27 / 40
第七話 身につけるべきもの
7-3
しおりを挟む
「安く買い叩くだって? おいおい、冗談だろ? うちは良心的な価格で引き取ってるぜ? 妙なことを言わないでくれよ、アイーシャ」
ローガンは反論するが、特に怒ったような口調ではなかった。そしてブレンをちらりと見て、言葉を続ける。
「暴れ狼の分はいいわ、管理組合の一頭一万で。問題は刃鴉と火炎蜂よ! 二万ぽっち? 嘘でしょ?! 四万よ、四万!」
アイーシャは更に強気な口調で言う。ローガンは困ったように髪の毛をかき上げた。
「刃鴉が五羽分と火炎蜂四匹。一つ二千に色を付けて二万だぞ? 何の不満がある?」
「最近鉄が不足して金物が値上がりしてる。 それに火炎蜂も半年前から段々数が減ってる。どっちも品薄のはずでしょ? なのに今までと同じ価格なんておかしいわ! 値上げしなさい、値上げ!」
「むう……確かに鉄なんかは値が上がってるし刃鴉の刃を欲しがるところは多いが……やれやれ、敵わないな。しかし火炎蜂の方は大して変わってないからな、合わせて二万五千が限界だな」
「三万五千!」
アイーシャは腰に両手を当て胸を張って言う。そう簡単に譲る気はないようだった。
「えー……じゃあ……三万だな? これ以上は無理だ」
ローガンは自分の首を手で切るような仕草をした。生活にならない、死んでしまうという意味合いの仕草だった。
「ふうん……三万。ま、そのくらいで勘弁しといてあげるわ」
アイーシャは満足そうに鼻を鳴らした。
「やれやれ。こんなに若い娘っ子なのにがめつさは人一倍だぜ」
ローガンは勘定箱から代金を用意しながら呟く。
「商売上手と言って。若いってだけで値切られてるようじゃ調達士として未熟って事よ。私はそうはならない」
「エルデンも若い時は結構やんちゃだったがらしいが、しっかり血を引いているようだな」
「かもね? 早く、お金!」
アイーシャが右手を突き出すと、その掌に銀貨が置かれていった。大銀貨二枚と小銀貨が二枚、合わせて十二万ダーツだ。
アイーシャは受け取った銀貨に目を凝らし偽金や粗悪品でないことを確認する。エルデンから貨幣の見分け方についてある程度教えてもらっているので、アイーシャはその力を活用していた。
「おいおい、目の前で確認しないでくれよ。まるで俺が疑われているみたいだ」
「やましい事がないんならいいでしょ? ……ちゃんと本物っぽいわ。毎度あり!」
言いながらアイーシャは銀貨を懐の皮袋にしまう。
「満足頂けたようで何より。あ、そうだ! 思い出した。最近山の方で狂い猪が出てるらしい。お前も狩りをする時は気をつけろよ」
「狂い猪?」
そう言われ、アイーシャはブレンと顔を見合わせる。この間ブレンが仕留めた狂い猪のことかも知れない。
「何だ? 何か心当たりでもあるのか? それとも遭ったのか」
ローガンが怪訝そうにアイーシャを見る。
「ううん、何でもない。森では気を付けるから大丈夫よ。いざとなったらこの魔導人形をおとりにして逃げるわ」
「はははは! そりゃいいや。便利な魔導人形の使い方もあったもんだ」
ローガンとアイーシャは笑い合う。
おとりにすると言われブレンは思わずアイーシャを見るが、アイーシャは素知らぬ顔だった。
「ま、何にしても気を付けるこった。ダンジョンも解放されて活発に動いてるらしいからな。山に漏れる魔力も多くなっているだろうしな」
「ええ、分かってるわ。じゃ、また来るわ」
「ああ。エルデンにもよろしく言っといてくれ」
ブレンはローガンから受け取った雑嚢を畳む。アイーシャは店を出ていき、ブレンもそれに続く。
「おい、人形さん!」
ローガンの声にブレンが振り向くと、ローガンは言葉を続けた。
「アイーシャはまだ未熟だ。僧侶の資格を取って一人前のつもりのようだが、調達士としての経験は浅い。エルデンも心配しているだろう。危険なことがあればあんたが守ってやってくれ……なんて、魔導人形に言っても無駄か」
「いや、分かった。アイーシャは僕が守る。僕の主だからな」
ブレンはそう言い残し店を出ていった。ローガンは目を点にして、ゆっくりと閉じていくドアを見ていた。
「喋る魔導人形……いや、気のせいだな。登録された単語なんだろう。まさか人間みたいに喋る訳が……」
