? うちは良心的な価格で引き取ってるぜ? 妙なことを言わないでくれよ、アイーシャ」

 ローガンは反論するが、特に怒ったような口調ではなかった。そしてブレンをちらりと見て、言葉を続ける。

「暴れ狼の分はいいわ、管理組合の一頭一万で。問題は刃鴉と火炎蜂よ! 二万ぽっち? 嘘でしょ?! 四万よ、四万!」
 アイーシャは更に強気な口調で言う。ローガンは困ったように髪の毛をかき上げた。

「刃鴉が五羽分と火炎蜂四匹。一つ二千に色を付けて二万だぞ? 何の不満がある?」

「最近鉄が不足して金物が値上がりしてる。 それに火炎蜂も半年前から段々数が減ってる。どっちも品薄のはずでしょ? なのに今までと同じ価格なんておかしいわ! 値上げしなさい、値上げ!」

「むう……確かに鉄なんかは値が上がってるし刃鴉の刃を欲しがるところは多いが……やれやれ、敵わないな。しかし火炎蜂の方は大して変わってないからな、合わせて二万五千が限界だな」

「三万五千!」
 アイーシャは腰に両手を当て胸を張って言う。そう簡単に譲る気はないようだった。

「えー……じゃあ……三万だな? これ以上は無理だ」
 ローガンは自分の首を手で切るような仕草をした。生活にならない、死んでしまうという意味合いの仕草だった。

「ふうん……三万。ま、そのくらいで勘弁しといてあげるわ」
 アイーシャは満足そうに鼻を鳴らした。

「やれやれ。こんなに若い娘っ子なのにがめつさは人一倍だぜ」
 ローガンは勘定箱から代金を用意しながら呟く。

「商売上手と言って。若いってだけで値切られてるようじゃ調達士として未熟って事よ。私はそうはならない」

「エルデンも若い時は結構やんちゃだったがらしいが、しっかり血を引いているようだな」

「かもね? 早く、お金!」
 アイーシャが右手を突き出すと、その掌に銀貨が置かれていった。大銀貨二枚と小銀貨が二枚、合わせて十二万ダーツだ。

 アイーシャは受け取った銀貨に目を凝らし偽金や粗悪品でないことを確認する。エルデンから貨幣の見分け方についてある程度教えてもらっているので、アイーシャはその力を活用していた。

「おいおい、目の前で確認しないでくれよ。まるで俺が疑われているみたいだ」

「やましい事がないんならいいでしょ? ……ちゃんと本物っぽいわ。毎度あり!」
 言いながらアイーシャは銀貨を懐の皮袋にしまう。

「満足頂けたようで何より。あ、そうだ! 思い出した。最近山の方で狂い猪が出てるらしい。お前も狩りをする時は気をつけろよ」

「狂い猪?」

 そう言われ、アイーシャはブレンと顔を見合わせる。この間ブレンが仕留めた狂い猪のことかも知れない。

「何だ? 何か心当たりでもあるのか? それとも遭ったのか」
 ローガンが怪訝そうにアイーシャを見る。

「ううん、何でもない。森では気を付けるから大丈夫よ。いざとなったらこの魔導人形をおとりにして逃げるわ」

「はははは! そりゃいいや。便利な魔導人形の使い方もあったもんだ」

 ローガンとアイーシャは笑い合う。
 おとりにすると言われブレンは思わずアイーシャを見るが、アイーシャは素知らぬ顔だった。

「ま、何にしても気を付けるこった。ダンジョンも解放されて活発に動いてるらしいからな。山に漏れる魔力も多くなっているだろうしな」

「ええ、分かってるわ。じゃ、また来るわ」

「ああ。エルデンにもよろしく言っといてくれ」

 ブレンはローガンから受け取った雑嚢を畳む。アイーシャは店を出ていき、ブレンもそれに続く。

「おい、人形さん!」

 ローガンの声にブレンが振り向くと、ローガンは言葉を続けた。

「アイーシャはまだ未熟だ。僧侶の資格を取って一人前のつもりのようだが、調達士としての経験は浅い。エルデンも心配しているだろう。危険なことがあればあんたが守ってやってくれ……なんて、魔導人形に言っても無駄か」

「いや、分かった。アイーシャは僕が守る。僕の主だからな」

 ブレンはそう言い残し店を出ていった。ローガンは目を点にして、ゆっくりと閉じていくドアを見ていた。

「喋る魔導人形……いや、気のせいだな。登録された単語なんだろう。まさか人間みたいに喋る訳が……」

 ローガンは両手で頬をさすり、商品の在庫を数える作業を再開した。
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