ローガンは両手で頬をさすり、商品の在庫を数える作業を再開した。
ローガンは反論するが、特に怒ったような口調ではなかった。そしてブレンをちらりと見て、言葉を続ける。
「暴れ狼の分はいいわ、管理組合の一頭一万で。問題は刃鴉と火炎蜂よ! 二万ぽっち? 嘘でしょ?! 四万よ、四万!」
アイーシャは更に強気な口調で言う。ローガンは困ったように髪の毛をかき上げた。
「刃鴉が五羽分と火炎蜂四匹。一つ二千に色を付けて二万だぞ? 何の不満がある?」
「最近鉄が不足して金物が値上がりしてる。 それに火炎蜂も半年前から段々数が減ってる。どっちも品薄のはずでしょ? なのに今までと同じ価格なんておかしいわ! 値上げしなさい、値上げ!」
「むう……確かに鉄なんかは値が上がってるし刃鴉の刃を欲しがるところは多いが……やれやれ、敵わないな。しかし火炎蜂の方は大して変わってないからな、合わせて二万五千が限界だな」
「三万五千!」
アイーシャは腰に両手を当て胸を張って言う。そう簡単に譲る気はないようだった。
「えー……じゃあ……三万だな? これ以上は無理だ」
ローガンは自分の首を手で切るような仕草をした。生活にならない、死んでしまうという意味合いの仕草だった。
「ふうん……三万。ま、そのくらいで勘弁しといてあげるわ」
アイーシャは満足そうに鼻を鳴らした。
「やれやれ。こんなに若い娘っ子なのにがめつさは人一倍だぜ」
ローガンは勘定箱から代金を用意しながら呟く。
「商売上手と言って。若いってだけで値切られてるようじゃ調達士として未熟って事よ。私はそうはならない」
「エルデンも若い時は結構やんちゃだったがらしいが、しっかり血を引いているようだな」
「かもね? 早く、お金!」
アイーシャが右手を突き出すと、その掌に銀貨が置かれていった。大銀貨二枚と小銀貨が二枚、合わせて十二万ダーツだ。
アイーシャは受け取った銀貨に目を凝らし偽金や粗悪品でないことを確認する。エルデンから貨幣の見分け方についてある程度教えてもらっているので、アイーシャはその力を活用していた。
「おいおい、目の前で確認しないでくれよ。まるで俺が疑われているみたいだ」
「やましい事がないんならいいでしょ? ……ちゃんと本物っぽいわ。毎度あり!」
言いながらアイーシャは銀貨を懐の皮袋にしまう。
「満足頂けたようで何より。あ、そうだ! 思い出した。最近山の方で狂い猪が出てるらしい。お前も狩りをする時は気をつけろよ」
「狂い猪?」
そう言われ、アイーシャはブレンと顔を見合わせる。この間ブレンが仕留めた狂い猪のことかも知れない。
「何だ? 何か心当たりでもあるのか? それとも遭ったのか」
ローガンが怪訝そうにアイーシャを見る。
「ううん、何でもない。森では気を付けるから大丈夫よ。いざとなったらこの魔導人形をおとりにして逃げるわ」
「はははは! そりゃいいや。便利な魔導人形の使い方もあったもんだ」
ローガンとアイーシャは笑い合う。
おとりにすると言われブレンは思わずアイーシャを見るが、アイーシャは素知らぬ顔だった。
「ま、何にしても気を付けるこった。ダンジョンも解放されて活発に動いてるらしいからな。山に漏れる魔力も多くなっているだろうしな」
「ええ、分かってるわ。じゃ、また来るわ」
「ああ。エルデンにもよろしく言っといてくれ」
ブレンはローガンから受け取った雑嚢を畳む。アイーシャは店を出ていき、ブレンもそれに続く。
「おい、人形さん!」
ローガンの声にブレンが振り向くと、ローガンは言葉を続けた。
「アイーシャはまだ未熟だ。僧侶の資格を取って一人前のつもりのようだが、調達士としての経験は浅い。エルデンも心配しているだろう。危険なことがあればあんたが守ってやってくれ……なんて、魔導人形に言っても無駄か」
「いや、分かった。アイーシャは僕が守る。僕の主だからな」
ブレンはそう言い残し店を出ていった。ローガンは目を点にして、ゆっくりと閉じていくドアを見ていた。
「喋る魔導人形……いや、気のせいだな。登録された単語なんだろう。まさか人間みたいに喋る訳が……」
ローガンは両手で頬をさすり、商品の在庫を数える作業を再開した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる